第3章八話:懸念/偶像惑星

「そう言えば、この惑星の人々はやたらアイドル偶像を持ち上げるが......なぜだ?」


「それはもちろん!絶望に輝ける光で対抗する希望!人々の思いを背負って「なるほど、クラヤミか」ちょっと!調べてるじゃないですか!」


話が長くなりそうと言う理由もあるけど、そもそもヒトの記憶を信用して無い。話で出たワードを調べれば、似た様な情報がゴロゴロとネットで転がってる。


「端から迫る暗雲、黒い霧とも言われる......ねえ?」


「どうせ私なんて思い上がって人生を棒に振っただけなんですぅ、良い出会い求めて行動したのが悪かったんですよぉ......」


ブツブツ言ってるが私の関与する範疇では無い。クラヤミは人が中に入ると狂死したり暴れたり酷い事になるとか、勢力地図で光が灯らず黒で塗り潰された街は漏れなくクラヤミで人が住めない。


「まるで墨汁を水桶に垂らしたみたいだな」


「良いですよねぇ夢人プレイヤーは。老いる事も無いですし、祝福だってされる......」


唯一。と言って良いのかよく分からないが、昔の対抗手段は一塊になって祈って押し戻してたそうな。今はアイドルのライブで押し戻すとか。


(思想......いや感情を同調させて対抗してる?)


「起業出来るなんて祝福を使ってるんですよね、他の夢人プレイヤーだってそういう事してますし......」


「......ん?違うが?」


なんか聞き捨てならないような言葉が聞こえた、どうやら認識に齟齬が発生してる様子。仲良く?二人で首を傾げ合いつつも、すり合わせを行う。


「え?でも別の惑星から来たんじゃ......」


「そうだけど、私が貰った祝福は[幽霊楽団]だから関係ないぞ」


ツイッと指を振って、意識を増やせば半透明の青白いシンバルがジャーン!と甲高く鳴り響く。もう一個意識して宙に浮くバイオリンをキ〜〜ーーと鳴らして証明しておく。


「え?えっ?」


「不服か?」


「もっとこう、手から金塊が出たり洗脳じみた言葉で信頼させたりプロデュースした子達が異常なほど成長するモノでは......」


なにそのバケモノなにそのバケモノ......」


実際に居るらしい、怖い。


そんな人物達の話は置いといて、この惑星について考える。経済的にも防衛的にもアイドルへの依存が強い......良くもないが、だからと言って依存をやめる訳が無い。


(なんかにおうんだよな......)


放って置いたら滅びる。私が関わるものは少なからず その類いだ、それが経済的な物か外敵による物か......今回はどちらも有り得そうだが。


「なあ、君はこの惑星が好きか?」


「好きも何も生まれ育った星ですよ?」


言い方が悪かったか。


「じゃあ、滅びと発展。どちらを望む?」


「そんなもん発展ですよ!発展!もっと縛られずに!楽に生きたい!」


心からの声か。うん良いよ、軽い後押し位はするさね。求めるからこそ今まで続いて来た、それが人類。


方針を再び決めたら必要な事を考える。


(喫緊の問題は生存圏をせばめるクラヤミ、そして経済的な依存......と言うか利権の一極集中化)


工場を集めた事に付随し、口八丁で利権の解体は少しずつ行ってる。経済の一部問題は随時、対応出来てるのでクラヤミを考えたいところ。


(正体不明。されとて、複合的な物では......?)


恐らく複数の理屈が積み重なってる、分からないなら分からないなりに考えれば良い。現状、端にある街の灯りが消えてる事から被害が出てる。


(それならネットに残されてるはずだ、妙な名称だけ残されるとは思えない)


曰く、街へ近付けば近付くほど急速に黒の壁が迫って来た。


曰く、呑み込まれた人達がどうなったか確認するすべは無いが、難民が大勢散らばって行った。


曰く、壁へ触れたが直ぐに保護された人物も居て、長い期間病室に居たが後遺症は残ったものの普通に生活出来てる。


(そして......)


昔は完全に押し返せたが、近頃はライブを行ってもあまり効果が無かった。形骸化している、そうな。


(あの、唯一の対抗手段さん......?)


どうしろと?


「なんか良い手段、無いかね......」


「あったらここに居ませんよ」


皮肉なのか自嘲なのか、よく分からん。そんな事はともかくとして、ライブの様子を見に行くのも良いだろう。


(ちょっと、どうしようもない問題)


公害、ってヤツだ。アイドルばかりに目がいって、その結果として垂れ流される汚染。この辺りは、法律とか政治で頑張って貰わなくてはならない。


会社は利益を求めるものだ、簡単には動かない。でもちょくちょく問題提起して意識を植え付ければ、そのうち民衆が動く。


(それ位しか行動は起こせないな)


決して焦ってはいけない、しかし確り行動し続ければおのずと結果はやって来る。それがどの様な物であれ......


「行動の結果であり、返答である。か」


「皮肉ですか?」


「君に言われたくない。てか独り言だ、気にするな」


まあ、何はともあれ。


「遠征する」


「どこに行くんですか?」


「クラヤミを見に行く」


「はあ!?何時間掛かると思ってるんですか!?」


「電車使って片道5時間くらいじゃないか?」


「分かってるじゃないですか!?合計で10時間ですよ!10時間!」


「そうキレ散らかす事ないじゃないか......」


「ああもう、出張って事で宿を取って......残業代は出して貰いますからね!」


「あ、ああ......なんだ?一緒に来てくれるのか?」


「─────!!」


秘書さん、キレた。


ハハハハ、そう腕をブンブンと振らなくて良いじゃないか。パソコンに当たったらどうしてくれる?やめて?やめてちょうだい!?


・・・・・


─キレた理由─


第一前提に職がこれしかなく、だいぶ追い詰められてる状態。


第二前提にまだ業務を殆ど任せてもらえず、雛鳥と同じ後ろへ付いて回る形で価値を示せてない状態。


第三前提に独りだと事務所へ入れない、入れたとしてもやる事がない。企業へなんの貢献も出来ない者は減給される可能性アリ、そして企業が減給する時の常套句である。


仕事中は付いて回る(今はそれしかない)のが基本と考え、価値を示せず困り果てた所に「遠征する」のお声。


まさか活躍する場を与えてくれたのでは?!と張り切った所で、「一緒に来てくれるのか?」と、とぼけた様子へ色々察した特に何も考えてなかったな!?、で......


ただの偶然かよ!?と、キレた。


深読みのし過ぎである。

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