第3章六話:動向/幽海惑星

流れる様に積荷の受け渡し。南方への遠征後、海路で他の船と会う様になり目まぐるしく輸送する必要性は無くなってきた。


「ミフユの船長さん!もう少し持って行けますか?!」


「ん〜量は?ああ、良いぞ」


活気......と言う程の物では無いが、多少は物流の活性化やそれに伴う来訪者による動きがある。


聞く話によれば。本島付近の海域はパッタリと襲撃が無くなって、南方からの軍艦によって海域防衛が行われ民間船が襲われる事はそうそう無くなったとか。


(にしても、どうにかなるもんかね?)


多大な損害と引き換えに、何とか生き長らえただけの状態。


時間を掛けて復興や発展、攻勢への準備が出来るのならば良い。しかしあまりにも被害が大きいと、生きるだけで手一杯になって何も出来ず潰れる。


何処どこ彼処かしこも人手が足りてないのよな......」


採掘やその加工とか、田畑等の農業やら学校教育も厳しい状況と聞く。敗戦国間近の状態だけど相手は災害に近そうな感じだから、ただただ厳しい。


「ミフユの積み込み終わりました!」


「あいよ〜!」


ヒトは田畑から生えてくるモノではない。人数を揃えるには年単位の時間が必要で人材は人財、替えの利かない者が多い。


(負けましたの一言で起こるのは生存の放棄、人災と天災では扱いが大きく異なる)


なかば自動的に船を出港させ、次の目的地へ向かう。人災ならば国と国、人と人が手を取り合って対応すれば何とかなるが天災はただの理不尽だ。


もし最後の一人になって、にっちもさっちも行かなくなったら私は......いや、流石にソレとコレでは理屈が通らないだろう。


「地道な活動、それしか無いか」


甲板に浮かぶ人魂を眺めながら、そんな事を思う......基本にして王道、地道な積み重ねこそが人の世を発展させて来た。一足飛びに飛び越せるのは過去で積み重ねた人が居るからこそ、これまでも、そしてこれからも。


「他に国でもあれば違うんだがなぁ」


単純に規模の問題である。資源も人材も無いなら在る所から持って来れば良い、似た様な状態の場所が一箇所でもあれば協力せざる負えない。


まとまればだいぶ楽になるはずだ。しかしカゲとやらはトコトン建造物を嫌うので生き残ってるか微妙な所、あったとしても隠れられた小規模な集団だろうし食料問題なんかも出てくる。


(無力だなぁ)


自分の意思で海を割って歩くなんて奇跡起こせない、何も無い所から手品も使わずパンを出現させる奇跡だって起こせやしない。


出来る事は、人として出来る事だけ。


(どうしたものか......)


入港、荷降ろし、そして積み込み。ルーチンワークと化した機械的な動作、そこへやって来た一人の老婆。


「ありがとうねえ、息子が帰って来てねえ」


手を合わせてペコペコする老婆の話を落ち着いて聞く、港へ入ると時々感謝を言いに来たり拝みに来る人が居るのだ。


なんの因果かミフユは公報に使われたりして知ってる人々は多い、特に不具欠損の生き残りが盛って話すらしく[敵陣突撃]やら[弾雨の大立ち回り]とか[敵機殲滅]......盛ってるか?これ。心当たりが多すぎる


(あれだけの艦隊を再編するにはどれだけの時間が必要か......)


被害甚大、手っ取り早い改善方法は他国から兵員を集める事しか思い浮かばない。


これ以上この国の民を徴兵すれば復興どころの話ではなくなる、女に子供や老人を見境なく徴兵なんて用兵観点上からも問題しか発生しない。


(やはり、どうしようもない)


御上おかみとか、心苦しいけど小さな支配者に任せるしか無いだろう。どの様に判断するのか、何を選んでも外れで動かない事はもっと状況を悪くする。


「ミフユの船長さん」


「はいはい、私ですよ」


すべき事は最悪の想定......でも、それでも復興へ動いてる人達が居る。ならきっと大丈夫だろう、と希望的観測を肯定して置く。


(ケ・セラ・セラなるようになるさ)


目を背けている訳ではない、諦観ていかんだ。天災の様な災害は事前の備えとその後の対応が大事だ、先ずは事態を受け入れて俯瞰して見ること。


そして動くのだ、終末に林檎の種を植えた人々の様に。


道具を修理し、建物を造り、様々な物を生産する。また壊されようとも改善し、作り直す。ここの人達にはその熱量がある、だからまだ大丈夫。


(惰性に任せて滅びへ向かう人々ほど、悲惨な終わりもあるまい)


ヒトは可能性を切り開いて歴史を積上げて来た。ただ無為に滅びだからと活動を停止するのは、今まで積み上げた先人達への侮辱であり存在の否定である。


自分に出来る事から、着々ちゃくちゃくと。


「ああ、やっと来ましたね」


「ミフユの船長さん!あの時は本当にありがとうございました!」


う〜ん......誰?片手欠損なら傷病人の部類、脳内で名簿を開くが覚えは無い。頭の中で範囲を広げて、声も検索に掛けるがヒットしない。


誰彼を聞けばそもそも直接会ってないそうな、医薬品を届けた艦のどれかに居たらしくそのお陰で生き残れたとか。全然顔も知らない、知らないが......


「そうか、それは良かった」


祝福しよう、その未来を。

歓迎しよう、その生命を。


感謝は嬉しいが忘れる事なかれ、それ以上の被害を。島の駐在さんに任せ切りだが遺品や殉死報告を持って来たのは私だ、その件数に目を覆いたくなるが運ぶ都合上よく理解している。


(終わったら、また出港の繰り返し)


一通り巡るまで終わらないのだ、この航海は。


・・・・・


南方の攻略は辛勝に終わった。いくらか艦艇を呼び寄せて本島近海の哨戒、南方にはもはや修理のしようが無い艦や動けない様な艦を含めて主力が今だに展開してる。


艦によっては指揮系統がどうしようも無く、他艦へ配属や帰郷等本島に帰還する者も多い。艦を半ば放棄して陸上基地が主力になるが大規模な侵攻も無く、問題は起きていない。


ブォオオオオン......


船の汽笛が鳴る、弔砲代わりの汽笛はここ最近よく見られる様になった現象だ。


戦線は南方だけでは無く北方もある。南方でさえ西方から散発的なカゲがやって来るのに手を広げる訳には行かず、半分ほど見捨てられた地と化している。


資源は小規模の艦隊を運用するには十分だが、カゲを相手するには心許こころもと無い。


人材は枯渇気味だが泡人プレイヤーの増加により、輸送や労働は若干の改善が見られる。

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