第2章三話:疑念/塵鉄惑星

『あ!来たわね?』


塵鉄惑星へやって来た途端にエディンから話し掛けられる、エディンが居るのも徐々に慣れてきたかも知れない。


『ご飯にする?それとも食べないかしら?農作物も採れる様になって来たから、ちょっと豪華よ!』


「いただこうかな、その様子だと人材育成も順調かい?」


『ええ!それはもう!』


どうやら渡り人プレイヤー人工知能AIの関係は上手く回ってるらしい、視察してから判断しなければならないがエディンの声色から下手に肩肘張らなくても良さそうだ。


『豆のスープとパン、足りない栄養素はペーストですが評価はそれなりに良い物です』


「ディアンか?」


『はい。食事の後でよろしいのですが、目を通していただきたい報告がありまして』


「そうか、分かった」


先ずは食事だ。スープのお豆は多様な種類で色味が豊か、パンは皮が少々硬い物の手に持ちやすいぷっくりとした短い棒状の......フィセルパンの種類にしては形が違う様な気がしてどう表現したものか。皮は硬いけど取り敢えず美味しいのでOK、皮は硬いけど。


「うん、美味しい」


スープに浸して食べれば顎に優しい、染み込んだスープの塩味と旨味か?これは、香りも近付けばふわっとコンソメの様な......肉類は殆ど入ってないな、野菜?それにしては。ああ、ペーストを利用したのか?出汁を取るだけ取って、残りは......?それか単純に粉末の風味が飛んでるだけか?


「スープにペースト使ってる?」


『よく気付きましたね、余り物を活用したようです』


「透き通ったスープ、残骸残り滓とか出てるんじゃないの?」


『食べる以外にも活用方法は沢山在りますので』


「そうか」


ただの水だった飲み物も薄っすらと苦味......香ばしさか?ちょっとだけカテキンでも添付した様な気がしなくもない。ペーストは無駄に美味い、お豆だのパンだのはもっと頑張ってほしいが見た目や食感・香りとか食事の楽しさは軍配が上がる。


それに試行錯誤してるっぽいのでおまけ点もあげられるから、おーるおっけー。


「ご馳走さまでした」


食事が終わったら頼まれ事のお時間だ、目を通す報告とはなんぞや?板、タブレット端末?あー......AIがこれ許可しましたよ〜って報告の人手による確認か、機械の方がヒトよりミス無いけど形式的な。権威的正しさ、と言った方が正しいか?


(確認だけで許可を求める物じゃないから......)


サラサラと目を通して、チェックマークを付けていく。内容は大抵の場合、資材を移動しましたよ〜とか建築許可しましたよ〜やら果てには渡り人プレイヤーの要望に応じたり資格も与えた、とか含まれる。


「こんなもんかな?」


端末から見れる報告のチェックを一通り終わらせて視察に行く。正直に言えば放って置いても良いのだろうけど、人工知能達の動きや渡り人プレイヤーの関係性は参考になる面がある。


次へ活かす為にも、参考例はいくらあっても足りない位だ。


「ん...?あれは?」


『資材輸送の行列ね!資格を持った人が立ち会ってるから大規模になってるみたい』


通路の片側にズラリと列をなして汎用ロボットが荷物を運んでいる、箱状なので中身は分からないが持ち上げてる事からそれほど重くはないのだろう。最後尾から今回の立会人がテクテクと歩いて居る、シェルター内では健康上の理由で徒歩が基本だ。悲しい。


(そもそもこの世界で健康を気にして意味があるのか......)


元々人間は運動し続けて生きて来たから毎日5分ちょっと運動するだけで頭の回転や集中力・免疫機能が格段に良くなる、仮想世界で運動しても効果があるのか知らんけど。


……一応、物によるのかな?実際に筋肉が動くかで考えると、制限されてるもののピクピク動く様だからリアルでの筋肉は落ちてないし効果は......ある、かも?


「......なんか地上、だいぶ変わってない?」


『ドームが出来たのよ!自然光も取り入れて建物も建てられる広い空間!もう少し空間施設や技術関係の資格を持つ人が居れば、昔の地上と遜色ない位になるわ』


夕暮れの様な赤色が降り注ぐ発展途上の街並み、天蓋空を覆うドームいくつかの場所が透明な窓になっている。今だに建築している場所はロボットと人が話しながら指示してる様でどうにもその光景が網膜へ焼き付く。


「......それで、防衛設備はどうなってるんだ?」


『主要な設備はドームの外周に壁が建てられて、そっちに移動してるのよ!』


恐るべし人工知能の技術力、いや頼りになると考えた方が良いのか?短期間でこれだけの物が作り出せるなんて、ここに居た人類は記録されているよりも凄かったのだろう。


……なんで滅んだ?


滅んだ理由の一つとしてアウルムが影響している。まさしく接触すれば機械はウィルスに汚染され人々を攻撃する様になる、アウルムの子達と言う様に敵対的な機械を製造し当時の社会を混乱に陥れた。


これほどの人工知能を作り出せる人類、機械に依存でもし過ぎたのか?しかしシェルターを作り、ちゃんと避難して寿命で果てた。空を見る事なく地底で骨を埋めた、その理由は何だ?ただの偶然か?


(凍眠みたいな状態で待っていたら滅んだと言えるか微妙だけど、今のところ見当たらないしな......)


仮定として滅んだと定義付ければ、ますます分からなくなる。どの様な理由があって人工知能達だけが残されたのか?


(コレハワカラナイ、いやこう言う時こそ視点は広く)


第一に敵はアウルムだけか?第二に発展は正しい物だったのか?第三に情報は正しい物か?


アウルムは考えるだけの情報がない。これだけの発展でもパット見は上手くやれてる様に見える、情報の正否は正直分からんてか人工知能がくれた情報以外に殆ど消失してそう。こんな状況になったら論理的に正しい情報を積み上げていくしかないじゃない。


実は人工知能の方が宇宙から来た外来種で現地惑星の生物滅ぼして休眠かましてました、とか洒落にならない陰謀論だって作れてしまうのは良くない、良くないぞ。


(てか噂話とか言論攻撃で滅んだ国もあるから......)


ここがそんな状況になったら極めてまずい。頭回るくせに知識ない奴が騒ぎ立てたら地獄の様な環境になる、対処としては平等アピールしてそれっぽく民衆を扇動する事くらいか......いやいや、考えがズレてる。どうしてこんな状況になってるのか?だ。


(でも結局分かりそうにないな)


難易度もインポッシブルのまま変わってないから根本的に何かを間違えてる......?シンプルに情報が足りないのよ、情報が。


『ポッシ〜大丈夫?なにか思う事があるなら言ってみなさいよ』


「いや......いい、大丈夫。気にしないでくれ」


渡り人プレイヤー一人一人にエディンの様な形で補助してくれるAIがついてる、突然裏から斬って来る様な敵とは考えたくない。


『顔色悪いわよ?』


「少し、地上進出の様子が気になってね」


『それならば私がお答えしましょう』


何処どこからかディアンの声、事実気になってるのは確かだ。


『連絡の取れなかった周辺基地を偵察した所、アウルムの子達に占領されてる場所がありましたので攻略部隊の準備をしている所です』


「何とかなるものなのかい?」


『はい、協力的な渡り人が多いので』


・・・・・


発展は加速的に早くなる。ただ居るだけだった人々に役割が増え、危険地帯も減っている、新しく惑星へ来た住人は距離がある物の運が悪くない限りコロニーここへ辿り着く。


シェルターから飛び出る様な形で作られたコロニーのドーム、視認出来る範囲へ行けば迎えがやって来る。


「疲れただろう、先ずはゆっくり休むと良い」


車の中で続けて言われる言葉。


「そうして休んだ後はやりたい事を探せば良い」


それ以上でも、それ以下でも無い。

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