第2章九話:意地/幽海惑星
とうとう我が船にも衝角が付いた。港の人達にいつの時代だとか突っ込まれたけど、そもそもミフユは木造でしかも帆船だからな......
「〜〜〜」
南方への輸送は1番最初が大変だった。それ以降は散発的な襲撃が来るだけで油断出来ないものの、爆雷だの砲弾が底を尽く事は無い。
「ん?おや......」
入り組んだ小島、艦船が隠され襲撃も無い比較的安全な場所だし秘島とでも言うのか?見慣れない構造物が......ああ、船だな?隠れてないってその位置。
「あーあー、そちらの所属は......」
『よかった!ミフユ船長!』
音量をミスって耳が痛い。通信機の調整を直して話を聞けば、相手は連絡の為にちょこちょこ海域を行き来してるらしい海防艦からだ。
前線では次の島の攻略が決まった様でその報を聞いた他の艦が、空っぽになった駆逐艦2隻を置いて三ツ島......前線へ向かったとか。
(確かに損傷は修理して塞いだけれど、一度でも壊れた部分は......)
本島なら乾ドックがあるけれど海路に不安がある、三ツ島は整備されてるけど本格的な修理となると......そもそも無事に辿り着けるのか?
戦力になるだろうが辿り着ければの話。海防艦は情報を伝える為だけに残ってたのでミフユと一緒に前線へ行きたいと、単艦で残っても仕方ないだろうし危ない。
「よし、それじゃあ行こうか」
道中は静か、な訳が無かった。襲撃されては返り討ちにして撃滅するの繰り返し、海防艦は逃げ足が早い様でいつの間にか居なくなってたり戻って来たりと行動的だ。
いつもより襲撃頻度が多いと言うか何と言うか、先に行った艦の影響か?
(
薄暗いものの、太陽光が何処からか入ってるようで視界不良までいかない。何やら腹に響く砲撃音が遠くから聞こえる......
「あの音......」
目を凝らせば遠方に見覚えがある大きな影、一隻だけで複数の
(砲撃圏内、入った!でもこのままでは......)
風が更に強く吹く、マストだけではなく船体からミシミシパキパキと嫌な音が響いてる。
(見捨てるしか無い?いや、そんな事は許せない)
散っていった者達へ顔向け出来ない事は、私にとって、散っていった者達の否定になる。
(だがどうする?帆ははち切れそうで、船体も限界を優に越えてこれ以上は分解される)
物理的に無理だ、いくら演算しても間に合わない。なにか最後の一手があれば......
(......
甲板に青白い光がユラユラと増えていく。人魂が現れるたび船体から響いてた嫌な音も無くなり、まるで海面を滑る様な速度で戦艦へ迫ってた魚雷や砲弾を受け止めた。
『ミフユ!?ミフユなのか!?なぜここに居る!?』
「今はそんな事より
甲板へ目線を戻したら青白い光は居なくなっていた、しかし背中を包むような温かさがあるので悪い事になっては居ない......と思う。
甲板に穴が開く。
「反砲射撃!この距離なら爆雷も投げ付けろ!」
ぼさっとしてたら沈められる!色々気になるけど戦場の不思議なんざ山程経験済みだ!海中の音波を調べると真下に不自然な波形、取り敢えず爆雷を転がして落とせば虎視眈々と機を伺ってた敵の潜水艦に当たる。
敵味方砲撃の雨、雷撃、爆雷、共闘の影響でどの艦がどれだけ倒したのか訳分からん状態だが、取り敢えず敵の駆逐艦2隻、重巡と軽巡?が1隻ずつ沈んだっぽい。最初に倒した潜水艦を合わせれば合流してから5隻か?
(そう言えば
海防艦も合流し改めて向かおうとするが......
『すまないけど先行っててくれ、エンジンが故障してて動かん』
「あー......どんな故障だ?」
『......直ぐには動かん、援軍として向か』
「ちょっと待ってろ」
ここで置いて行った場合、また先程の様な敵船団がやって来るかもしれない。しかし戦艦ほどの巨体を動かす動力は......この海域なら案外行けるかも?ロープは足りそう、か。
「牽引する、そっちにロープを渡すから指示する場所に」
『いやいやいや、流石に無理があるだろう』
「やると言ってるんだ」
『しかしだな......先に行ってくれたほうが、ああそうだ乗せられるなら乗せられるだけ船員を乗せてくれないか?』
「やって出来なかったらな」
『......分かった、まったくミフユの船長は
降りてきた船員へロープを渡し繋いでもらう、先ずは軽く引っ張り緩んでる所がないか一つずつ確認する。ちょっと無線が煩いけど放って置いて全力で引っ張る、ほぼびくとも動かない。
(もうちょい......)
ミフユの船体が悲鳴をあげる、無理をさせてばかりだが致し方あるまい。
『もういいって、この速度だと日が暮れちまうよ』
「できるぞ」
『はあ?』
「私の計算では、日が暮れる前に着く」
乗った。戦艦が大きな海流へ引っ張られ、ノロノロからノソノソ......今は緩やかな速度で進み始める。ミフユの役割は水先案内人、方向性を定め先導すれば通常の速度より少々遅い程度......?もう少し遅くなると思ったが海図的に遠回りをする事になるので本来の予定より少々遅れる。
『まさか......本当に......』
敵艦に遭遇したら正直戦艦を守りきれるか微妙なので、動けるミフユを塗料でわざと目立たせる事にする。目立つ塗料なので赤と黄色を用意してた、どうやら自動的に塗料を使用して船の何処かへ色を付けれるらしい。
一番目立つ帆へ塗料を使用する事に決めるが模様も付けれるらしい、日の丸......だけでは目立たないな、日足。
航海は不思議な事に順調そのもので、接敵する事もなくそろそろ三ツ島へ着く頃合い。しかし島の方では戦闘が行われてる様で......
「まだ戦えるか?」
『いつでもいける』
「じゃあ突っ込むぞ」
『はあ!?』
遠方からの砲撃じゃないのか?!とか無線が騒がしい、そんなちまちまやってたら助けられる命も助けられない。
三ツ島の防衛は慣れたもので敵艦を挟み撃ちにして磨り潰した程度、戦艦を動かせる状態にするまで待つ事になったが次の島へ直ぐ出港するとか何とか。海防艦の人が泣いて喜んでたけど三ツ島へ先に来てたらしい。
(物資は降ろしてようやく身軽、ここからは......ふむなるほど)
洋上補給艦として随伴依頼。木造船でなおかつ帆船なの、理解してる?あ、してるんだ......はい。
流石とも言うべきか、艦隊は安定した様子で
「あれが足掛かりの島か......」
鬱蒼と生い茂る密林に元々港を建築しようとしていた痕跡が残っている、早速作業を始める船員に周囲を警戒する船。残念ながら三ツ島ほど守りやすそうな地形ではない......
(なんか妙だな)
よく見ると地形が少々おかしい、これは......
大型の船、空母へ植物や土を置き擬態していた。
・・・・・
木造快速帆船ミフユ、自称輸送船の色々おかしい船。
年がら年中、夏のような日差しが鬱陶しい南方でどれだけ晴れていてもミフユが来ると故郷の夜みたく冷ややかな雲が掛かり肌寒い。
それでいて、どんな海域でも依頼されれば物資を必ず届けに来るので幽霊扱いされる事もあるが、あれは違う、絶対違う。
同じ様にコソコソ隠れて来てるのかと思ってたが、真正面から蹴散らして来てた。
しかも船なのか疑問に思うほど珍妙な動きをする、いきなり船体が横へ向いて止まったかと思うと回転しながら大立周りをしたり跳ねたりしてた。あれが帆船?
ついには光ってるようにも見えた、辺りの暗さと寒さも相まって青星を幻視したのは私だけだろうか?
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