第4話 5人の晩餐
そんな思い出をふと思い出していた時に
「そんなに外出できるのかな?」
ツキコはテーブルから視線を移さずに言った。
「えー。出れないかな?」
「お前は本当に新しいもの好きだよな。」
さも自分には興味がないと言った様子のリュート。
「美味いもんがあればそれでいいだろ。」
「リュートはセンスないよねー。」
俺はふーんと嘲笑うかのような視線を送り、スプーンの先でくるくるとリュートの顔を指して言った。
あ、スプーンがキラキラしてちょっと綺麗だ。
「ライラそういうの良くないと思うよ。行儀悪いと思うの。」
ハナはため息混じりに言った。
「いいじゃん別に。」
「なんかムカつくから良くないんだよ。」
リュートもハナの意見に同調して、ベーっと舌を出して言った。
「リュートのそういうのも良くないの!」
テーブルをトンと両手で叩くハナ。
ハナはみんなのお姉さん的な役回りが多かった。
礼儀正しく、誰にでも優しく、真面目。争いごとは好きじゃないから、よく俺が事あるごとに色んな事を競争ゲームにするのだが、それにはほとんど乗ってこない。
一斉に走り出すハナを除いた4人が走り出す背中を見送って「怪我しないでねー!」と叫ぶのが通例だった。
「こういう時間もあと少しなのかなぁ。」
ニコニコと柔らかい笑みを浮かべながら言ったのはダンダだった。
1週間で村を出る。
学校の寮ではどんな風に暮らすのか想像もできない。
ミト婆に聞いても、「私はそこには見送りにしか行ったことないからねぇ。」
と受け流されるだけ。
簡潔に言うならば、事前情報はほぼなしの状態だ。
「でもみんな同じ学校でしょ?また集まればいいじゃない。」
そう言ったツキコだが、そう簡単にいつでも集まれる感じではない事はイメージできているようだった。
「まぁライラに何でも競争!競争!って言われなくて済むのは気分がいいわね!」
「でもツキコいつもめっちゃ本気で乗ってくるじゃん。」
「負けなんて気持ち悪いもん!そりゃ勝負は全勝よ!」
そういうツキコはとにかくスポーツ万能だった。走っても飛んでも、ついでに勉強のテストも大体一番だ。
この勉強に関しては生来の才能というわけではなく、彼女自身の努力の賜物だ。兎にも角にも誰にも、何においても負けたくないから、勉強でも一番でいたいというのが彼女のポリシーらしい。
とにかくよく動くから、長いと邪魔だと言って彼女の髪はショート。元が地黒な彼女は外遊びのせいで夏場は余計に黒くなる。
俺の思うカッコいい像とはややズレるが、この天真爛漫さや、勝ちにとことんこだわり努力する姿勢は彼女の魅力の一つだろう。
「本当みんな勝負好きよね。」
呆れ顔のハナはフーッとスープを冷ましながら言った。
「もうそんなに熱くないでしょ。」
その姿を見て、俺は隣でふっと笑って言った。
「な、なんとなくやっちゃったの!熱くないの分かってるもん!」
そう言って勢いよくスープを口に運ぶ。
楽しみだ。とは言ったものの内心やはり寂しい気持ちはあった。
裏庭も、孤児院も、この食事の雰囲気も。
全部が俺にとっては温かった。
そうして、平和な食事を終えるとあっという間に就寝の時間だ。
ベッドに潜り目を瞑る。
西陽の当たる窓辺の俺のベッドは毎日お日様の匂いがした。
残り一週間。いやもう六日か。この毎日を噛み締めて暮らそう。
そう思いながら眠りについた。
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