第2章八話:抗争/陽月惑星

「ええ、はい。治療した後に襲われまして......」


「そのまま3人を制圧した、と?」


「ボッコボコにしてやりましたよ」


「警察に欲しいくらいの人材だな......」


事情聴取が終わったら直ぐに救急要請を発信してる所へ向かう、救急救命士は忙しいのだ......そもそも何でこんなに忙しいのか、ってよく事故が起きて他の救命士さんが働いてないから独りで仕事を回す事に。


「また貴方ですか、バイクに向いてないのでは?」


「ずびばぜん、でもバイク。カッコイイ」


ガクリと力尽きた様子、この惑星ではそうそう死ぬ事は無いので治していく。


「はい、終わりましたよ。気を付けてくださいね」


「ありがとう神父さん!」


神父では無く神官ですけどね、初対面の人にも神父と呼ばれるので訂正しても意味が無いので......


「そうだ、サンシェードが人を探してるみたいですけど神父さんは知ってます?」


「人探し、ですか?」


サンシェードと言えば、ちょくちょく教会で愉快な事になるアントニウスさんの組織でしたか。


「なんでもキャリアーって女の人がサンシェードの人と揉めたらしくて......」


「聞き覚えは無いですね......」


全くもって知らない、名前忘れてるだけだったら申し訳ないですけど。


「うーんそっか、街の方もだいぶピリついてるから神父さんも気を付けた方が良いよ」


「ええ、ご忠告ありがとうございます」


セントラルの方で救急要請、同じ様な場所に複数人が倒れてる。大抵こういうのは車で事故が起きた場合や、何らかの事件が起きている時。緊急車両で向かえば近くに車とか事故が起きそうな物は無い。


「あー......銃痕、ですか」


サッとネットニュースや手配書を照合しても一致しないので起こす。弾抜いて縫ってちょちょいと手当てすればあら不思議、直ぐに起き上がって来る......随分と元気だな。大神の神秘か?興奮し過ぎて立ててるだけで危ないのか?これはもう分からんのです。


「神父さん!止めないで下さい!もうこりゃ戦争なんです!あの女にゃ落とし前つけてもらわにゃならんのです!」


彼はそう言って携帯で何がしかを話して走り去って行った、他の人を起こしても同様で事情を聞く暇も無く走り去って行く。


(何があったんでしょうか、これ......)


困惑するしかない、そうこうしている内に警察署前でピョコンピョコンと救急要請が大量に出たり消えたりしてる。


(なにか抗争でも起きてるんでしょうかね......?)


教会も近いので慌てて向かえば銃撃が発生してる様子、耳を澄ませば聞こえて来る怒号。


『テメェ!こら!アイ・キャリアーを出しやがれ!』

『ギャング相手に市民を出すわけないだろ!』

『なんだと!アイツは白市民じゃねえ!黒市民だ!』

『警察は白だの黒だの市民を区別してない!』

『キャリアーを出してくれればウチも引けるんだけどさ!』

『市民を守るのが警察だ!職務放棄はしない!』

『ウチらは市民じゃないってのかー!』


中々に混沌とした状態、数十 対 数十 のカチコミで真正面から様々な物を盾にして撃ち合ってる。本来は立地的に警察有利のはずだが、現実は逆になってる......その理由として。


(へぇ......私が救急救命士としてあくせく駆け回って仕事をしてたのに、ギャングの方へ着いて悠々自適に金儲けとは良い度胸ですね......)


はい、儲かるらしいですよ?ここで警察が負けてしまっては権威の失墜とか困る、どちらが正しいだとかの理由は横に救命士として警察支援を決めた。


(裏手から、意識が外れてる時にスルスルと)


治療をしていると、いつ入って来たのか聞かれたりギョッとされるけどそこに患者が居るのだから関係無い。幽霊じゃないよ?ホントだよ。


数的差は無くなり自己犠牲的な突撃も効果が薄く、勢力は拮抗して泥沼化した。


「いつ終わるんだこれ...!」

「他の場所から応援が来るから!それまで持ちこたえれば良い!」

「弾薬、アーマー、全部こちらが上回ってるはず」

「ヒーラーも居るんだ!負けるはずが無い!」


『アレを出せ!早々に決着をつけるぞ!』


手榴弾の爆発に混じってキュルキュルガタガタと履帯の音、重量物を動かす様なエンジン音。


「戦車...?」


警察署のガラス扉が、吹き飛んだ。


「チィ......!」


倒れてないのは直前に気付いて伏せた自分と、運良く生き残った数人。しかし乗り入れて来る戦車。


「へ、へへ。良いのかな、良い、んだよな?戦車だもんな......」


「何を...」


手が震えてどこか様子のおかしい警察官が長物を取り出すっ!?


「給料2ヶ月分を喰らえ!」


「パンツァーファウスト!?」


携帯式対戦車擲弾発射器!要するに使い捨ての無反動砲、んな危ない物どこに隠し持ってた?!給料2ヶ月分で手に入るのか......と頭に巡り物陰へ飛び込んだ。


戦車が内側から燃え、燃料や砲弾に引火。爆発を引き起こし無事なのは私だけ、慌てて警察を起こして守って貰う。


「......戦車が潰されて撤退、か」


襲撃者達が散って行く、襲撃は一旦終了した様だ。


警察署には別の所から応援もやって来て立て直しが図られる、また治安維持の名目で一時的に見回りが増員された。


(今日はもう、教会でゆっくりしたいですね)


教会に入って仕事が残ってないか確認しようとしたら、後ろから[短銃/拳銃]を突き付けられる。


「お前、警察に味方してただろ」


「ええ、あまりにも救命士のバランスが崩れていましたので介入させていただきました。なにぶん警察の権威が失墜し過ぎるのも街が荒れるので」


トリガーに力が入ったな。


「やめなさい」


教会の長椅子に座ってスマホを弄ってた人が声を上げる、アントニウスだ。突き付けてた人は銃を下ろした、はてどう言う関係か。


「教会への武力行使は厳禁、ですよ」


銃を突き付けてた人は素直に下がり、教会から出て行った。喰うも煮るも、何とも言えない発言だな。


「アントニウスさん、先程の彼は?」


「[わたし]は知りませんね」


サンシェードのボス、アントニウス。警察の人曰く、彼はこの街へやって来てから一度も尻尾を出さず捕まっていない人物だとか。


てか、あんな大騒ぎがあったのに長椅子でダラダラしてたとか豪胆と言いますか......


(プログラムは......シンプルに)


パソコンを開き緩く作業を進める、原型が出来た所で外がヘリコプターの音やら騒がしい事に気付く。


(なにかニュースになってたり......してますねえ)


曰く、アイ・キャリアーが警察の保護から自主的に抜けて攫われたらしい。今までのあれこれは何だったのか、保護を強制する事は出来なかったらしくみすみす出て行かれてしまったとか。


(あらまあ無知な警察批判に、裏取引があったんじゃないか?って陰謀論まで)


飽きれて閉じると誰かが教会へ入って来た。


「神父さん、立ち会ってもらいたい」


「ええ、第三者として立ち会う形ですか?」


「そうだ」


「良いですよ」


立ち上がって向かおうとすれば、アントニウスも着いてくる。


「神父さんだけ行くより安全でしょう?」


敢えて無関係を装うのか、さっきからやって来る人と同じ様な臭いがするってのによくもまあ白々しい。


車に乗せられて向かった先は南の更に西南、海が見える治安最悪の街。船へ乗船し、島から離れ続けて事の顛末を教えられる。


(これは......もはや何も言うまい)


曰く、最初は些細なすれ違い。キャリアーが「闇の情報を教えて〜」と言ったので、取引相手は「情報ならある程度売れるよ」(薬だの売人だのの情報を想定)と答えたら。


キャリアーが(自分の所属してる組織情報売るんだ!)と思い込んであちこちに「あそこの誰々は組織の情報売るってよ!」等と言いふらしてまあ大変な事に。


ウチの事舐めたマネしてくれたなあ!?って乗り込んだらキャリアーが「個人間のやり取りだから!組織関係無いから!」とかなんとか。


最終的に警察署へ逃げ込んで先程の状況、組織が撤退したから安全だと思い込んでノコノコ出た所を捕まって今だに「自分は悪くない!」とか、のたまってるそうな。


(頭が痛くなりますね......)


捕まってる本人に話を聞いても大筋が同じ、唯一違うのが「分かり辛い発言をした相手が悪い!」と言ってる事くらいか。


「そもそも関わらん方が良いだろうに......」


思い込みが激しいなら関わるべきでは無い、関わってしまっても柔軟な発想で切り抜けられる、それさえ無ければ大人な対応で素直に頭を下げられれば何とかなる。出来なかったら?


「こんな所まで連れて来て泳がせるつもり?」


「いや、君にはここで消えて貰う」


重い足枷、まるで罪人のよう。自身の末路を察したのか、ようやく顔色が青くなる。


「い、いや」


あまりにも呆気なく、ポイと重りを海へ投げ込まれた。


「いやいやいや、いやああああ!?」


ドンと這いつくばり必死に船を掴むが、ズルズルと海へ引き摺り込まれて行った。


海は深く、到底泳いで引っ張り出せる距離では無い。救急要請が来てもどうしようもないレベル、なるほど道理で行方不明になる人物が多い惑星だ。


・・・・・


力が無い者は長いものに巻かれる。力とは個人の独力だけでは無い、交友関係や資産だって立派な力になる。


武力や権威があれば押し通せる、仲間や友人が居れば1歩引いてくれる。

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