第2章四話:陽光/陽月惑星
意識はありますか?息は出来ていますか?眩暈がしたり吐き気はありますか?身体は痛いですか?動かせそうですか?分からないなら分からないで良いですからねー。
「う〜ん、これは見事な骨折。近くで処置出来そうな場所は......」
テキパキと固定しながら応急処置を施す、神官の副業として何の因果か救急救命士を選択する事になって色々と実状が見えて来た。
これ救急救命士ではなくて事実上の個人医ですね、はい。正確には救急救命医師?とかになるんでしょうかね?通報が入って現場へ向かい、その場で大幅な対応が許可されてるとんでも役職。
「ええと必要な物......」
救急救命士になったら渡される医療バッグからは無限に医療関係の物を取り出せる、取り出した器具を使用出来るのは医療関係者のみではあるが何処かへ取りに行くより効率的......ではありますけど。
圧 倒 的 人 手 不 足 。
治療報酬の関係で一つの事案に一人が対応する形式、取り分が減るとか救命士としての志しはどこへやら......結果として運転連絡診療施術容態確認に道具を取ったりだの力仕事も全部一人でやらなくてはならない。手が、手が回らない......
「これでよし、まだくっついてないので出来れば安静にしてくださいね。向かいに来れる方は居ますか?ありゃ、そうですか......」
あれやこれやと対応した後は暇になる、本当にめちゃくちゃ暇だ。忙しい時と暇な時の差がエグくて風邪でも引きそうだ、なので本業の神官として働くのがいつものですけど......
(今は特にやる事が無いんですよね......)
なら
「今まで慌ててばかりで街並みもよく見てませんし、観光でもしますか......」
ちょうど今の場所は東に行けば奥まった街で西に行けばいつも居る中央の街へ行ける、長い長い高架道路。東はまだツテが無いからいつもの場所が安全ですかね......
(とは言え街は広い、何処から見たものか)
車を走らせて、ふとコンビニへ目が行く。観光ガイドの冊子とか置いてないだろうか?緊急車両だとしても停めたり休息は許されている、所属が街で勤務時に巡回したりするので仕事中は一生運転してろってのも無茶というか事故が起きるから休息は積極的に取るよう指示書が回ってる。
「......戻るついでに寄りますかね」
車をコンビニに着けて入店すれば目的の物は直ぐに見つかる、中央の街の名前は確か......
「セントラル、でしたか」
購入した観光ガイドの本へ目を通すと合ってる、
「先ずは......」
警察署の北側を進んだ所にある駐車場で話を聞けそうなら聞きますかね、観光ガイドに載ってない様な事も聞けるでしょうし。自分のバイクへ乗って向かえば特に問題も起きてないご様子、ホットドックが売られてたので購入して食べながら立ち話へ参加する。
「ニュート君が警察になるってさ」
「ええ?あのニュート君が?」
「それはまた微妙な......」
「まあニュート君だし」
「なんかお腹減ったわ」
「確か...にっ!?」
綺麗な二度見を見せてもらえた。
「神父さん!?いつの間に?!......どこから聞いてました?」
「......どこからだと思いますか?」
「ああああ!教会の祝福が使えそうで使えないって愚痴聞かれたああ!?」
「今さっき来たばかりですけど......」
言葉が聞こえなかったのか膝をついて絶望したまま、そんなものを傍目に横から疑問の声が上がる。
「あれ〜?神官さんってこの辺にあんまし来ないよね?なんかあったん?」
「ええまあ。この街にやって来てから色々と忙しく見れてなかったので、そろそろ街並みを見ようかと」
「あ〜散歩?」
「観光みたいな物ですね」
「カンコーってーと、闘技場とか」
「白、白だから、神官さんは白」
「あー......」
「市場とか良いんじゃない?」
色々話を聞いてみると南東にある一般向けのカジノ、ちょっと怪しげだけど色々な物が売ってる地下市場、北や北東辺りは路地裏の奥へ行くと危ないだとか。
観光ガイドの本には西にカジノと自然公園があるとか。南西は緩やかな山なりで展望台から街を見渡せる場所があったり南南東辺りの市場なんかが紹介されていて、主に店や施設の紹介が中心だ。
地図と照らし合わせ見せながら話していると、仕事の電話音が鳴る。
「はいもしもし、ポッシです」
『神父さま、神父さまに頼み事をしたいとおっしゃる方が居らしてます』
「お名前は何と名乗っていますか?」
『...は...で......はい、アントニウスさんの様です』
近いので行く事を伝えて慌てて向かえば、アントニウスは教会の前で恭しく頭を下げてくれた。バイクから降り返礼して話を聞こうとすると車に乗せられようやく話を始める、ナンバーズ?との会合で立ち会ってほしいらしい。
特に拒否する理由は無く、ちゃんと都合の良い日時を詰めてくれる様で私から言う事はない。
「ここでよろしいですか?」
「ええ、大丈夫です」
「では後ほど」
「はい」
そんなやり取りをして、軽く教会を見て大丈夫そうなので携帯へポチポチとドット絵を打ち込む。隙間時間でちょくちょく進めているのだ、とはいえ気が向いたらの面も強いですけど地道な積み重ねこそ真理。
(って違いますね、もっとよく街並みを見ておかないと)
確りと思考を切り替える、ヒトは同時にあれこれとやれる造りではないですし。
「先ずはどこへ行きましょうかね......」
西の展望台へ行って、街並みを眺めてから気になる場所に行きましょうかね?
・・・・・
ポッシ神官は街に随分と馴染んだ。キャソックの様な黒いコートに月と太陽を模したオオカミ教を象徴する首飾り、その上から陽月惑星で救急救命士を象徴する白衣(医者なのでは...?)を羽織った独特な出で立ち。
宗教家としてそれで良いのか?と思われる事もあるがそれを口に出す人は居ない、単純に命が惜しいのだ。
曰く、マフィアと懇意な間柄である。
曰く、本人がマフィアなのではないか?
しかしポッシと関わる者は、曖昧な表情を浮かべてこう答える。
『悪い人じゃないんだけど......怖いっちゃ怖い人だね』
『やられたらやり返すで死ぬほど怖い思いするよ〜』
『なんかいつの間にか居るね』
『その場の空気をコロコロ変えるよね?』
取材を切り上げて、車に乗り込んでエンジンを掛けた所で背筋が凍った。
「詮索とは感心しませんねえ」
ルームミラーを見ると、それはとてもイイ笑顔で車内に座ってこちらを見て居た。鍵は閉めていたはずだとか先程までは居なかっただとか取材を受けたグループの一人じゃないかだとか扉を開けて閉めた音は一回きりだっただとかぐるぐると頭が回らなくなっていき、パンク寸前の所で
神官は扉を開けてバタンと閉めて去って行った。
恐怖で慌てて車を出して落ち着いた後、ふとポッシ神官が座っていた座席を覗くと一通の手紙が置かれ、今回の取材や記事にする事を許可してくれるものでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます