第3章五話:慰安/陽月惑星

救命救急士としての仕事は落ち着いてる、神官の仕事も今のところ無い。課すべき作業も現在待ちの姿勢、本当に本当の休息日として扱えそうな空き時間だ。


「どうしましょうかね......」


教会だとSisシスターメアリーが偶然なのか、私が居る時に起きてくるので(神父さんいつ寝てるんですか?)と疑念の目を向けられて居辛い。


病院は『何かあれば応援要請出しますから』と善意で追い出されてしまった、あそこ地味にサボり場待機場......まあはい。


「言われるがままビーチへ来ましたけど、眺めるしかやる事がないですね」


いつもの駐車場こと交流場で流れを話したら『ビーチ行けば?ビーチ!』と、南東の街を1つ〜2つ通過してやっとこさ行ける観光地へやって来た。


「......暑いですね」


もっと適した服装で来れば良かったと後悔、黒いので余計に暑い。


「......ん?」


打撲音。しかし聞き慣れた音ではなく、跳ねる様な......決して軽くなく、それでいてクッションが間に挟まってる。ボクシングの音だったか?


「おや、まあ」


向かってみると砂浜の近くにボクシングリングや運動器具が併設されてる、しかも見知った集団が利用してる。


「これはこれは、ポッシさんもビーチで鍛錬に?」


シモン・モギレヴィッチ。以前に[心ある者]プレイヤーが抜けて残された躯体を大神の元へ送るよう、依頼して来た人物。以降もちょくちょく関わりがありますけど、警察の方々からは危険人物として見られてましたね。


「いえ、どちらかと言えば遊覧ですので。シモンさんはよくここに?」


「ええ、そうですね。若い衆の発散もありますが......強くて困る事はありませんので」


どこから出したのか?リングへ上がる男達はグローブをいつの間にか着けられ、宙へ浮かぶほんの数秒しかないカウントダウンが終わってから殴り合う。


「ポッシさんもやりますか?」


「懐かしいですね......お言葉に甘えて」


一通り終わるのを座って待つ。ボクシングルールと似た様な物で負けたらリングから排出、傷も試合前の状態へ元通りで勝った人が次の挑戦者を相手する形式、切りの良い所で終わらせれば問題は無いですね。


「どうぞどうぞ、神父さん」

「遠慮はいらんですよ!」

「お先にどうぞ」


シモンが集団に呼び掛けたら、どうぞどうぞと背を押され前へ前へ出されてリングに入る。良いのかな......一番後ろで待ってても良かったんだけど。


「神父さん相手でも手加減はしません、怖いなら降りた方が良いですよ」


いつの間にか嵌められたグローブの調子は良し、マウスピースもモゴモゴと......


「ん?ああ......なにぶん手加減が苦手ですので[なるべく耐えてください]、ね?」


「言いましたね!」


カウントダウンが終わった直後に飛び込んで来る相手さん。右ストレートを左腕でガード防御、微動だにしない事へ驚いた様子だが左拳で確り連撃するのは慣れてるからだろう。そちらも右腕でガード。


警戒し、離れピョンピョンとステップを踏む相手さん......ドッシリと構える私とは対称的だろう。


相手さんは攻めの一手を選んだ様で再び強襲して来た、相手の拳より更に速く身体を折り曲げもっともっと速くバネ仕掛けの様に伸ばす身体と一緒に拳を放てば相手さんはリングロープまで吹き飛ばされ......打ち付けられる。


「がっ!ぐうっ!ぐおぉぉぉ!」


腹を押さえ悶えてる、凄い痛そう......


顔を青くして汗を滝の様に垂らしながら、何とか足が震えながらも立ち上がる相手さん。棄権した方が良いのではないか?と思うも無慈悲に試合は続き、幾分いくぶんキレの落ちたパンチが飛んで来る。


それならば敬意を表して、確り反撃をしよう。


一歩避けて身体の捻りを加えた強烈なアッパー、相手さんは宙に浮きそのまま落下。完全に気を失ってる様で伸びて、KO判定。


(さて、怖がられるか避けられるか)


「すっ、ごいですね!いつ殴られたかも分かりませんでしたよ!」


リングの外でムクリと起き上がった元対戦相手はそんな事を言う。


「次!神父さん!次良いですよね?!」

「神父ってあんな強いんか!」

「はよして〜後ろ詰まってるよ〜」

「自分も!自分も行きます!」


この反応は予想外ですね、戦いだけで満足する戦闘民族......にしては、成長や学び取りたいと意思を感じます。意図としては力、守るべき力を求めている?


(特殊な環境だから、ですかね......)


次から次へと挑戦者が来るものの、その殆どが一撃でノックアウトKO。決して雑な対応はしない事を心がけ、一人一人確り試合をする。


蜂のように身軽に鋭い一撃を叩き込んで来る者、泥臭く何度もジャブを放ち体力を削ろうとする者、鈍重だがガード防御ごと破壊しそうな頑強な者、全てを捨てて破壊力のみに重点を置く者、基本を忠実に抑えた堅実な者、そして多彩な技術を披露するシモン......?


シモンさん後ろの方で(元気ですねえ)と眺めてたのに、いつの間にやら挑戦へ来てたんですけど......


「少しばかり血が騒ぎまして」


ニコニコしながら、なんて事を仰るんですか。他の挑戦者はもうバテバテ、めとしてシモンさんと三回ほど試合をして自分から降りる事に。


「ああ、そうでした」


シモンはそう言い、携帯電話を取り出して何処かへ連絡......ではなく、とても見覚えがある画面を開いている。


「これ、あなたが作ったんじゃありませんか?」


「......どうしてその様に?」


作成者として名前をデカデカ載せている訳ではない、エンドロールにしては少々早い。


「見かけないグループで、調べたら教会が関わっておりましたので」


「あ〜......」


ネットで調べれば作った公式ページがヒットして、頑張って辿れば関係性がバレバレでしょうね。そもそも見せて来た画面から地味にやり込んでませんか?


「恐らくご想像の通りです」


「欲しくなる人材ですね......」


そんな言葉をポロッと呟いてますが、何処どこかへ入って命令の形でお仕事になるのは難しいですね。


「楽しませて貰っていますよ」


「それはよう御座います」


そしてボクシングはお開き。シモン一行はビーチで慰安の為にまだ居るようですが、身内以外が居ては気も休まらないでしょう。


ブンブン


フリフリ


疲れてるでしょうに手を振ってくれるので振り返します......たぶん、居たら気は休まらないでしょう大事な事なので2回

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