第2章十一話:新人/陽月惑星
「これでよし、お大事にしてくださいね」
「ありがてえ......ありがてえよ、神父さん......」
「うちのバカがすみません、ほんと......」
「それにしても......何がどういう経緯で
「不運とダンスっちまってな」
「面白くないから、車の上で踊って落っこちただけでしょ」
「あー......さいですか」
救急バッグをしまって教会へ歩いて戻る、駐車場には結構近いから要請を受けて来たのだ。
「ん?メール?」
開くとどうやら病院の前でウロウロして困ってる人物が居るらしい、救急救命士の新人研修を受けたいが院内に誰も居なくて途方に暮れてるとかなんとか......
向かってみると、不安そうな表情でベンチに座る女性が居た。
「こんにちは」
慌てて立ち上がってペコペコと頭を下げてきた、それほど慌てなくても大丈夫だと思われますけど......
「救急救命士の新人研修をお受けに来られましたか?」
「あ...はい、それです。それを受けに来ました」
幾つかの事項を確認して、意思も確認する。手続きを済ませて研修......と言った所でとある事実、大体は実地での研修が足を引っ張る。
「今日は平和ですからね......やれる事をやりましょう」
「はい」
素直でよろしい。先ずは心構えから対応のやり方、判断の仕方、服装や状況に応じて優先される物をメモさせ教えていく。この惑星では教えた教えられたと言う事実が大事なのであって、ちゃんと聞けば何となくで出来る様になったりするのだ。
「と、まあこんな感じです......ここからは研修に関係ないですが聞きますか?施術速度や患者の回復に有意な差が出るものですが」
「お願いします」
「ええ、では」
外科、内科、診療、麻酔や薬物関係の使い方まで。とは言えよくある事例と対応方法を教えるにとどまる、全部教えてたら数年掛かってしまうので教えても良いごく一部でしかない。
その点は口酸っぱく言い含める、逆に下手な事をすると悪化してしまう。と。
「よく分からないならバッグの謎空間から取り出される基本医薬品をおすすめします、皮膚関係はこの軟膏とやらですが切り傷や刺し傷にも使える万能軟膏ですね。痛みはこの怪しいお注射で全部なんとかなります」
「は、はい」
「毒物とかアレルギー、風邪などの症状も取り敢えずこの
「はぁ......」
呆けてる様な状態、喜べないけどやっと要請が来た。
「ちょうど良く検体......コホン、救急要請が来たので行ってみましょうか」
「......?」
今回は少々遠いので救急隊のヘリで行く。謎空間から車を出せたり気が付いたらヘリに乗ってる場所であると教えつつ、操縦や運転のやり方も軽く教えておく。
現場は木のない山の
「ま〜たバイクですか、貴方も懲りませんね......」
「だって、バイク、良い......」
「研修中なので協力してもらいますよ」
「おう......」
「よく見ててください」
ササッと出血を止め捻挫を固定して話してればもう治った様子、傷の治りが異常に速い事は
「ざっとこんな感じです、ではお気を付けて」
「神父さんありがとう!じゃ〜な〜!」
「ヘリに乗ってください、追いかけますよ」
「え、でも」
景気良くピョーンと丘を飛んで行きゴンッと鈍い音、再び出される救急要請。
「もう事故を起こしたようですね」
「えぇ」
向かえばデジャブな光景、バイクはよく持ってる方だと思いますよ。
「本当に懲りませんね、治療費だの修理代だの掛かるでしょうに」
「バイク......乗れる、なら......必要...経費」
「バッグを貸します。分からない事があったら聞きながらで良いので、慌てずゆっくり貴方が治療してみてください」
「...分かりました」
手順を一つ一つ確認しながらやっていく。そもそも最初から効率を求めてはいけないのだ、そういうのは慣れてからが本番になる。
「
「あね......?」
「さ、ヘリに乗ってください。また事故起こしますよ、彼は」
案の定。
「そろそろ正気になってほしいですね......」
今度は一人でやらせる、うん合格。
「治療感謝するよ〜!」
「.........」
まさか次もある......?って顔、はいそのまさかです。
「さ、ヘリへ。ああ、安心してください研修に必要な工程は終わりましたから、でも一回ほど事故を起こすと思うので少しばかりお付き合いくださいな」
「まだあるんですか......」
「本当に直ぐ終わりますよ、そのやり方を見せると言いますか......」
お馴染みの光景へ、ヘリを下ろし。それを作り出した張本人のケツへぶすりと注射器を刺す。
「アー!?これ痛いやつだって!神父さん!?」
「元気そうですね、もう目の前が道路ですし私達は戻りますね」
「抜いて!これ抜いて!変な汗出るって!」
「治療が終わったら勝手に消えますから安心してください、これに懲りたらバイクで道路すら無い場所をかっ飛ばすのやめてくださいね?」
「なんか普通に痛いより辛いんだけど......?」
ちょくちょく刺してるはずですが、まあ忘れてるだけでしょう。
ヘリを飛ばし、病院へ帰ったあと。救急救命士になるか聞けば早速なるとの事、それならばと交友関係を広めに顔を通させる。
「警察の方は無条件に市民を助けてくれるからね、何かあったら頼った方が良いよ」
「お?神官のじゃないか、そっちは......」
「救急救命士の新人さん。さ、ご挨拶を」
挨拶をさせ、最低限でも広めておく。駐車場の方のたまり場にはグレー含めた民間人が居る、そっちにも顔を出せば心好く受け入れてもらえたようだ。
「救急救命士に!それはまた...」
「おーだからかー、顔は通してたほうが良いよー」
「おいおいマジかよ」
「へ〜応援してるよ!」
やたらと顔を広めさせられ勧められる事に疑問を持った様だ、出来るだけ簡単に言うなれば......
「善も在れば悪もある、悪が在れば善が出てくる。この星はその面が強いですからね」
「ええと......?」
「善とは無償の奉仕、悪とは他者から奪う事象。要するに救急救命士は回復役として裏社会に取り込まれやすく、襲われやすいんですよ」
「ふんふん」
「顔を広く知られれば知られるほど手を出し難くなる、それが生き残ってきたギャングやマフィアにはなおさら分かってる」
「それは......どうして?」
「居なくなった事に気付かれやすいのもありますが。一番は民間人が反感を覚えたら誰からお金を取ってるのか誰から食糧を買ってるのか、ご飯が食べられなくなるんですよ」
本当に強い反感を持たれるなら一般の人達は街を出てく決意をするし、死なば諸共と奪われる前に財産を燃やす。そういう人達は大勢居た。
その後の様子は問題も起こらず元気そうだ。他の救急救命士は私を除いて二十人以上が闇落ちならぬギャング落ちしてる事を伝えたら、そもそも救命士が二十人以上も居た事にびっくりしてた程度だ。
一般の方々からは微笑ましく見守られている様で多少安心出来て、作業も進むものだが......実機試験をしながら調整する程度だ。完成は近い。
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