第4章六話:境界/機戦惑星

1人前と言って良いのか、スカベンジには慣れた。


「生きてますか〜、あ。ダメだこりゃ。機械も......致命的だな」


全て綺麗事で済まないのがこの惑星、仏さんの目を閉ざして軽く供養してから物色するが使えそうもない。即座に次へ行く。


「生きてますか〜」


「ああ......腹から血が」


「はい処置するんで下手に動かないでくださいね、私は中立地区の傭兵ポッシ。スカベンジに来ました」


「スカベンジャーか......幾らだ?」


「その辺りは貴方の所属先と交渉しますんでお気になさらず、所属と名前を教えてください」


機械を動かせそうなら補修してそれに乗って向かう、エネルギーが無くてもランドセルみたいに背負ったいつぞやの動力機関で強引に動かす事だって可能だ。


「南の方ですね?ここは直結すれば動くでしょう、出発しますよ」


「待ってくれ、他の奴らは?」


「他はもう見て来た段階ですから」


「......そうか......そう、か」


座して待つ奴、怒鳴り散らす奴、悲しむ奴、裏から斬ろうとする奴、様々な奴が居る。


人間を観察し、データを集める日々。


淡々と目的をこなして、次いでにあれやこれやする。金稼ぎもその一環で依頼を達成するが、恨みや陣営の肩入れはとことん避ける。


「お、その耳に着けてるのは?」


「これ?捨てられて壊れたのを治したんだよ」


「20年くらい前の型式じゃないか?」


「その辺で売ってるやつより音質良いぞ?」


「へぇ、よくパーツがあったな」


「ん?違う違う。バラして綺麗にして、はんだ付けしてバッテリー交換しただけで新しいのはバッテリー位だぞ」


道具は大事に治して使う。拾った物でツギハギのパワーアシストスーツ何てのも作る、風の噂を聞き付けてか修理してくれと頼まれるが。


「あ〜、大事に扱える?てか扱ってた?修理するのは良いんだけど物に好かれやすくてね、返すとへそ曲げてボイコットしたりするんだよ」


そう。壊れた物を渡されたり拾ったりすると何か治ったりするが、譲渡すると突然故障が再発したり非常に厄介な事になるのだ。お金を受け取ってやる、なんてもってのほか。


そんな行動の結果か、


「生きてますか〜......これは、なんとも」


扱いに困る人物と会ってしまった。


脚は無い、下半身が無い、腹部も胸も無い。だけど腕と肩、頭はあるナニカ。機能は停止してる、胸がある筈の場所からはコードとチューブが機械へ繋がれてる少女だったモノ。


いわゆる改造人間、ロボットの生体パーツとして扱われてたであろうモノ。


「むむむ......」


検分すれば、どのレベルで機械化されてるのか分かった。食事、呼吸、発音機能、全て機械化、外部へ依存してる。恐らく睡眠機能は無い。


感覚が残ってるか不明だが薬臭い。何らかの薬品もチューブに流れてた様なので、それで感覚の齟齬を誤魔化し人形にしてた?


(困った、状況からして黒過ぎる......)


年齢、性別、機械化部分、機械化の形。可能な限り重量を減らした様な設計は内側含めてか、正直一人の人間を削っても誤差程度では......?


こんな事する組織は倫理観狂ってるだろう、絶対ろくな事にならない。


「......シャットダウン状態か、電気系統を整えてやれば再起動するかな?」


電源が切れてから時間は経ってない、イオン濃度の分布脳みそがグチャグチャになってるか?が心配だが......記憶が吹き飛んで無ければ良い、最低限整えてさっさと再起動しよう。


「ここと、これは切り離して......」


突然攻撃して来るかも知れない、こちらの言う事を全く聞かないかも知れない、そもそも所属先からの指示で勝手に動くかも知れない。


「アンペアとボルトは......」


動力機関へ繋げパチンッと起動させる。ちゃんと起動するまでロボットの方も弄って、都合良くプログラムを変更する。


「......起きたか。自分が誰なのか、今まで何してたか覚えてるか?」


「......?」


不思議そうな顔で首を傾げてこちらを見詰めている......そうか、そう言えばスピーカーに繋がってなかったな。この辺りを繋げれば......


「私は中立地区の傭兵ポッシ、君の所属は?」


『......』


あ、これダメかも知れないね。言語機能か記憶か、はたまた『黒馬自治区』......単純に遅れただけか?


「私はスカベンジャーとしてここに来た、そしてこの機械と君を拾った。これから君の所属先へ行き幾らで引き取るか交渉をする、なにか異論は無いかい?」


スカベンジャーとしても中々に危ない橋を渡ってるが、これが手っ取り早く稼げて名も広げられて情報収集し易い。目的だって......


少女は首を振った。惑星内の常識からすれば肯定が頷きで否定が横に振る形、異論は無い様だ。


「そうかそれならえ〜と、その、自治区?は北の方だったよな?行くぞ」


元の性格が寡黙なのか、頷いたり首を振ったりだけで全く喋らない。コックピット2名は少々手狭なはずだが、1名がこんな状態なのでハッチをちゃんと閉められる......良いのやら悪いのやら。


「一応権利的には仮で中立地区の登録がされてるけど、君の所属先が納得行く条件を提示したら直ぐに権利関係は元に戻せるからな?」


信用問題になるのでバックドアは仕込めない、て言うか仕込みたくない。連絡を取りながらズシズシとロボが走り、暫くすれば大きな建物が見えて来る。


『受け渡しは中で、そのまま入ってください』


「さいですか......」


うーむ、こっそり後ろから銃口突きつけられながら入りたくない......この位の高さなら越えられる事を信じて行く。門をくぐれば、窪地の壁で囲われた施設。


高い所と近くに、とにかく沢山いっぱいだな!ふざけんな!あー!ほら!チラチラ銃口出てるし空間歪んでてなんか居るって分かるじゃない!


『降りて貰えますか?』


「......」


電波が飛んで来る。暗号化されてるが簡単な物で予想していた内の一つ、私を殺害しろとの命令......


『あの......』


「先ずは貴方が顔を見せるべきでしょう?それに銃口を向け続けるのも感心しませんね」


『はぁ、撃て』


逃げる、ここは既に敵の口内。噛み砕かれる前に跳んで加速して避ける、備え付けの砲台や同じ様な二足歩行の機械から攻撃されるが追っては来ない。


(他の奴の動きがぎこちなかったな、都合が良い)


予定していた通り、トントントンと壁を駆け上り脱出。見えなくなるまで、まだまだ逃げて行く。


「面倒な事になったな......!」


『ん』


録画や音データを中立地区の方へ送って、ショクに対応して貰う。要するに、賞金首として手配されても[こんな事がありましたよ]って訂正出来る。


あと他の傭兵への警告や斡旋する依頼から除外、など影響は多岐に渡る。中立地区の傭兵にはルールがある、今回はそこに抵触したのだ。


「さてどうしたものか、取り敢えず君の身柄と機体は私が預かる事になる」


『.........』コクリ


理解している様で頷かれた。


「慣例にならえば機体は売り払って、身柄は......適当な場所で解放したりが多いな」


『......』ピクッ


正直、身柄はあっても邪魔になるのだ。金を稼ぐにも適応出来るか微妙な線だし、身体を好き勝手と言ってもヴァーチャルな技術の発展で理想像や思うがまま自由に色々出来る空想へ浸かる方が良い。


大抵の場合、この惑星で身柄を捕らえたままにするのはロクな人物では無い。


とは言え現状、生命維持には何処かから電力を常時必要とする厄介な身柄。放置したら くたばる のは考えなくても分かるだろう、機体かもしくはこの動力機関。


「あっつ......」


『......』コクコク


動かしてた影響でコックピット内が蒸し暑い、ちょっと開けて空気を入れ替えつつ移動する。


善性的に身柄の確保した状態と言うか、保護した状態が良いとポッシ思うわけ。


「私が預かったままにするか、預けられそうな場所を探すか......どちらにせよ旅して探すかね、何処に腰を落ち着けるか決めたいし」


『......』ジー


そうだな、それなら一緒に旅が出来るか確認もしないと......動力機関は服装品扱いで私の消失と共に消えるらしいから、ポテッと少女が落ちてそう言えば名前聞いてないも困る。

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