第9話 約束

「ライラァ…。」


ハナは力なく言った。


「どうした!?ハナッ!?」


「……。」


彼女の口が力なくパクパクと動く。


「ハナ分かんないッ!?」


俺がそういうともう一度、力なく唇が動く。


「好き…だよ…ライラ。」


それは音だったのだろうか。

鼓膜を揺らしもしないその声は、俺の目でハッキリとそう聞こえたのだ。


なんで今言うんだよ…。


そんな悲しい姿で、ハナ。言わないでくれよ。


とめどなく涙が溢れた。


「俺も好きだ!ハナ!だから…だからもう1回ちゃんと聞かせてくれ!」


俺が必死になってそう叫ぶと、彼女は顔をこちらに向けて、からニコッと笑って。


「ライラ…。好きだよ。」


そう呟いた。



くそ!くそ!くそ!!!


どうにか…何かできないのか?


この気持ちはどう処理したら良いんだ。

ハナを今すぐ救いたい。どうにかして…。


「ははは…。ハナ頑張ったね。」


そう言ったのはツキコだった。

どうやら聞こえていらしい。


「わ…私さ、ハナがライラの事好きなの、なんとなく分かってたからさ。」


そう言って彼女はゴホゴホと咳き込んだ。

それと同時にダバダバと大量に吐血する。


「ツキコもう喋るなって!!!」


「ライラ元気過ぎ。」


乾いた笑い声を上げるツキコ。


「もう嫌だ。誰にも死んでほしくない!俺が!俺がどうにかして!」


ガシャガシャと鎖が揺れる。

どうしてこうも頑丈なんだ。


なんでこんな…。こんな…!


「…だったら。グフッ…!」


ツキコはもう一度血を吐いてから言葉を続けた。


「わ…たし達の代わりに…。ライラが神様になって、大人達を殺して。」


はぁはぁと荒い息遣いが聞こえる。


ツキコは一体何を今更言ってるんだ?

神様になるだって?


「神様だなんて…。誰もなってないのに、だっ…。」


「ライラならなれるよ。」


俺がそんな言葉を並べていた時に、そう言ったのはハナだった。


「ライラはなれる。絶対に。そう思う。」

「ライラは生きて、そして…。」

「シオン達を守っ…て。」


ハナは泣きながらそう言葉を続けた。


俺が神に?

本当になれるのか?


みんな…。みんな死んだのに?




俺達がそう話していた時、大人の一人が、


「次だ。」


そう言って他の人間にも何か指示を出した。

それを受けた人達がポリタンクを持って部屋に戻ってきた。


「かけろ。」


そう指示を出すと、ポリタンクの中に入った液体を俺達三人に頭からかけ始めた。

臭い。鼻をつく匂い。


「うぐっ…!グハァ…!」


気管少し入ってしまった俺は咳き込んでしまった。


「大丈夫だライラ。お前はきっと神様になれる。みんなも言ってるじゃないか」


そう言って俺は頭をぐしぐし力強く撫でられる。

この感覚、声色、覚えている。


俺の頭を撫でたその人は、合図をして他の人も部屋の外へと出るように指示を出した。そして自身も階段を登り、扉に手をかけて、ライターに火をつけた。


「大丈夫だライラ。俺は信じてる。」


ライターをそう言って投げた男。

途端に俺達の体は火に包まれる。轟々と燃えるその炎の隙間に確かに見えた。

見慣れたシュウジおじちゃんの顔を。


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