第4章十二話:怪人/勇愛惑星
平穏無事、これがどれほど良い事か。巣穴(私称)の穏やかな空間は心を安らげてくれる、安物のワイングラスにぶどうジュースを注いでそれっぽく気持ち良くなるだけで......
──ズゥン......
「......ん?」
カタカタと部屋の中にある物が揺れた、地震......にしては速報が流れず一回切り、まるで何かが落ちて来た様な音と振動。
「.........」
もし怪人案件だったとしても、探知機が鳴ってないので遠そうだ。その影響がこっちまで来るとかどれだけヤベーのか?って、思わないでも無いけど。
「まあ他の人達が何とかするでしょう、ラジオを付ける位で......」
『ください!本当に大変です!都心の一等地に巨大な怪人が出現しました!ここからでも見えるほど大きいです!前回出現した怪人とは比べ物になりません!』
あ、メール来た。総力戦になるとか何とか、めっちゃ頼んで来るやん。ラジオを切って、大急ぎで向かう。
「さて、間に合ってくれよ......」
自転車を途中まで漕いで、次は駆けて、変身して封鎖中の道路を通れば現場へ着く。
『結界は!?』
『まだ人手が足りません!』
『誰が時間を稼ぐ?!』
『雑魚多い!雑魚多い!』
『何人やられた?!』
「無線がもう滅茶苦茶だな......」
高層ビルかそれ以上ありそうな巨人、黒いモヤを吹き出しながら腕を振るう姿。巨人は何処と無く全身タイツの不審者に似てる様な気がする。
「ブラック!来てくれたか!デカブツを引き付けて止めるから、邪魔されない様に雑魚を足止めしてくれ!」
「レッドか、承知」
雑魚と呼ばれるのは、怪人のなり損ないっぽいモヤモヤした人型。普段より弱いが一般人には脅威、あまりにもスルスルと刀が通るので手応えが無い。
簡単に消えるが、大量に湧き続けてる様だ。
(空にドームみたいな何か......あれが結界とやらか?)
『よくやった!』
『これで結界外の被害は無いも同然だ』
『待て待て、結界に接触したら破壊される可能性がある!あんなデカイのは想定しておらんよ』
『やはり急いで倒す必要が』
『うちの最終兵器を投入する』
『こっちも同じく、あまり期待はするな』
『我々の最大火力をお見せしよう』
『それでダメだったらどうする?』
『......一応、結界の自爆機能がある。しかしその影響は』
先走ったのか、タイミングが悪いのか、既にキラキラした物があちこちから好き勝手な形で巨人へ飛んでいく。巨大な武器が飛んで行ったり、効果ありそうだがよろめくだけ。
あ、虹の様な光。全身タイツ集団に合体技とかあったんだね......
「って、倒せてないじゃないか!?」
あちこちで倒れてる、雑魚もまだまだ居るし変身が解けた奴等は致命的だ。使いたくなかった、本当に使いたくなかった、一体一ならともかく多数は自信が無い。
「ええい!この!」
巨人の前に立ち塞がり、使う気も無かった惑星の進行度報酬を起動する。
「『ここから先へ進みたくば、私を殺して見せよ』」
怪人達の視線が、一斉にこちらを向き同時に襲い来る。
無条件で私へ攻撃が集中するだけの進行度報酬、敵対者が攻撃しようとしたら何故かこっちへ飛んで来るだけなので背後や巻き込みには要注意。
大急ぎで人の居ない場所へ向かう。
(分かってはいた、分かってはいたけど!)
きっつい。雑魚怪人を撫でる様に斬り捨てて巨人の攻撃を避けて、次から次へと殺意高めな人型が襲い来る。斬って斬って、避けられない攻撃は甘んじて受けるしかない。
(無茶な動きをさせられる!)
刀が割れれば即座に再起動、間に合わなければ殴る蹴るや落ちてた武器も使わせて貰う。
「下がれ」
知らない声、怪人達が急に止まった。何処から聞こえた声なのか......上?
「ほう、誰かと思えば嫉妬の欠片......そうか、そうなったか」
片膝を付く巨人の膝上に見知らぬ人物、上手く顔を認識出来ない。いや、そもそも無いのか?高速で入れ替わってる様な印象を受ける。
「キサマ、名はなんと言う?」
「.........」
名乗ったら悪用される可能性がある、洗脳?呪術?それとも嫌がらせ?無線から聞こえて来る声は、あれが知性怪人だと騒がれてる。
「やれやれ、キサマは我々と同じ様な存在であろうに。我々の仲間にならないか?このオレがキサマを上手く使ってやろう」
え?なに?気持ち悪い......返答はその辺に落ちてる石ころ、瓦礫を投擲して答える。捻りを効かせた投擲は思ったより威力が出て[バシン!]と音が鳴って、首が[グリン]と回った。
「そうか、それが答えか......やはり人間は愚かだ、期待などするんじゃなかった!はなから分かってた事だ!さっさとその目障りな奴を殺せ!!」
もはや動きは見切った。一歩二歩で避けて、斬って斬って斬る。最小限の動きで最大限の効果を、刀をその場で維持し続け突っ込むやつは勝手に斬られてくれるから身体的には楽な物だ。
「何をしてる!そうだ、そうだ!最初からこうすれば良かった!」
雑魚が黒いモヤになり、巨人へと吸収されていく。何か更に膨らんでない?気のせいか?
(ガス欠になった奴等は正気を取り戻し始めたか?)
戦力になるにはまだ時間が掛かりそうだ。それに気付いたのか巨人は巻き込む様に腕を振り払おうと、ゴウゴウ音を立てながら振り抜いてきた。
「ほんの少しで良い」
ただの基礎、ただ普通に受け流すだけの技術。故に名は無い、右足を前に出し姿勢を深く、左の顔横へ刃を持って来る霞の構えから、切っ先を深く落とす特徴的な我流。
突然の突風で、巨人の腕へ引き寄せられそうになるがグッと堪える。
切っ先へ接触、添えた刀から身体へ衝撃が伝わり足から地面に分散されるものの、威力が直に来たため左足の骨は恐らくヒビが入った。
続いて山でも乗っかってるのかと思うほど重い逸らし、身体の構造的にピンと伸ばし、ただ耐え続ければ勝手に逸れる位置を必死に死守する。
起き上がった人の空間を維持出来れば良い、1mも無い空間だ、本来なら腕や脚が破裂しててもおかしくない威力だがスーツが守ってくれてる。
巨人の腕が通り抜けた後は、後ろへとてつもない威力で引っ張られ吹き飛ばされ......ビルへ衝突する。
(ーーーーっ!)
ちょっと待てこの高さから落ちては、グェ
「〜〜〜!!」
何とか立ち上がりビルへぶつかって砕けた刀も起動して構える、巨人から随分と遠い。
『ブラック!ブラック!少しでいいから大型怪人の足止めは出来るかい!?もう少しで大技を同時に放てそうなんだ!』
「了解」
パープルも無茶を言う、全身ズタボロでこの距離を移動するのは難しい。ならば
「使う事に......なるとはな......」
刀の動作を解除して、ほぼ全てのエネルギーを槍形成へ使用する。手の平から伸びて出現したソレは、今か今かと震えてる。
「......点火」
槍ロケットの打ち上げである、空を飛ぶ槍を確りと両手で掴んだまま進路の操作をする。
──ザン。
槍は巨人を斬り裂く様に、表皮をなぞる。グググッと進路を戻し再度
──ザン。
巨人へ攻撃する、再び、また、再度、繰り返し、他の準備が終わるまで何度でも。
(目が回る、気分が悪い、そもそも身体中痛い、早くしてくれ!)
地表の様子では完了したっぽいと判断。天高く槍を進ませ減速、片手で槍投げの体勢へ入りぶん投げる。
突き進む槍は枷が外れ、加速し続け巨人が防ごうと上げた腕へ突き刺さり......大爆発☆
巨人の腕が弾かれ、大きくあらわになった胴体へ殺到する多くの光線やら何やら。大穴を開けて、巨人は倒れ始めた。
(はえ〜凄い)
で、自分の心配をしなければ。五点着地......で殺せるか?この勢い、あ、ダメだこりゃ。身体動かない。
ドォン......
「ケホッ、ケホッ」
スーツのお陰で、死ぬほど痛いだけで済んだ。まだ動く必要はある、あっちの方か?身体を引き摺る様に移動して......ああもう、手が震える!
「人間め、どれだけの期間準備してたと思ってる......!滅ぼすのは後回しだ、再び準備して今度こそは......!」
ブスリ。
「......あ?これ、は」
「とどめは......確り刺す、それが流儀だ」
「バカめ、第2第3のオレが......なに?なぜ、予備の信号が途絶えてる。キサマ、何をした。何を......」
「.........」
他の怪人と同じ様に消滅するのを見届けた、ドロップ品は同じ様な物か。
「すぅ、ふぅ。まあ答えてやるか、毒だよ毒。怪人を自壊させるウイルス、みたいな物」
研究で偶然出来た一品、繋がりがあるならブワッと侵蝕して時差で自壊する物体。どこにも出てない怪人特効の秘密兵器、後で残りをパープルへ渡すけど。
(先に自壊するのが遠い奴って、毒と毒で遅効性があるけど片方が消えて速効性が上がるのかも知れない)
怪人の検体やらあれやこれや混ぜて出来た代物だから再び作るとか難しい奥の手。
「あーもう無理」
ビターンと倒れてしまう。巨人に効けばここまで苦労しなかっただろうけど大きいからか、それとも複合体だからか目に分かる効果は無かった。
(遠くで歓声が聞こえる、取り敢えず終わったのだろうか)
・・・・・
─裏話─
結界について。
前回の巨大怪人戦で出た被害が看過できず。急造的に企業をまたいで計画され複数人を要とした、怪人の出入りを制限する結界。
万一の際に安全許容量をわざと越えて暴走、自爆させる事が出来る物の、その被害は要となった人々の喪失と周辺環境を爆風で壊滅的な状態になる事が対価。
妄執の知性怪人。
仲間になれと言うのはポッシにだけです、他の人と会った場合は苦虫を噛み潰したような顔で殺害を命令します。ポッシを近い存在だと思ったようですね。
知性怪人の顔は人によって見え方が変わります、大体はイケメンだとか美人とか言われます。
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