第4章三話:習慣/勇愛惑星

怪人だの変身だの、ベルトを弄り回して色々分かって来た。


(感情を喰らうアイテム、か)


変身ヒーローとは名ばかり、その力の源は装着者が出力する感情だ。喰らい尽くした先にあるのは変身解除、その場でボケっと座り込む人物が出来る理由わけだ。


(これ以上はどうしようもない)


怪人は似た様な物体で構成されてるのか、力を利用して殴れば効果的に効く。だからこそベルトを弄り回して変身スーツを作ったが......相性が悪い、とにかく悪い。


感情とか言われても困る、しかも重い感情だ。そんなにポンポン出るわけ無いだろう、これを元にもっと深くまで弄れば参照する感情を変えられそうだけど......やはり個人の設備では限界がある。


「む、レーダーに感あり」


怪人が出現した様だ。古い折りたたみ式の携帯電話に大きなアンテナが付いただけではあるが、相手がどの様な物か分かればこんなのでも似た物を検知出来る。


(おおよその方角だけど、それで十分)


まだまだ検体の数が足りない、とりあえず武器として弄り回してすっかり紳士服売り場で売ってそうな[シルバーベルト]と[ナイフの柄]を身に着けアクセサリーっぽく服にぶら下げる。


「......この方角だと駐車場か?」


パパパっと走って向かえば既に戦闘が行われている、こっそり隠れて様子をうかがう。口を開き「おおおお!」と大騒ぎする巨漢な怪人に、「やってやる!」とこれまた騒がしい全身赤タイツを着た熱血漢......


なんだか帰りたくなって来た。


(殴り合いの衝撃波は凄まじいけど怪人が複数居る訳じゃないし、避難誘導するべき住民も居ない......)


放って置いても解決しそうだ、ベルトをカチッと開いてまたたく間に全身黒タイツになる。いや仕方ないんだ、肉体的な保護を重点に置くと全身タイツになるだけだから......


(ポーズを取らなくてすむだけマシと考えよう......)


適性の問題で取る必要がないってだけ、だけどね。なんか悲しくなってくるな、身体能力も殆ど上がってないし。


(おっと、瓦礫が)


柄に力が廻り、刀身が現れた黒いナイフで弾く。可能な限り消費を減らした簡易的な武装、出来る事は普通のナイフと似た様な物で耐久力も刃こぼれした瞬間に砕け散る程度。


(もうちょっと周りを気にして欲しい物だね......)


対して赤タイツは炎の幻影を撒き散らしながら、尋常ならざるパワーと速度で怪人を圧倒し始めた......エンジンが温まってきたと言う奴だろうか?


「右左正面!右、左、正面!!必殺......」


殴って殴って、額も武器にするのか頭突きをしてる。シンプルに痛そう......まるで力を溜める様に右半身を引いてる、離れておきましょうか。


(傍受してる無線が騒がしい、って)


怪人は[爆散☆]した。最初からそれ出来るならやれよ!?と突っ込みを入れたいが変身ヒーローは人気商売、慈善事業じゃないと言わんばかりにグッズが展開されてるのだ。


『では予定通りに』

「りょ〜かい」


赤タイツは怪人が残したドロップ品を持って、何処かへ行った。キョロキョロ辺りを確認しながらこっそり怪人のサンプルを採る、ドロップ品を入手出来なかったのは痛いが些細な問題だ。


「やっぱり来たな!最近噂のブラック!」

『目的を聞け』


「げっ」


凄い嫌な顔を見せる様に、と思ったがスーツの中なので表情を作る意味はないだろう。事前に何となく組み立てていた逃走経路を、実用レベルまで押し上げる。


「お前の目的は何なんだ!」

『知性怪人の可能性がある、注意しろ』


知性怪人......?そんな事はともかく どの様に答えるか、目的は単純明快[自分のものを守れる力を着けるため]でしかない。相手を知り己も知れば百戦危うからず......


そもそも何で聞かれてるんだ?技術隠蔽するそちらが悪いではないか、苦労する原因そっちが切っ掛けやぞ?噂を知ってるなら、今までの行動を推測すれば分かるはずだろうに。


「......なぜ私がお前らに答えねばならんのだ」(純粋なる疑問)


「それは......」

『権利の侵害をしてる可能性があると応えてやれ』


頭の中へ擬似的に作った図書館からこの惑星の権利に関する情報を分厚い本として引き出す、侵害と言われても思い当たらないんじゃが......


「権利の侵害を......してる可能性があるから?」


「話にならんな、少しは自分の頭で考えたらどうだ?疑わしきは罰せずin dubio pro reoだぞ」(善意の教示)


『気にするな!スーツもウチから盗んだものかもしれない!捕らえろ!』


おーおー、好き勝手言いなさる......それは流石に越権行為だと思うぞ?


「捕らえさせてもらう!」


「断る、臆病者の操り人形だったか」


先の戦いで発生した粉塵を巻き上げ目くらましにする、脱兎の如く駆けて建物の屋上から屋上へ跳び移り直ぐさま降りて路地裏を通ってく。


(追って来るドローンは一機、いや二機か?)


地下道を通り繁華街へ出て、人混みに紛れながら全身タイツ状態を解除。地下街へ入り込み立ち食い椅子あるけど寿司の席に座る。


「何がある?あーじゃあ取り敢えずビンナガとマグロ、あとサーモンとホタルイカに稲荷寿司で」


寡黙な寿司職人が慣れた様子で作ってくれる。店員は職人さんと会計や注文のサポートをしてる女性が一人、毎日一人で駅近なのによくやると思うがこだわりがあるのだろう。


(美味い、美味い。やはりここの店は美味いな)


いわゆるビントロことビンナガ、ビンチョウマグロであってもここでは取り扱ってる。非常に柔らかく口の中で溶ける様、広がる味わいは回転寿司とは比較にならなく豊かなもの。


マグロの赤身は......深い色味に透明感、先程とは打って変わって確りとした弾力で出迎えてくれる。口に触る様な部分はなく......


(ん?)


「はぁはぁ、い、居ない......もう変身時間が......黒!、ってスーツかよぉ......」


階段で降りてきた全身赤タイツの不審者が何か言ってらぁ、くたびれたスーツ姿ですみませんね?探しに来られたようですね?変身とやらが解けて少年になった......身長がその、だいぶお変わりに。


「ああぁぁ......あ、すみません......その、黒いタイツの人がここを通りませんでしたか?」


職人は首を傾げる、会計さんも首を傾げる、食べてる途中にやたら増えたお客さん達も首を傾げる、もちろん私も[通ってはいないので]首を傾げる。


「そうですか......もしもし、はい。地下には来てないようで」

『変身出来る様になるまで待機してろ』


肩を落とすが、直ぐに何処かへ探しに行こうとする少年を呼び止める。ちらりと職人さんを見ればお茶を一杯入れてた、察しが良いと言うかなんと言うか。


「そこな変身少年、そう焦るものではない」


「変身少年......?」


現時点で最も美味く感じるものを推測、恐らく押し問答のやり取りになるから受け入れざる負えない状態にする。


「この子に中トロ二貫、私の奢りだ気にするな」


「そんな!悪いですよ!」


職人さんは分かってるようで、手早く優先して作られた。


「そうは言うがねぇ、モノは既に出来てしまったし食べて貰わなければ困るんだよ」


「うぅぅ......」


最後の一押しに。


「二貫食べてお茶飲んで、一息つくだけさ。こう、あまりにも君は焦燥してるから大事なものを見落としてしまってるんじゃないか?」


「......見落とし?」


「どれだけ小さくとも、人生には落ち着く時間が必要だよ?」


多少警戒するものの寿司へ手を出す。おうこら他のお客さんは忙しいからここを利用してるんじゃないのか?なにハラハラ見てんだ?


「あ、美味しい」


ちゃんと食べてくれたようだ。「ごちそうさま!」と去る少年を見つつ、最後にいなり寿司を食べてお勘定する。携帯の振動、これは......


また怪人が現れたようだ。現場へ向かえばそこは住宅地の交差点、戦ってるのは実用的(?)な全身タイツではなく魔法少女?のグループ。


「行くよ!」

「はぃぃ......」


一人はフリルの付いた衣装......の下にタイツを着る宙へ浮く武闘派、もう一人は先曲がりのつば広帽子を被りローブ姿......魔女と言えばコレ!なスタイルでタイツの有無は不明。


周辺被害は魔女の方がデカくなる。巻き込まれないうちにさっさとタイツ姿へ変身して事の推移を隠れて見届ける。


(当然の結果か......)


武闘派さんが足止めして、魔女が大規模な力の行使により地面から柱......棘?が複数本生え伸びて、腕が異形化した怪人は穴だらけに。


一応知ってる仲なので出る。


「あ!部隊系ヒーローのブラック!」


「部隊には所属してないけど」


「きょ、今日も怪人のサンプル採取ですか......?」


「そうだね、良いかな?」


「「どうぞ」どうぞ」


最近はこの様な良い流れが出来て来ている。先程みたく妙な事態へ巻き込まれず、何事も無ければ良いのだが。

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