第21話 復讐の雷
全身の筋肉という筋肉が、今までの感覚からすると遥かに早いスピードで対応する。それを処理する思考もそうだ。
例えばボールをキャッチする時、人はどう反応するだろうか。
運動神経が良い人や、その動作に慣れた人はいわゆる反射神経で、無意識的に身体が動き、ボールの落下地点に手を構える事ができるだろう。
またそれが慣れていない人、や俗に言う運動神経が悪い人の場合は、ボールを目で追って、この変かな?とあたりをつけて手を構える。通常より思考のステップが多い。
だがこれはどうだろう。立ち上がる、歩く、指を動かす。こういった基礎動作に「動かなきゃ」という意志は介在しない。
俺の今の動きはまさにそれだった。
反射神経を遥かに凌駕したそれは、神である俺にとっては、ごく自然な動作でしかなかった。
生まれ変わったこの身体は、通常の人間であれば脚の骨が粉々になり、筋肉がブチブチとちぎれてしまうような動作でも、いとも容易くこなす事ができた。
それに加えてこの電気を操る力。
電子の速度でそれが行われるのだ。本気で踏み出すその一歩で、俺はほとんど瞬間移動に近いレベルの移動が可能となっていた。
散雷(サンライ)を皮切りに、皆が待ち望んだような神でない事を確信した大人達は、まるで蜘蛛の子を散らしたように逃げ惑う。
俺をそれを一人、また一人と高速で頭を殴り飛ばしていく。
ほとんどショットガンのように放たれる13歳の神の拳は、大人の頭蓋を易々と砕き、逃げ惑う大人達の頭を血の爆弾のように変えていった。
駐車場に停めてあった車に飛び乗る者が視界に入る。
俺はそれを確認すると、右手に生成したバチバチと音を立てる緑色の雷の槍を躊躇なくそれに放つ。
「雷槍(ライソウ)!」
光の速度で放たれる雷槍は、車のボディを紙切れのように貫いた。
戦車の砲弾が被弾したかのように、車のガソリンに引火して勢いよく吹き飛ぶ。
「おーっ!いいね!!!」
俺がグッとガッツポーズをする。
「や、やめろ…。」
背後からするその声に、俺は一切振り向きもせずに応える。
「……嫌だね。」
馬鹿を言っちゃいけないぜ。
こちとら溜めに溜めた怒りを絶賛爆発させ中なのだ。
それも数十年続いた悪習で、死んでいった子ども達全ての怒りを背負って。
「ライラ…。お前は優しい子だろ…?なぜこんな…?」
シュウジおじちゃんは祭壇の下で腰を抜かしたまま、動けないままでいた。
「俺達はお前に尽くしてきたはずだ…。清潔なベッドに美味しいご飯。勉強も教えたし、沢山遊んだ。それなのに…こんな…。」
「俺も……色々言いたい事があるんだよね。…でも、ほら。今忙しいからさぁ。」
右手で髪をくるくると指に絡ませながら俺は言う。
そうしながら、俺はペンサイズの雷槍を4本同時に投げた。
「があああああッ…!!!!」
俺はその悲鳴すらも一切見ない。
小さな雷槍はシュウジおじちゃんの両手両足を杭のように地面に打ちつけて固定した。
「だからそこで待機ね。」
俺は駐車場方向に歩き出す。
「やめろおおおおおおお!!!!!ライラあああああああ!!!!!」
遠くなっていくその声を、俺は完全に無視して歩みを進める。
運よく走り出した車もあるようだ。
駐車場から続くアスファルトの先に、小さくなっていく影が見える。
「面倒だなぁ。動くなって…。」
右手をピストルのような形にして、人差し指でそれを追う。
「いっけぇー!……バーンッ!!」
キラッと光る指先。
的確に放たれたそれは、ライラの望むがままに走り去る車に命中し、遠くで爆炎を上げた。
「…俺上手いな。」
我ながらちょっと感心する。
精度もさることながら、この新しい力を誰に教わるでもなく、ほぼイメージ通りに完璧にコントロールできている自信があった。
体内では常に増幅した電気信号を超高速で循環させ、必要な力を、必要な反射を最高のパフォーマンスで発揮している。
「走り出すと面倒だから…。」
また俺は片手を掲げて、空に自身の力の一端を送り込む。
それを受けて降り注ぐ散雷。地面が揺れ、雷鳴の轟音が鼓膜を揺らすが、それすら心地良い。
落下した稲妻は停めてあった数台の車を、燃え盛るだけのただの鉄の塊へと変える。
「よっしゃ!みんな待ってろよー!」
実に晴々とした気分だ。
全員分の恨み、俺が必ず晴らしてやる。
俺は右肩をブンブンと回しながら、施設の中へと入っていった。
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