第2章五話:初陣/幽海惑星

いつもの様に幽海惑星で海上輸送をおこなっていたら、突如として陛下からお呼び出しが掛かった。陛下?ナニソレ状態なんだけど、幽海惑星にも皇室があるって?お高い服買って着た方が良い?え?いらない?そのままでいい?ううん......


この惑星の礼儀作法とか分からないんだけど......あれよあれよと言う間に連れられて扉の奥へ押し込まれる、そもそも幽海惑星の皇室がどのレベル帯か?神代から続いて、はや数千年なら日本レベル。困って扉を見て居ると後ろから気配を感じる。


「性急な召致しょうち、謝罪しよう」


思っていたより随分と幼く、(皇帝として)若く、深みのある女声おんなごえだ。初見で感じる事は正しく皇室由来の血筋、そして恐らく経験から本物。しかしながら、らしくない。少なからずすめらぎは演じる面があるもののこれでは何と言うか、親の代わりを演じる事になってしまった子供の様な......


「いえ、こちらこそ急な呼び出しでよそおいも礼儀すら分かっていない状態ですのでお目溢しを戴ければ幸いです。快速木造帆船ミフユの船長をして居るポッシ・ブルと言います、以後お見知りおきを」


振り返り、先手で保身しつつ自己紹介と礼をする。幼いと言うよりまだ童子だ、ここに来るまでされた対応と部屋の内情を見れば求心力が低下してる事は分かる。戦時中とは言えそもそも二人だけで会わせたり警備も殆ど居ない状態では......


「よい、公のものではない。そこへ直るといい」


謁見の間、とでも言うべきか?想像していたものより小さい、別荘や別邸かここは常在している建物でない事を感じ取れる。頭の上にぴょこんと狐の様な耳と尻尾を持つ童子、女帝にしては......もしや既に残ってないのか?


「此度呼び寄せたのは命を下すためじゃ、ミフユ船長ポッシ・ブルには南方へ軍需物資及び輸送の任を与える。任については通常の依頼と同様に受けられるからな、どうか努めて励んでくれよ」


「謹んで拝命致します」


そうして重点的に南方へ行く事を決定付けた。依頼の中身は砲身の換えや分解された航空機等兵器に船の修繕で使われる物、医療品に食糧や消耗品まである。


ここで重要になるのは船へ乗せた時のバランスと積載量だ、割れ物が落っこちて使えなくなるなんてもっての外で砲身や砲弾等重量物が転がって転覆とか目も当てられない。


ミフユの為の修理用品と万一の塗料缶も乗せて置こう、遭難した時とかに目立ちやすくする方が良い場合もあるのだ。


「それじゃあ......これでお願いします」


港の受け付けで積載計画書と任務の受託を完了させる、積載が終わった後は試験航行をやって無事を確認してから南方へ向かって行く。普段より少々重いが航行に問題無い範囲、どんよりとして雲行きは怪しいがいつもの事なので気にしない。


「これは......」


正直に言えば滅茶苦茶不穏な空気、これ以上進みたくない。頭の中の警鐘が騒がしい、いつもなら避けて行くがどうにもこれ以上に安全な航路を感知出来ない。


「時間は掛けられない......か」


厳重警戒、機器の動作チェック完了、ソナー探知反応ナシ、船体速度上げてけよ。


「見張り台から敵影ナシ、敵影ナシ」


頭の中で視界が重なって見える、バタバタと帆を動かす為に何人もの身体を動かす様で頭がこんがらがってく。もっとくせをつけてなかば自動的に動く様にしなくては......


「雷跡!?3時の方角!潜水艦か!取舵一杯!ソナー反応はどうした?!」


ああもう!自分一人でやらなくてはならんのか!今さらソナーに感あり!1時方向?!


「とにもかくにも対潜用意!右舷爆雷射出!」


左へ弧を描き魚雷をすんでの所で躱し、ポーンポーンと爆雷を飛ばせば連続した腹へ響く音とソナーの乱れに黒い油が海面へ浮かび上がってきたので恐らく当たりはした。


「さて他に居るかどうか」


ソナーに、先程の海面から何かが上がって......?不気味な潜水艦が浮上してきたか、だがこの感じ今だに害意がある。ピリピリと体表でも感じるほど明らかに強い電波。


「まさか、仲間呼び寄せたな!?」


高角砲を向け撃ち込み今度こそ沈む、今すぐこの場から離れなければ危険だろう。最初に考えてた航路は推測されやすい、もう使えないか?いやしかし遠回りをした所で危険海域に居る時間が増える、ならば......


「多少ズレるが航海計画に大幅な変更は加えない、可能な限り最短で突っ切る」


そもそもな話し、相手の索敵能力は


「10時方向から航空機?敵機!対空戦用意!」


高角砲を本来の形で空へ向ける、しかしこの距離では当たらないだろうから待ちの姿勢だ。


「砲弾の数はこころもとない、積荷は満載状態だから被弾も避けたいな......」


敵機を観察して分かった事がある、[あいつ近付いて来ない]偵察機の役割りか何なのか。非常にマズイ、アレは陸上機じゃない艦載機だ。


「空母、それだけなはずが無い」


野良空母みたいに単艦で居るはずがない、最低でも駆逐艦が護衛していそうではある。まだ、まだ、今。高角砲は最初の数発で位置を確認してから斉射、逃げ道を塞いで墜落させる。


「敵機の位置からしてこのままでは接敵する、しかし避けた所で空母の索敵から逃れられるか......」


覚悟を決めるしか無い、嫌な気配も近づいてる。どんよりとした雲の下にチラチラ見える影がひーふーみー6機、敵機の後続が来た様だ。


「ふー、.タイミングタイミング、早めに早めに......おもーかーじ!」


次々落とされる爆弾を避けて、先程起きた初陣を参考に避けながら高角砲で反撃して敵機を落とす。


「とりーかーじ!」


先陣を俯瞰して待っていた航空機による次の爆撃が来る、スレスレで避けて確りと反撃の手を緩めない。


「遠方に敵艦隊を視認、編成は空母1......いや2隻!駆逐艦3隻!」


次々飛び立つ敵の艦載機、編隊を組む様子から見てざっと5〜60機は居るだろうか?顔が引き攣る、これ沈むやも知れんな。


「......雷跡、こんな時にっ。1時方向と5時方向から?!」


これ絶対単艦で挑む物じゃない、護衛は居ないのか?!こちとら色々乗っけてるけど木造の輸送船だぞ!?


「ええい!突撃しか道はあるまい!」


同士討ちを誘発させればなんとかならなくもない、その為にはこの長い道を航空機からの攻撃を避けて格闘戦に持ち込むしか......やはり無理では?


「爆雷射出及び投下、砲弾の移動はじめ!」


来た。


「全砲門用意、撃て撃て!」


とは言うものの、継続戦闘が優先で贅沢なバラマキはせずに一撃必中を実行していく。重視するのは回避、最悪相手を見逃しても良いと心構えて置く。


潜水艦を破壊した様な水柱と重油が浮かんでくるけれど雷跡、魚雷があちこちから迫って来る。休む暇もない艦載機による爆撃や雷撃、その全てを避ける事は難しく掠ったり損傷するが致命傷は今のところ避けれてる。だが取り敢えず空に砲を向けて撃てば当たる様な状況であり、近付いて来た艦載機が仲間と衝突して墜ちてくれるのでなんとかなっている。


ドッ!


「っ!船首消火急げ!」


積み荷に被害が!甲板が剥がれ積み荷が剥き出しで燃えてる!バラバラに積み込んだから被害は大きくないが出来るだけ持って行きたい、帆に燃え移るのも穴が空くのも避けたい所だ。


「駆逐艦射程圏内!」


船首を向け駆逐艦からの砲撃を船体で逸らす、当たった部分は抉れて黒焦げだが貫通はしてない!バラ撒かれた魚雷の間を通って取舵一杯、激しく波をたてぶつかりながら砲撃をして転覆させる。


続く様に来た駆逐艦は甲板を一掃すると攻撃がやんで、お仲間さんの魚雷で沈んで行った。離れた位置から攻撃しようとする駆逐艦へ大きく迂回しながら近付こうとしたら相手さんの雷撃機による魚雷でこれまた沈んだ......いや同士討ち多くない?分からんでもないけど。


遠い位置から航空機を飛ばそうと離れ始めた二つの空母へ接近して、敵艦載機の激しい攻撃の中で二つの空母の間へ滑り込み爆雷や砲を撃ち込んだら、えらく簡単に沈む。航空機も数えるほどしか無く、突貫してきた物を処理すれば静かな海域へ戻る。


「はぁ......はぁ......終わった、のか?」


帆は穴だらけで船体も何とか持っている状態、だがそれでも速度が落ちた程度でまだ動く。


「爆雷もう殆ど無いし、潜水艦居たらどうするか......」


逃げの一択、かな。


・・・・・


戦果


軽空母:2(艦載機:40/40)(艦載機:30/30)

駆逐艦:3

潜水艦:5

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