第3章:拡散
第3章一話:表裏/偶像惑星
人々を見たくなった、だからこそよく分かりそうな[偶像惑星]へやって来た。
偶像惑星なるものは人々の信仰、もしくは感情に基づいて回る星と語られる。元々は信心深く偶像を崇め奉って居たが、今やアイドルが中心だそうな。
「んんむ......」
これは失敗したか?電光掲示板や街灯モニターにはアイドルを紹介する広告が貼られ、あちらこちらにも様々な彩りで人物広告が掲示されてる。
が、それを抜きにすれば狭苦しい灰色のビルに薄汚れた色のアスファルト。人通りは多いが広告なんて見ずによれたスーツで何処かへ行く人々、きらびやかな世界はここになさそうだ。
(さて、どうしたものか)
このまま帰るか、もう少し見て回るか。
結論は決まりきっている。一面だけ切り取って価値を決める者は愚者ですらない、
(とは考えたものの......)
(代わり映えしないな)
いきなり放り出された形なので、携帯だとか位置情報を把握出来る様な物は無い。
重苦しい雰囲気に
(......なるほど)
辺りを見渡す。こういう場所には......何処かに街の地図でも置かれてそうだが、あったあった。って随分と近未来的、いや現実にある時期か?ちょっとごちゃごちゃでな......モニターに映される地図を見てると気付く。
「......ふーん...」
陣取り合戦だ、これ。今居る場所が青?水色?で灰色の中間地点を挟み薄緑色やら橙色......円形の大きな街に色とりどりな輝き、場所によっては集まってこの場みたいに陣形をなす。
「陣取り合戦......海戦.....う、頭がっ」
痛いと言うか疲れると言うべきか、取り敢えず気持ちを入れ替えて見直していく。
「他の街もあるのか......」
それはそうだ。この街にだけ収まらず幾つかの同じ光りや新たな
何となく地図も頭に入ったので見て回る。大きな川の流れる場所は網状鉄柵で転がり落ちない様になっていて、土手の草が生い茂ってる。倉庫街の様な場所は例にもれず人がほぼ居らず静かだ、意外とオフィス街も静かで人通りは必要最低限に感じる。
(騒がしいな......)
一番人通りが多いのは繁華街。商業や飲食店が立ち並ぶが、どれも何らかのアイドル事務所?の系列店っぽい。煌びやかな街並みは目に悪く、私には合わないだろう。
裏道を進めばどことなく旧市街化した場所を彷彿とさせる石レンガ造りだが、路上ライブなども開かれて多少はアイドルの色に染まってる。
もっと先へ、ずっと歩けば極々まれに何らかの偶像がチラホラと置いてある。恐らくは古い時代にあった信仰の名残であろう、進めば進むほど名残は消えて行き先ほどと同じ様な裏道......別のアイドル色に染まっている。
(活動する拠点は裏道の奥が良い)
表はなんか疲れる、アイドルだの何だのって広告の種類も多すぎて覚えられない。飽和してないか?ちゃんと儲けられてるのか?歌って踊るアイドルなんて色々な人が協力して出来ているに過ぎない。
(アイドルなんて儲けてちゃんと金使ってなんぼ、やろ)
どうしても経営者の視点に立ってしまうがこの惑星でやりたくない、後追いとかどれだけ苦労するか......それより新参者が入れるイメージすら湧かない。
(アイドル以外の
良さそうな物ってのは大体先人が居る、先人が居ないのは理由があってやめた物だ。
(産業に製造や加工、運送から建物まで人目へ入る物は何でも手を出すアイドル事務所)
いっその事、手を広げ過ぎてるからそこに隙が出来る。スッと切り込んで入れば居座れるだろう。
(先立つ物が必要だな)
初期資金の確保、他の人々はどうしてるのだろうか?お財布の一つすら無い。
(......まあ、リアルの方のネットで検索だな)
答えはシンプル、アルバイトが出来るらしい。住所不定だけど良いのか?って突っ込みは無しのようだ......
(金があるなら、どうとでもなる)
金がなくても何とかなったりするけどね?修行僧の真似事とかしたくないのよ、推しのすすめってなんだ?この惑星でも働いてアイドルへ貢ぐのか......?(困惑)
(縁があればプロデューサーにもなれる、ね?)
なんか色々と押し付けられそう......頑張ればアイドルにだってなれる!とか頑張ったって努力だけでヒットするもんじゃないんですけど。
どれだけ良くたって時代によって大昔はとにかく足で稼いで、メディアに気に入られて稼いで、今や水準が高く良い物が前提でなおかつSNSとかで広まって売れなければ稼げない。しかも運に大きく左右されると来た、結果として多くの良い作品が埋もれて終わった......
(この惑星はどんな状況だろうか?)
ぱっと見でアイドル自体が飽和し、頭打ち状態。建物の色を塗り変えるほど社会に根差している産業、そもそも根付くどころか食品だとか包装一つ取っても全てアイドル事務所が関わってる。
(ちょっと狂気的過ぎ)
対してそこに暮らす人々は食傷気味なのか少々暗い。いわゆる推しを気にして買い物をしなければならないのだろうか?この製品はライバル事務所のものだから買わないとか......
(いや面倒くさいな、そこまで気にする必要あるのか?)
必要があるらしい、一人でも多く買い支えないと事業規模が徐々に縮小して最後は潰れたりするとか何とか。
(こっわ、てかアイドル関係無い業者とかほとんど残ってない)
大抵が
(これ社会全体で見ると衰退しそうだな)
残念ながら事務所の手広さは留まる事を知らないらしい、流石に街だか国だか知らないけど資源を食いつぶす事は......ないよね?
・・・・・
偶像惑星。煌びやかな世界とは裏腹に多くの挫折や失敗、人柱になった人々が居る惑星。
街の中心には古くから共鳴装置と呼ばれる発電機が存在し、人々の活動によって電力を発生させている。しかし年々発電量が下がってる事は街の差し迫った問題であり、アイドル活動を支援してるが以前と比べて結果は芳しくない。
議題の場でも、発電量が下がったのはアイドル活動によって負荷を掛け過ぎたからではないか?との意見は出たものの黙殺され、議席から降ろされて以降その様な意見は出なくなった。
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