第28話 ミト婆の策
俺の頭の中ではとにかく約束を完遂する事だけを必死に考えて動いていた。だから辛い現実を何度直視する事になろうと、足を止めず、可能な限りの速度で事を起こしてきた。
約束は二つ。大人全員を皆殺しにする事。残された子ども達を守る事。
俺はどうしても思考が前者を優先する形になってしまっていた。
加えて、早く終わらせてしまいたいという感情もあったと思う。
それとこの神の力だ。溺れてしまわないように、心を失わないようにと思って振るってきたが、決定打は神の鉄槌(カミノテッツイ)を放った後だろうか。完全にこの力を過信していた。溺れてはいない。だが、なんでもできるとバイアスが掛かってしまっていた。
俺が命じると神の言葉として素直に受けれて動くだろうとたかを括っていた。
「私達を殺させるなんてさせないわ。あなたが殺すのは麒麟よ。」
ふふっと笑うミト婆。
そしてパンパンと2回手を叩いた。
「入って頂戴。」
その声を受けて、礼拝堂のドアが開かれる。
大人達に連れられて、子ども達がゾロゾロと入ってきた。
俺は思わず苦虫を噛み潰したような表情になってしまう。
隔離していた子ども達をここに入れる事でまとめて処刑させないように布石を打ったのだ。
「さぁみんな、大人達の間に入って!急ぐのよ!」
続けて指示を出すミト婆。
まとめて焼き払うとかそういった事をさせない為に配置させたのだろう。
「はい。これであなたはおかしな真似はできないわね。」
そう言ってニコッと笑ったミト婆は、祭壇の階段をトントンと登って俺に耳打ちする。
「大人はみんなナイフを持たせてるわ。変なことしたら、隣にいる子どもを殺すように指示してあるの。」
そう言ってまた階段を降りる。
「ミト婆!!!!!!」
俺が立ち上がってそう叫ぶと、当の本人はシーっと俺の方を向いて笑った。
この状況でも笑うのか、こいつは。
それよりも内心、ミト婆への怒りより、その矛先は自分の方を向いていた。
もっと慎重に動けばよかった。もっと早く行動したらよかった。
俺が危険な神であると判断させる時間も与えず、指示や準備の時間も取らせず、完璧に動くべきだったのだ。そこをちゃんとしなかったから、こうして守るべき人達を全員人質に取られ、挙句誰にも手を下せない状況になってしまった。
**********
ライラが死んだという連絡を受けて、私は悲しみに打ちひしがれていた。
コウキチさんが死んだ時とはまた違う悲しみ。何年もかけて積み上げたものが、ガラガラと音を立てて崩れ落ちたような感覚に陥ったのだ。
それから30分もしないうちに、こんなに晴れているのに山の向こうで雷の音が数回した。
この空の異変は、あの日にどこか似ているような気がしたのだ。
入道雲を突き破り、轟音と共に現れた麒麟。
あの姿が一瞬頭の中で重なって感じたのだ。
咄嗟に電話を取って、施設にいる数人に電話をかけるが誰も電話に出ない。
ここで私は二つの事を確信した。
ライラが神になった事と、復讐を始めた事を。
そしてこれからライラが取るであろう行動を予測して、私が村のみんなに指示を出している時、窓の外に強烈な光が差して、その後一度大きく地面が揺れた。
みんなそれに動揺していたが、私の心は踊っていた。
これは想像以上だ。
世界中で生まれる成神。それらが討伐されるニュースは多いが、これほど大きな力を有する成神の出現は聞いた事がない。
私達はとてつもなく強大な力を有する神を降臨させる事に成功したのだ。
この数十年に及ぶ努力も無駄ではなかった。そう実感できて私の気持ちは高揚していた。
やっと第一段階は済んだ。次だ。
この神をきちんと私達の意思の下、コントロールする必要がある。
その為には使えるものを全て使わないといけない。
今までライラに与えてきたもの。ライラが積み重ねた時間。
私達が持ちうる全ての情報を活用して、きちんと我々の神として改めて育てるのだ。
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