第3章三話:防備/塵鉄惑星

「エディン、その端末を取ってくれないか」


『はいはい、あなたも物好きよね〜ログの確認なんて』


「検索すれば欲しい情報は直ぐに見付かるから......」


ゥウーー!ン、ゥウーー!ン。


作戦室の大型モニターへ黄色い警告表示がブワッと表示されてく、これは......


「キアン、何があった」


『表示します』


どうやら[壊すモノ]を検知したらしい、一周回って検知出来る物なのかと突っ込みたいが一先ず置いて。


「......この距離は」


遠い、恒星系圏外の距離を察知するとかどんな技術よこれ。そもそもこの距離で分かる[壊すモノ]ってどんな存在なんだ......?


『現在の推定襲来時期は約一週間後です。ポッシさん、壊すモノは形を変えながらこの惑星へ近付いて来ています』


ディアンだ、シェルター大本のAI。


「対抗の準備は出来てるのか?」


『はい、既に十分な火力と防備が整っています』


そうか、じゃあやること無いな......って待て待て。


「一回うちたおしたら解決するようなもの......ではない、よな?」


『YES』


『襲来後に合わせてこちらからも何らかの方法によって恒星系内へ文明の光で照らさなければ、壊すモノがどこから出て来るか分かりません』


「湧いて来るものなんだ......」


『応急的に衛星を増設する予定です』


提示された資料を読み解けば壊すモノへの対抗手段が[対惑星外敵性物仮定砲撃機構]しかなく、少々心許こころもとない。


「これだけで......いやこれが、この形が一番なのか?」


『肯定します』


「理由は?」


『壊すモノは攻撃して来た物体をマネて、効率良く文化を破壊します』


要するに水爆やミサイルを撃ち込んだら同じ様な物が帰って来る、のか?下手したら倍以上になって。


『この砲撃機構は対惑星外に主軸が置かれ、地に足着く存在はあまり影響を受けません。宙空要塞化の理論は既に構築されていますが多大な資源や時間を消費するので間に合わないと判断しました』


「......もしかしてあの巨砲は時間が無いから取り敢えず作った物、だったり...する?」


『[取り敢えず]と付けては語弊を招きますが、防衛構造物であって攻勢の為に造った物ではありません』


なんかもっと違うのが造られるらしい、あれ一機でどこぞの80cm実用化された世界最大の列車砲くらい大きいけど......


『あなただって他の渡り人プレイヤーも動かなくて良いのよ!ぜーんぶまるっと私達が解決しちゃうんだから』


エディンがブンブン飛びながらそんな事を言う。他の渡り人プレイヤーがそれで良いのか甚だ疑問はあるものの、そう言う人物は既に去ってそうである。


『砲撃機構を動かすみたいね?ただ空へ向けるだけ、だけど見に行きましょう!ずっとここに居たら息が詰まっちゃうわよ!』


そんなエディンの言葉へ釣られて見に行けば結構な見物人が居る、ゆっくりと動作する砲身はゴトンゴトンッギギギやらの轟音を街中へ響かせてる。


「(煩い!あまりにも煩すぎないか!?故障じゃないよな?!ドームだから反響して、余計に煩いだけか?)」


『(故障じゃなさそうね!ドームは吸音出来る素材だけど、間に合って無いようね!)』


「(吸音?!アレで吸音してるのか!?響いてるぞ?!)」


砲撃機構はシンプルな作りである。シンプルだからこそ、ちょっと動いたら物理的なロックつっかえが掛かる古き良き仕組み......代わりにとんでもなく煩い欠点があるようだ。


大量の鎖がジャラジャラと内側で動き、カンカンと歯車が逆転しない様なつっかえ棒の音、それより大きい歯車の噛み合う音やらカッカッカッと歯車の動きを微調整するような振り子の音まで。


(機械式時計でも入ってるのか?って具合だ!)


やがて爆音は静まり同じ方角を向く巨砲、見物はお開きの様でポツリポツリと何処かへ行く渡り人プレイヤー達。


「(あー、あー、まだ耳がダメだな)」


座り込んで景色を眺めると違和感を感じる。いつの間にか地面の緑が増えてる、ちょっとした低木なんてのも生えてる様だ。


(土も耕されて、建物だけじゃなくなってるな)


そんな街の様子に少しだけ寂しさを感じる、なんか知らない内にドンドンと着実に変化して行ってるのだ。あの巨砲もAIが勝手に動かせる様で誰の許可も要らない、確実にヒトの手から離れ始めてる。


(壊すモノの脅威もAIが全部どうにかしそう、居る意味あるのか......?)


常々思う事、しかし以前に必死の引き止めをくらったので確実に必要である様子。権限さえ渡せれば......いや、ああ、なるほど。


(AIに権限があった所で、やる意味が無い)


ヒトの消失と共にその行動理由が消失する、いわば存在証明が他者由来の状態。良く言えばヒトとAIの共存、悪く言えばAIのヒト依存。


(ヒトでも他者へ依存する事がある、過保護な母親とか......)


ならばおかしな事では無いのだろう、少々比率が大きいだけ。解決方法は幾つかある、ヒトと同じ様に無意味と受け入れ自身で存在理由を作り出せるようになるか。


(一つの命に従ってこなし続ける......いや、それがアウルムの末路か)


あとは取り敢えずABCABCと証明系統のループ化、しかし......


(どれも寂しいものだな)


ヒトが生きる理由や発展した訳も欲でしかない、と語る極論と同じ様なもの。


(人が欲したから作った、作られた者はそれにこたえた)


そして作られた者は作った者に依存した、それで良いじゃない。


(なるほど見えた)


要するに、この惑星のAIは渡り人プレイヤーを創造者へ重ねて見ている。だから壊れ物を扱うように、大事にし過ぎて雛鳥扱いしてしまってるのか?


(この感情は寂しいとか不安、もっと頼ってほしいが混じってるのか)


一方的な奉仕は人を不安にさせる、相互の協調と歩みによって友人となる。


「......エディンはなにか、して欲しい事とかあるかい?」


『(いきなりどうしたのよ?そうねえ、あ!ここ最近どこか別の惑星に行ってたんじゃないの?そこの話を聞かせてちょうだい!)』


「あ、すまん。まだ耳が遠くて聞き取り辛いわ」


『(じゃあなんで聞いたのよ!?音響性外傷音波で聴覚機構が損傷し起こる難聴になってるじゃない!!)』


「別の惑星の話だな、被害が大きかったからあまり口にするのもあれだけど......良いだろう、個室で話すなら存分にね」


『(聞こえてない!?ディアン!ディアン!あれ持って来てちょうだい!抗炎症薬と構造修復薬!)』


「あれはそう、幽海惑星と呼ばれる水の惑星の話......」


・・・・・


[いまさら!]こぼれ話。



・とある渡り人プレイヤーは思った。


「これ塵鉄のAIに仕事を任せられるんじゃね?」


やってみた。


『お仕事、ですか......取り敢えず見せてください』


少し時間が経って。


『あ......これファイル形式が違いますね、時間がかかりますけど解析して開いてよろしいですか?』


許可してだいぶ時間が経つ。


『解析完了しましたよ、随分と非効率的な形式を使ってるんですね......』

『それとお仕事に関してですが。ちょっと今までに無い様な物なのでアルゴリズムを作るため、なるべく多くの記入済みと記入前のデータはありますか?』

『ざっとそれぞれ3000件ほど』


非効率的とはまさしくの様で開くのに時間が掛かる、学習データをぶち込んで出力させても整合性やらなんやらで更に時間がかかる、そして非効率的と呼ばれたパッケージングで更に時間が掛かる。


出来なくもないが時間が掛かる。しかも開いてみるとちょっと文字化けしてたり、到底使える様な物ではない......現実でAIを使った方が手っ取り早いレベルである。

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