第3章七話:遭遇/偶像惑星
カタカタ、カチカチ......タ、タンッ
「ふぅ......取り敢えず、こんなものかな?」
パソコンの作業を終わらせ、軽く伸びをする。
一先ずの経営状況としては何とかなってる具合だ。偶像惑星にしては珍しい染まっていない企業、と言うやつだろう。
企業を立ち上げてあれやこれや。聞くも涙、語るも涙なすんごい苦労話が......無いんだな、これが。
(下町の工場一つ一つと話をつけて買収......傘下に入って貰い、
最初はキツかったが、一周回って従業員のやる気が上がって加工品質も上昇。そもそも横抜きが酷くて安月給でこき使われてたから、まともな運営すれば良くなる一方。
(アイドル事務所と話しつけるのが特に大変だけど、
そろそろ外回りでもしよう、煮詰まってしまって判断を誤るほど厄介な事はない。
路地裏の小さな事務所を出て大通りへ向か......おうとした所で、知らん女性にすがりつかれる。
「待って待って!お願い!私をアイドルにしてちょうだい!」
「いやいや、誰!?どちらさま!?」
「それで、なんのようだね......」
既に妙な疲労を感じるが
曰く、元はどこぞの大手アイドル事務所へ勤めていた秘書。
所属アイドルに「かわいいしアイドルでも行けるって!」と言われ一念発起、
うーん行動力のある、おばかさん......
「何で辞めたかなぁ......可愛いと
「で、でもなれるって」
「そりゃ身内の中の話だ。一般家庭で自分の母親が可愛いからって、アイドルとして売り出さんだろ」
「お、お母......そんなぁ......」
何に絶望してるか分からんが、私は関係ないのでおさらば。
「それにウチはアイドルとかやってないんで......」
「あ、待って!秘書!秘書出来るから!とにかく雇って!」
逃げようとしたら、また服を引っ張られた。
「なんでさ......次の就職先が見つかるまで、アルバイトでも何でもすれば良いじゃないか」
「断られるのよ!」
……ふむ?
「それまたどうして?」
「分かんない......」
性格とかは、秘書経験済みで致命的な物はなさそうだが......経歴か?
「面接とか経歴書に以前勤めてた事務所の事を話してたり......」
「それはちゃんと話して......あっ」
原因の可能性大、彼女も気付いたようだ。
「そりゃ大企業の秘書が急に辞めて来るとか怖いわ、企業のスパイか問題を起こした事を疑うよ」
「ああああ......」
膝と手をついて嘆いてる、嘆いてるで良いんだよな?さてどうしたものか。
「とりあえず落ち着くまで......事務所に来るか?」
「はい......」
この惑星の性質上、何処かのアイドルへ肩入れする方が楽なのだ。そしてアイドルのライバルは商売敵である、法律には従うものの中々に悪どい事が行われるらしい。
又聞きだが、その一つがスパイ、もう一つがゴシップ、最後に
スパイは文字通り情報を抜き取ったり流したり、酷いと破壊工作や業務に支障をきたす事をやる。
ゴシップは情報媒体を使って悪評を流したり、アイドル活動に支障をきたすような情報工作を行う。
日雇傭夫も悪質で、人相の悪い人物を雇って店の前でたむろさせ客足を遠ざけたり、近付いて来た人物に
「落ち着いたか?」
「はい」
良かった良かった、スーツを汚した事は色々思う所はあるが。まあ追い詰められてたんだし仕方ないよね、是非もなし。
「そうか、それじゃあ
「はい?」
二人で首を傾げ合う。伝わらなかった様だ、今度は出入り口の方を指差しながら......
「
「!?!?わー!待って待って!待ってください!もう他にバイト出来そうな場所がないんです!頼れるのは......ここくらいしか......」
なんと言うか......もう深い、それはとても深いため息を付く。
「はあぁぁ......ふぅ、取り敢えず短期契約で様子を見ながらでいいか?」
「お願いします!稼げれば何でも良いので!」
何でも、ねぇ......
「もしもし......に関してですが......そうでしたか。はい、雇う事になりまして......はい、はい。は〜い、失礼しま〜す」
「今の......」
「お前さんの古巣」
嘘はなかった、ちゃんと退職してたので古巣へ帰る事は難しいそうな。なのでなんだかんだ仕事のお手伝いをして貰うことになった、本当に手伝いだけだ。
何か決定権がある訳でもなく、大事な情報を見れる訳でもなく、非常に簡単な軽作業。見ても良いような資料の仕分けだとか、結局最終チェックは自分だけど。
「秘書やってたんで出来ますよ!」と文句が出るものの。好感度が足りない、ならぬ信頼不足。そもそも急に来て仕事があるとでも?お茶汲みだけにならなくて良かった、と思うがね......
・・・・・
<さらされないお話>
「なにやってんの?」
「ん?ああ、工場の責任者に追い出されたので話を聞くまで待ってるんですよ。手土産も台無しになってしまいましたし食べます?」
潰れた羊羹を食べながら彼はそんな事を言う。羊羹にはアイドルのロゴが入っておらず、品質も良さそうだ。
「この羊羹ですか?どこで買ったかは言えませんが昔、アイドルだったおばあさんが趣味として開いてるお店で買った物ですね」
そう語った彼は次の日も来ていた、工場の労働者へも手土産を持って行き次に責任者......の所は追い出されたようだ。
次の日も、次の日も。
雨の日や日照りが厳しくとも外で待ち続けた、折れた工場長と話をつけて直ぐさま別の工場へ行く。
話をつけ、話がつかないなら根気強く通い、追い出されるなら待つ。しかし対話してから直ぐに出ていく工場もあるようで......
「......ああ、あそこですか。あそこはハナから話を聞くような方ではなかったので帰らせてもらいました」
微妙な顔で語る。
あんな奇行を続ける彼は、周辺では知らない者が居ないほど有名になった。
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