第32話 未知の来訪者
どれぐらい時間が経っただろうか。
みんなで肩を寄せ合って泣いていた時、唐突に開くはずもない礼拝堂のドアが開いた。
それもそうだ大人達は皆殺しにした。
子ども達はみんなここにいる。
決して開くはずがないんだ。
開く人間がいないのだから。
そしてドアを開けた張本人がゆっくりとこちら側に歩いてくる。
「うわー…。ひっでぇなこりゃ。」
男はシャツの袖で口を覆って言った。
俺はハッとなって立ち上がる。
「おじさん…誰…?」
村では見た事のない姿だった。
ワイシャツと深い紺色のベスト。だらっと結ばれたネクタイ。
雑に後ろに流された髪はオールバックというには些か心許ない。
「あー突然すまない。俺は銀河だ。」
そう言いながらゆっくりと歩みを進める。
なんだろう。この独特の緊張感。
こんなに見た目に覇気がないのに、何故だか空気がピリつくような感覚を覚える。
「それよりガキんちょ。これ…、お前がやったのか?」
そう言って彼は辺りを見回した。
椅子には首から出血した大人の遺体の山。
そして俺達が固まっているこのすぐ横には、首のないミト婆の遺体が転がっている。
「……。」
「沈黙は肯定とみなすぜ。」
返答に困っているとおじさんはそう言った。
「とんでもない神気(シンキ)を感じたんだよな。まさかこんな子どもとは…。」
「とりあえずさ、ここを出ろ。ガチんちょ。…言ってる意味分かるか?」
男はクイっと首でドアの方向を指した。
「みんなはここにいて…。」
俺はそう言って輪の中から抜け出る。
「ライラ待って!」
シオンが叫ぶ。
「大丈夫だから。」
そう言ったものの内心は混乱していた。
彼は何者なんだろうか。それにこの現状を作り出した実行犯である俺の特定が異様に早かった。
加えて神気というワード。
この流れから察するに、この大量殺人の詳しい話を聞かれるとか、捕まるとかそういうところだろう。それか神がらみの何かか。一体どう身を振るべきか…。
俺は黙って彼の後をついて外へ出る。
礼拝堂から出て、この広大な庭を真っ直ぐ歩く。
「ねぇ、どこまで行くの?」
「んー…。まぁこの辺でいいか。」
俺が質問すると、男は面倒くさそうに頭をかきながら言った。
「ガキんちょ。流石にあれははしゃぎ過ぎだ。弁明の余地もねぇよ。」
「成神なのか、逆神の使徒なのか知らんが、あれだとどうにもならんわ。」
その言葉を言った瞬間彼は、高速で右脚で俺の顔面に蹴りを放った。
きちんと見えていた。
予備動作から、当たる瞬間まで認識していた。
でも俺は神様だから、あれだけの拷問を受けても、もう傷つく事もないんだから。そう脳内で処理してしまったらしい。
通常働く反射機能がきちんとそれを危険と認識できなかったのだ。
俺はその蹴りをモロに顔で受け止めてしまった。
後方にはその蹴りのあまりの勢いで、空気そのものが一気に後ろに流れて、凄まじい風圧を放った。
衝撃がガンと頭に響く、それと同時にちょっと視界がグラつく。
踏ん張っていたはずが、気が付くと俺は地面に転がっていた。
「…ったいなぁ。」
そう言いながら立ち上がった俺は驚愕する。
地面にポタポタと血が落ちていたのだ。
誰の血だ?まさか…!?
そう思って自分の鼻を手で拭くと、鼻血が出ていた。
不死身の神の身であるこの俺が。
「マジかよ。…やっぱ立つか。」
男は苦笑いを浮かべてそう言った。
「お前誰だ?何者なんだ…?」
体勢を整え直して俺は言った。
「誰って…さっき名乗ったろ?俺は銀河だ。」
「何者って部分は説明してなかったな。」
そう言って彼は一度咳払いをする。
「俺は麒麟様の第二席使徒、銀河様だ。あの世でもヨロシク。」
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