第2章:延焼
第2章一話:適所/貿易惑星→幽海惑星
ザバンと波が船体へ打ち付ける。スッと鼻を通る潮の匂いは発展した都市にありがちな不快な物では無く、透き通る様な爽やかな香り。
「スゥ......ハァー」
淡い海!サンサンと照らす太陽に、何処までも高い空!何の因果か[ 陽月惑星 ]で造った"木造快速帆船ミフユ"が[ 貿易惑星 ]でも使える様で絶賛搭乗中である。
ふらりとやって来たばかりの貿易惑星だが、やる事は単純明快らしく貿易である。
曰く陸地の殆どが水に沈み大陸は無く、島国が乱立する造船技術の発達した惑星。
「需要がありそうなのは......」
早速初期資金を消費して港で品物を仕入れて来た所だ、視界端に映り込むマップを押して開けば様々な情報が載っている。もちろん値動きの変化や売値価格も。
現実ではこうも簡単に見れないだろう。ゲームならではの便利さ、本来は船員が必要な所も木造船ミフユの場合は陽月惑星に引き続き1人で動かせる。
「ちょっと遠いけど行こうか」
帆を張り風に押され、海流へ乗る。鼻歌を奏で時には船乗りの歌何てのも歌ってしまおう、少し遠回りだけどこの海流に乗れば一直線で行くより早く着くだろう。
「ふふ〜ん......ん?」
スィーっと船を走らせて目的地へ近付けば嫌な影がある、あれは大型のコンテナ船?タンカーだろう。嫌な予感がしたのでマップを開けば買取価格がガクッと下がってる。
「あー......こりゃ利益出ないな」
予定を変更して近くにある別の島で売る事にする、どうやらコンテナ船も同じ方へ行く様なので可能な限り素早く走らせる。
「20kt《ノット》がなんぼのもんじゃい、5kt《ノット》程度の差なんて覆してくれる......!」
風に乗ってマストがミシミシ文句を言う、恐らくこの程度はまだ大丈夫......文字通り全力で行けば何とかコンテナ船より滑り込みで早く着き、即座に品物を売り払う。
「ハァ、ハァ......」
集中した影響でもうヘトヘト、船に乗り込んで考えて見る......この惑星だと競合相手がコンテナ船になる訳で、うん厳しくないか?
「輸送力が違い過ぎる......」
またアレをやれと言われたら嫌だぞ、コンテナ船との競合は避ける必要があるだろう。それを出来るとすれば......
「マイナー所が狙い目か?ふむ」
マップを開いて値動きを観察する。一つ一つ島を確認して行けば、この航路が良さそうか?主要な貿易路から外れて居て食糧関係が少々求められている。
ちょっと離れた島から持って行けば多少の利益になるだろう。金を稼ぐならわざわざ行く事の無い田舎、取り敢えずそこでふらふら彷徨って見るのだ。
(
静かな港、閑散とした航路。求められる食糧品を積んで進む海路は、私と同類の姿も見当たらず活気の一つも無い。
(......穏やかな道中もそれはそれで良い物だ)
積荷は視界に現れる選択肢を押せばワンタップで載せたり下ろしたり出来る、現実的な表現が多いのにそこは短縮するんだと不思議に思わなくも無い。
そこ再現すると
(港に居るのは......
街中のマップに従い取引所へ行き積荷を売り払う、自分の船へ戻り寝転がってこれからを考えてみる。
(恐らくこうやって稼ぎ少しずつ船をグレードアップして、自分もタンカーを目指す事になる)
その後は?
(競争に参入とか?それが何の意味になる?)
船のパーツが売られてるから取り付けたりとか、所有欲は満たされそうだけど......
(他の事をやってた方が有意義だな)
最終確認:羅列、(その1)貿易惑星に置いて最終的な誘導目標はプレイヤー同士の競争と推察。(その2)金銭を稼ぐ意味は自身の船を乗り換えたりアップグレードが主軸。(その3)これらによる競争の激化が予測される。
(ネットの方はどうだ?)
あまり有名では無いが、攻略と題したブログや愚痴の書き込みが散見される。島の発展も出来るらしいが頑張って発展させた所で奪われるのがオチだ。
「飽きた」
とっとと貿易惑星のプレイを止めて現実へ戻る。感動も、知識も願いも祈りも得られないゲーム、言わば経験による現実の成長すら無いゲームはプレイする価値が無い。
「.........」
外したヘルメット型VRデバイスを懐に抱えたまま部屋の時計を見る、まだ時間はある。
「何かやるか」
再びVRデバイスを頭に取り付け没入する。船に乗りたいと言う事で海に関係する惑星をピックアップして貿易惑星へ行ったものの今だに熱は冷めていない。
(さて次は......)
次点の幽海惑星へ行ってみる事にしよう、船の亡霊達と熾烈な陣取り合戦が繰り広げられてる惑星らしいのでゆっくり出来るか不明だがそれはそれ、これはこれだ。
(初期設定は、まあいつも通りな感じで)
ちゃっちゃか終わらせて惑星へ入る、最初に感じたのは分厚い雲で薄暗く少々波が荒れて何処と無く獣臭い海。引き続き木造船のミフユが使えるらしく甲板で目覚めた。
「先ずは......」
近くの港へ船を着けに行けば天候はスッと晴れる。誘導されるがまま船から降りれば「貴様は何者だ?」と小銃を持つ獣耳生えたおっさんに誰彼問われた。人相はヒトだが頭頂部から獣の耳が生えてるおっさんなんだよな......
「他の惑星から来たばかりの、ポッシと名乗ってる者......で良いですかね?」
「他の惑星、って事は
形式的な警戒だった様で、親切に船や人相を登録する建物を教えてくれた。なにぶん酷い人手不足らしい、トントン拍子で手続きが完了した。
「これで依頼が受けられるのか......」
どっかで見た様なシステムなのは閉口して置こう、建築物は緑や空き地が多い物の何処と無く日本と西洋が混じった様な......ざっくり大正時代を想起させる造りだ。
(地味に親近感が湧くな)
みんな何某かの獣耳は生えてるけど。そんな事はさて置き人手不足は深刻な様で簡単に依頼を取れる、近海でも輸送船を狙った襲撃があるらしいので周辺の偵察含め選びとった輸送依頼。様子を見ながらやれば大丈夫だろう。
「な〜んか空が荒れるな......」
港から出れば徐々に雲が集まり薄暗くなる。風も強いので良い面もあるにはあるが突風とか怖い、天気は不安定なのだろうか。
「.........
いつの間にやら甲板に蒼白いナニカがフヨフヨと浮かんでる、害をなすモノ......ではない感じか?
「.........」
マストのロープを引いて操船を手伝ってくれてる?気持ち頭への負荷が減ってる様な......放って置こう、何かあったら追い出せば良いだけだし。
(港へ近付くと天候と共に消えるのよな......)
手紙やら積荷を受け渡して、先程の島へ持って行く物を載せて再び出港。特に襲撃される事も無く順調に仕事をこなして行く。
「......頼られるのもまた良しだな」
こちらの方が格段に
・・・・・
海と船を主軸にした惑星は数多くあれど、
(妙だな)
遊ぶだけならば他にも色々ある、船を操舵した事があるのか?それとも関わった事があるのか?ただ確かなのは船上で誰かへ話し掛ける様に口を開き、我に返ったのか辺りを見渡し少しばかり寂しそうな表情をするくらいだ。
知らない船乗りの歌。時々口ずさむ言葉は聞き覚えの無い言語、穏やかで楽しげな旋律はこれからを暗示する物なのか。
競合相手の出現によりその表情は曇っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます