第3章九話:開戦/塵鉄惑星

── 時間か。


早めに塵鉄惑星へやって来て、衝突の始まりを目にしようと待って居た。


(たとえ、何もやる事が無くても)


悪く言えば野次馬である。地上に居た渡り人プレイヤーも地下へ退避させられ、活気の一つすら無い。


「北東基地に映像の乱れ......?嵐か」


シェルター奥の軍事基地で、大型モニターから惑星内の様子を映し出してる。一部地域の映像が完全にノイズ混じりホワイトアウトを起こして、その基地は機能不全となった。


『まだ想定内ね!時期的に予想されてたもの!』


万全では無い物の、妙な静けさと共に大型砲から光線が空へ伸びて行く......いつの間にか始まった様だ。


光線がずっと昇って行って、黒いモヤが集まり始めてた所を蹴散らす様に貫いた。それと共に白銀の様な粉が宙を舞って地面へと落ちる。


「あの白いのは......」


『鉄粉です、砲の形を形成する前に散らしたので粉状なのでしょう』


ディアンも話へ入って来た。光線は射出の停止と再開を繰り返して黒いモヤを蹴散らすが、黒いモヤも動きが早くなり砲の様な形っぽい物やら徐々に増えてく。


(反撃っ!)


モヤの光線が基地へ飛んで行った、映像は眩い光で状況が確認出来ないが......少し経つと光線は止まり、少々焦げただけの基地が映し出される。


(ほとんど影響は無さそうだな......)


光線を受けた基地は問題ない様な素振りで砲撃を再開している、焦げが付くという事は非常に熱いのだろうか?


(モヤの光線は増えてる、増えてる......が)


基地に効果的な影響は無さそうだ。それ所か地上から放たれる光線も増えてる様な?


「あの光線は何処どこの基地だ?」


『......情報ありません。恐らくアウルムが独自に造って遺した物かと』


今だに残り続けるアウルムの遺産。今の状況はアウルムの責任か、それとも壊すモノの責任か?素直に喜んで良いのか微妙な線だ。


(本当にやる事が無いな)


無力、あまりにも無力。分かっていた事ではあるが、AIへ任せて悠々自適に過ごす位しかやる事は無い。


空から降り注ぐ光線の雨、それに負けないくらいの光の柱。壊すモノが形作った砲は光の柱に貫かれた後、バラバラと自壊して降り注ぐ。


(規模が大きい......)


光線より降り注ぐ残骸の方が基地にとって脅威だろう、人の場合は光線へ当たると蒸発するので論外と考えて。


あと熱を持つ とにかく持つ、めっちゃ熱くなって蒸される。長ったらしい名前の巨砲と同じ空間に居ると焼かれるらしく、光線に直撃すれば車両や建物内でも沸騰する。


あれでも冷却機構があるのに、そんな事が起きる。


要するに何があっても外へ出てはダメだし、そもそも人が居てはいけない環境と化してる。


「後どのくらい続くんだ?これ」


軟禁状態だがシェルターは元々そういう状態の場所だった、渡り人プレイヤーに大きな混乱は無い様子で粛々とやれる事を探したり別の惑星へ行ってるみたいだ。


『......観測データの都合上、ハッキリとした事は言えませんが。おおよそ3日以上と推測されます』


他惑星の人々よりも閉鎖空間には慣れているだろう、たぶん大丈夫......かな?


「維持出来るのか?」


『はい。非常に優れた設計ですので長期間の連続稼働及び容易なメンテナンス性、部品の交換が行えます』


それに砲射時の排熱を利用したメンテナンス機構やらエネルギーの回収で、あれやこれやが動いて連続稼働を実現してるとか。


(なんかバグ技を使ってるみたいな動き......)


天才殿の発想に引く。相手の光線を利用した熱量だとか、地面と接して無ければ融けるとか......光線のエネルギーを星へ逸らすとか。


「うわぁ、空から鉄が降って来るとか......あれって使えたりするのか?」


『ええ!ちょっと処理が必要になるけど、使えるわよ!』


良いのやら悪いのやら、鉄資材はともかく加工やら巨砲の光線には多大なエネルギーが必要そうだけど......解決してるのか?


「今さらだけどエネルギー問題って、ここでは解決してるのか?」


『エネルギー問題?ああ!そんなのもあったわね、全然気にしなくて良い事よ』


気にしなくて良いらしい、学習用の資料とか電子媒体を通じた情報でもエネルギー関係の話は見かけなかったと思う。


この惑星は電気によって色々な物を動かしてる、しかし電気を生じさせるエネルギーに関わったのはシェルターの電力復旧......ディアンを動かす時に触れた謎の発電装置くらいだ。


(......気にしなくて良いのか?)


藪の中は不可思議な空間鬼が出るか蛇が出るか......世の中は触れなくても良い事がある、今回の件は下手につつく前に時期が悪いので一旦棚上げだろう。


(とりあえず、ちょくちょく顔を出せば良いか......)


・・・・・


─とある避難の様子。


「避難?でもせっかく剪定した街路樹が......」


振り向いたらスッポリ地面ごと街路樹がシェルターへ運び込まれていた、そもそもドーム内の地面を剥がして行ってる。


「順調に花屋を開けたのに......」


花も含め建物の中にある物品全て、シェルターへ運び込まれて行く。運び込まれない例外は建物くらいだ。


「引越しみたいだな!」


時間が掛かる事は想定されて居て、余裕を持って避難が行われた。残された地上のそれ等はゴーストタウンを彷彿とさせるが、大きな大きな巨砲の場違い感は凄まじい。


『大丈夫です、安心してください』


シェルターはシェルターの役割りを果たす、深い深い地の底で幾重にも築かれた門がその口を閉じる。


「地上が地獄なら、地の底にあるここはコキュートスか?」


笑えもしない冗談を誰かが言う。


(それを言うなら宇宙が天国になるんだけど......)


流石に[壊すモノ]を天使扱いする訳にいかないと口を開かなかった誰かさん、AIは獄卒か何かですか?と物言いたげなレンズを誰かへ向けたが気付く事は無かった。

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