第4章:末路
第4章一話:拾得/勇愛惑星
勇愛惑星、勇気や愛によって力を得て怪人と戦うらしい惑星。怪人が出るのだ、どれほどの脅威か?そして戦う者達の勇気とは?愛とは?
うん、怪人で察してたがなんか変身する。アイテムは様々だけどおおよそベルトとかステッキとか......日曜日のテレビで見た事あるやつ。
大丈夫か?と思ったが、ほんの数分間ちょっとだけ惑星で起こった面白そうなシーンをピックアップしてテレビ放送するとかやってるみたいだ。
(それはそれとして、意外と期待外れだったな......)
誰もが変身ヒーローに成れる訳では無い。惑星内で作られた企業が独自に怪人を研究して作り出した変身アイテムの数々、所有は企業であり変身ヒーローは総じて企業へ属する者達。
「慈善事業なんてものは無く、金儲けの為の道具か」
仮面を被ってしまえば容姿は関係無い。必要なのは謎のパワーへ適性があるかどうか、愛嬌と呼ぶべきか他人へ好かれる能力、そして業務遂行能力。
要するに毎日の見廻りや交戦が定められ、イベントだ何だを仕事として課される。
(現実に比べ緩いけど、わざわざ自分の時間を制限される様な場所へ入るとか物好きが過ぎる)
ゲームのログインボーナスと同じ様な物、って言われたけど......アレもやるゲームを増やし過ぎれば余裕が無いでしょうに。
そんな訳でミニゲームみたいなアルバイトを終え、巣穴へ入る。
「現実でもこれだけ楽ならなぁ......」
私称、巣穴こと地下の狭い住居スペース。この辺りは怪人が暴れた被害によって、過疎化で土地や建物が安いのだ。現実とだいぶ勝手は違うが地下室を購入して、税金?みたいなの含め諸々維持費が購入時の数パーセント......
目玉が飛び出でるほど安い、1ヶ月に数百円。アルバイト内容によるが、
「あ、先に買えば良かったか」
水道、電気、ガス、ここには何一つ通ってない。トイレはまあ出ないので関係無いだろう、喉が渇いたら近くの店で買わなければならないのが難点か?
少々重い腰を上げて、
(都心は購入困難、普通の家賃らしいんだよな......)
これだけ安くても、お隣さんやご近所さんは居ない。
(それだけ忌避される理由があるのかね......)
つらつら考えて居たら目的地へ着く、自転車の1つでも欲しいかもしれない。
「これとこれ、あと幾つか買い溜めとくか」
お婆さんにお勘定を渡し、ついでに買ったアイスを外のベンチで舐めてると遠方に黒い人影を見付ける。
(あれは......)
黒い全身タイツ、眼球は強調される様に少々飛び出てギョロギョロと両目は別の動きをする。禍々しいベルトを腰に巻く以外の特徴はタイツで覆われ不明、
(暴れだしたな)
何かに怒ってる様な力任せの
(まあ......どうせ直ぐ来るだろう)
何で察知してるのか不明だが、直ぐさま変身ヒーロー達が急行してくる筈だ。距離を取ってれば巻き込まれないし、この惑星で
(......遅いな)
いつもなら思考する間も無くやって来る。建物の破損や戦いによって生じる損壊は、政府が出す補填金で賄えるから壊れた所で問題無い。
(人命には替えられないが)
この惑星で言う、
だからこそ避難を優先するし、家の地下にはシェルターがある物だ。アルバイトでペアになった人から聞いた。
(何処かで優先するべき強力な怪人でも出たのかね......)
安心して野次馬が出来る。怪人の索敵能力は弱くて近くの物にしか目が行かずそれを破壊するのが主だ、足元なんて殆ど気にしてないから落とし穴があったら落ちるし直ぐ転ける。
人をやたら敵視するが、扉があっても開けない位に頭は回らない。
(見付かったら追い掛け回されるけど......あれは)
子供?塀の陰に隠れてる、逃げ遅れたか。あの位置では塀が壊された時に瓦礫を受けてしまう、見付かるのも時間の問題だろう。
(ふむ......)
丁度よく食べ切ったアイスの棒をゴミ箱へ捨て、買った物が入ったビニール袋をその場へ置き、倒れる様に姿勢を低くする。
1歩、跳ねる様に
2歩、姿勢も正し
3歩、
ドムッ!
膝を向け怪人へ突っ込めば、妙な音と共に怪人が吹き飛び壁へ激突する。やはり体重×速度=パワーだ、シンプルなのが一番強い。
「大丈夫か?1人で動けるか?」
怪我は無し、ただ腰が抜けてしまってる様で動けそうも無い。連れて逃げる事が出来るか計算するが困難と判断、時間稼ぎ位なら出来るだろうか。
「動ける様になったら逃げろ」
子供の側頭部を2度ほど撫でてからサッと離れる、それと同時に宙へ舞う瓦礫の埃から[無傷の怪人]が出て来た。
視線の定まってなかった
(どうしたものか......)
怪人は待ってくれない様で
(まるで擦りむいた様に赤くなってしまったな)
逸らす以前にそもそも当たらない方が良いだろう。殴った感触もゴム毬と同じ様な感じで、ヒトでは無い事を嫌でも認識させられる。
(人形、それにしては意識の様な物を感じ取れる)
「ますます困ったな、何一つ効かないとは」
衝撃はダメ、自己崩壊覚悟全力の打撃でも効かないだろう。ならば地道に重ねるか?一点突破に力を割くか?武器でもあれば直ぐに片付くだろうが......
(ヒーロー道具はともかく普通の鉄砲や刃物は規制されてるから......っと)
足技でヌルリと飛び掛かりパンチを避ける、次いでに靴のかかとで蹴って切れるか試す。
(人肌なら切れるんだけど無理か......)
怪人に血液が流れてるのか分からない、表面を切って流血させるのは難しそうでもある。
「ふぅ......っ!」
(いかん、接近し過ぎた!)
これは、この目は嘲笑って居るのか!?......疑念に変わった?いいや、そんな事より。
一本貫手、眼球。
親指を目玉へ突き刺せば手を離し、
(怪人だとしても頭を潰せば倒せるやも知れない)
それがダメでも腕、足、胴体、動かなくなるまで潰せば良い。潰して潰して潰せば良い、殴る殴る殴る。
(連打連打連打、一撃必殺を込めながら連打だ)
倒れた怪人の頭をドゴドゴ殴って居ると、怪人の腕で振り払われたのか吹き飛ばされた。
(っ......!)
家の塀へ衝突して瓦礫が痛い。だがこれは色んな意味でチャンスだ、直ぐに起き上がり怪人を見据えるが......
「なんだ?怖いのか?散々暴れて......」
歪んだ顔、目には恐怖の色。力も丈夫さも何もかも勝ってるのにそれ、ああそうか痛かったのか。
「怪人が一丁前に恐がるんじゃない!」
しゃがみ込んだ状態から、瞬く間に飛び出し距離を詰め殴る。追い打ちに飛び掛かるが、怪人はガスでも抜ける様に萎んでいく。
(......??)
倒した、のか?こんなにも呆気なく?残ったのは地面へ染み込む黒い液体と禍々しいベルト、とりあえずベルトを拾うが......釈然としない。
(......痛いなぁ)
殴った拳も痛い、逸らした腕も痛い、振り払われた時に当たったのか腹も痛い、打ち付けられて全身が痛い。でもベルトが手に入った。
(これさえあれば研究が捗るはず......)
だいたい企業が技術を独占してるのが悪いのだ。おっと、この場からも直ぐに離れなければ変身ヒーロー様達やらも来て色々面倒な事になりかねない。
「いてて......」
子供は既に逃げてる様子、買った物も無事な様なので拾って帰路へ着く。
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痛くて帰るまで数分掛かる道が、数十分に増えたのはここだけの話。
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