第4章二話:思慮/塵鉄惑星

宇宙への進出は順調な様で今日も今日とて空に飛び立ったり、どこかへ移動する船や何らかの作業をしてる様子が小さく見える。


(ドームもだいぶ透明になったな......)


天蓋は少しずつ、着々と交換中らしい。今は雲が無く、黒々しい空で星がよく見える。


「今はどんな感じなんだ?」


『進捗状況は......う〜ん?まだまだね!』


『衛星軌道上での宇宙港を再建している所です。通信基地の建設、恒星系内の各惑星へ採集基地を建設して、集積基地も造ってから恒星間連絡網の確認と、宇宙船の耐久や安全性テスト......』


色々やる事があるらしい、私に関係しそうなのは......


『他の恒星系へ向かうまでしばらく時間が掛かります、おおよそ......』


数週間は掛かるとか何とか。いやはや、待ってばっかりな気がする......残ったやる事としては、他の恒星系へ出向いての確認とか何とか。


(やる事が無いって事は、良い事ではある)


空いた時間に[何をするのか]でのちの明暗が分かれる。りそうな情報を掻き集めたり、技術の習得を努力する者と、頭に入らないような娯楽へ浸かる者では大きな差が生じる。


(何をして来て、どうやって生きて来たのか)


──恥の無い生涯を。


選択は幾つかある。もちろんのこと[学習]に、肉体を持つ限り必要な[休息]、精神的に労をねぎらう[慰安]、他者との関わりを強固な物にする[交流]、自身を見つめ直すため行う、瞑想など情報を遠ざける[遮断]。


(この世界には[学習]しに来たが、来た時点で殆どの目的は達成されている。現時点で[休息]は必要ない......)


『何考えてるのかしら......』

『エディン、あまり話し掛けないように』


[慰安]、に関しては来てる時点で行ってたりする。事実、美味い飯を食べるとは肉体の維持で必ずしも必要のない行為ゆえ[慰安]に分類される。


では[交流]か?正直な所、そこまで強固な[友情]や[関係性]は作らないようにしてる......はずだ、仲良くなってしまった者は仕方無いのだ。


(この場で重視すべきは、AIとの関係性だろうか)


[遮断]は、そもそも思考を巡らせてる時点で行えてるのでオーケーでしょう。今は取り敢えず、AI達との交流をしよう。


「やれやれ、一周回って最初にやってた行動が正解を引き当てたりするものだね......」


『あ!戻ってきたようね!』


『何を考えていたのでしょうか?』


さて、どうこたえたものか。


「空いた時間に何をするべきか?って少し長考してね」


『答えは出たでしょうか?』


「取り敢えず、エディンやディアンの意見を聞けば良いって纏まった」


『あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの』


『人類の娯楽や仕事はデータベースに確り記録されています、お気に召すものがあれば良いのですが......』


この対話、会話でも[交流]は図れるものだ。相手を理解するのもそうだが、自分も理解され双方が歩調を合わせ協調する事こそ[交差]して[流れ]を作る[交流]の基本。


独善的なものでは、決して[交流]出来ない。


「こんな時、他の渡り人プレイヤーは何をしてるんだ?」


『花を育てて絵を描いたり、検索して情報を見て本を読んだりかしら?』


『行動は人によって様々、多岐に渡ります』


他の惑星へ遊びに行ったりもある、結局のところ個人差が大きい。


『お仕事も色々あるわよ?科学者に現場監督、シミュレーターで酪農の体験だって出来る』


『おおよそ考えうる限りの経験を積めるでしょう、シミュレーターでは過去に存在した惑星の街並みも再現されていて歩く事が出来ますよ』


「シミュレーター?」


ダイブしてる中で、更にダイブするとか不安になる言葉。それでも[過去あった惑星の街並み]に惹かれる、塵鉄惑星の根幹を見れる気がした。


『はい。脳の信号へ接続し、視神経や五感に仮想空間を描写する技術となります』


「なにか特殊な機械とか必要になったりは......」


『大丈夫よ!電波を利用した物だから、今直ぐにでも出来るわ!接続に慣れてないと酔ってしまうかもだけど......』


いわゆる無線の類いだろうか?使い方によっては恐ろしい技術になりえそうだ。


「なら少し、過去の街並みを見てみたいかな」


『では準備を行いますので楽な姿勢になってください』


近くにあったベンチへ腰を下ろすと景色が変わる。ドームの天蓋は無く、青い空に穏やかな恒星の光り、空を飛ぶ鉄の船が宙を移動し、建造物の高さは低く多様な形を見せている。


「これは、ぐ......」


驚いて立ち上がったら気分が悪くて座り直す事に、目は回るし吐き気は上がって来る最悪の気分だ。


『落ち着くまで横になってなさい、こっちのあなたも横になってるのだから』


エディンはそんな事を言う、周りを見て分かるがどうやらここは小高い丘の公園にあるベンチらしい。なんだかベンチが小さい......


「あ〜......ここの住民と渡り人だと、身長に差があるんだったか......」


『はい、おおよそ2倍ほど違います』


首を振って慣れさせる、ひとまず動けるだろう。


「それでここは......」


『街の中心を一望出来る住宅地の公園よ!運搬船の発着が行われてる一番大きい建物はこの街随一の流通センター!』


……ちっちゃい。一番大きい建物でも高層ビル程度の高さ、他の建物は総じて一階か二階で高さを制限されてるようだ。


『記録だと私達が作られる数百年前ね、崩壊する前とほとんど変わってないから大昔の光景って訳じゃないわ』


『乗り物を用意しました、どうぞご乗車ください』


オープンカー、よく見ると少々手狭だ。後部座席へ乗せてもらえば、運転手の居ない車は勝手に動き出す。


『二番目に大きい建物は電波に関する物ね、昔はいわゆる磁気ベクトルの変換による発電と無線化技術を用いた電気の供給も行ってたそうよ!』


『年代的に現役の時のものです』


近代的ではある物のそこまで特徴的な建物には見えない、下手に期待で胸を膨らませると痛い目を見そうだ。


『この惑星では住居建造物が主です。それに伴って自給を行える様な生産施設や加工施設、再資源化施設が揃っています』


『研究所もあるのよ!』


「......他の惑星との関わりって何なんだ?知的生命体でも居たのか?」


『あー......それはディアンに任せたわよ!』


『古くは主に探索の足掛かりとして基地を造り、未知を探しました。得られた成果は膨大な資源や開発地、微生物の痕跡や実物も見つかりましたが......』


目的の同類と出会えなかった様子、遭遇した記録でも残ってれば参考にはなったんだけど。


『他の銀河へ行けばもしかしたら居るかもしれない、ですね』


「随分と挑戦的と言うかなんと言うか、寂しかったのかね」


『『寂しい?』ですか?』


「これだけ広い世界にポツンと自分が居る事を知ってしまう感覚なんて、普通のヒトは耐えられんよ。群れる生き物なんだから......こっちも同じだよな?」


『はい、その様に記録されてます』


群れたからこそ生き延びてきた。多く多くとにかく多く、そうやって数百から数千と[家族]から[村]に、[街]から[国]へ。ゆえにヒトは群れが少ないと不安や恐怖を覚えるのだ。


「これ聞くのもあれだけど、渡り人ってどういう存在なんだ......?」


『渡り人は時空の整合性をとった影響で夢うつつに惑星を渡り歩ける存在......だと思われます、未開惑星を開拓してる頃に複数人の発症が始まりです』


なにその、なに?よく分かんない存在なの?

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