第8話 私のワクワク〜side ハナ〜
「髪長いの邪魔じゃないの?ツキコみたいに短くしないの?」
まだ髪を伸ばす前のライラ。
「これがね。綺麗なの。ほら。」
私はそう言って立ち上がって、ライラの前でくるっと一回転して見せた。
孤児院の庭の、比較的建物のすぐ近くにある木の下だったと思う。
初夏の日差しが私の金髪を暖かな陽の光の色に染め上げて、ふわっと髪の間を通り抜ける。
雨が降って、虹が掛かると光は分解されて七色に見えるのだと習ったけど、こうして何かが反射した時にも、光は目の中で分解される。
私の髪は金色だからよく光る。余計そう見えたのだろう。
「すげー…。ちょっと虹が見えた。」
恥ずかしげもなくそんなセリフを呟くライラ。
彼の言葉はいつも独特の視点にあった。
物を見る。考える。捉える。そういった工程を挟む時、ライラなりのフィルターとでもいったらいいのだろうか。そういったものを通して彼は世界を見ているらしい。
彼の口から紡がれる言葉はまるで本のそれだった。
本が好きな私にはワクワクが満ちていた。
本当はライラがシュウジおじちゃんの買い出しを真っ先に見に行くところについて行きたかった。多分その時のライラの言葉は私の渇望するようなワクワクに満ちていたのだろうけど、なんだか恥ずかしくて「一緒に行く」が言えなかった。
それからライラは髪を伸ばし始めた。
私とは対照的な真っ黒な髪。艶々としていて、金髪の私が夏空の太陽色だとしたら、ライラは快晴の冬の満天の星空のような輝きを放っていた。
あ、今のライラっぽいかも。
「何それ?」
授業が終わった2月の教室で私はビーズを束ねていた。
「シオン!びっくりするじゃない!」
えへへと笑う妹のシオン。
もう10歳になったのだから少しは落ち着いてほしいものだが、彼女は私とは違って、本より外遊びとかの方が好きで、どちらかといえばツキコに似ていた。
「髪留めをね。作ってるの。」
そう言いながら、ゴムにビーズを丁寧に通す。
その作業をまじまじと見つめた彼女は
「あーそれライラにでしょ。」
そう言った。
「っ!?」
びっくりしすぎた私は肩を大きく震わせてしまい、いくつかビーズを床に落とした。
「お姉ちゃん分かりやすすぎ〜。」
もう!と言いながら私がビーズを拾い出すと、彼女も合わせて拾ってくれた。
こういう優しいところはシオンのちゃんとした良いところ。
「なんで分かったの?」
「だって金色のビーズの髪留めなんて、キラキラ好きのライラにはピッタリじゃない。私でも喜ぶ顔が想像できる。」
「よっ…喜ぶかな?」
「絶対喜ぶでしょ。」
最後のビーズを拾ったシオンが言った。
「ライラにそれ渡すなら、お姉ちゃん、ライラに好きってちゃんと伝えなね。」
「……。」
いつバレたのかは忘れてしまったけど、シオンにはこの気持ちの事がバレてしまっていた。
というよりシオンが最初に言ったのだ。「お姉ちゃん、ライラのこと好きなんじゃないの?」って。
私にワクワクを運んでくるライラ。気がつけばいつも目で追っていた。
自分の好きなことに一生懸命なライラ。
競争事が好きでいつもみんなに仕掛けるけど、結局ツキコに負けちゃうライラ。
どんな姿もこの十数年となりで見続けてきた。
そんな生活からも、もう卒業だ。
寮に行ってしまったら、本当にそうそう会えなくなってしまうかもしれない。
ライラの一挙手一投足を私の目に焼き付けたかった。
カッコいいなんて思った事はない。それでも私はシオンに言われたその日から、どんどんライラの事が好きになっていった。
それから陰ながらシオンは私のこの初恋をサポートしてくれていた。
「今更言えるかな…。」
「言えるさ。お姉ちゃんはお姉ちゃんだもん。」
シオンは頑張って!と私の目の前でVサインをした。
ごめんねシオン。髪留め渡す時言えなかった。
あの時はこれを渡すだけで、私、精一杯だった。
それでも私はライラが好きだ。
だから向こうに行っても、寮が遠くても会いに行く。
今度はライラがどこかに行く時、「私も!」って言うんだ。
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