第1章十一話:協調/陽月惑星
「これが免許証になります、どうぞ」
「これが、ですか......」
陽月惑星において、乗り物の免許証を取るには市民パスが必要なものの試験や技能基準は非常に緩い。
「いつまで使えるとかは......」
「右下の隅に書かれてますけど1年間有効ですね、更新は警察署の方でも出来るのでそちらでもどうぞ。まあ再取得も緩いんですけどね〜」
そう語るのは、街から少々離れた教習所へ送ってくれたタクシー業を兼任する教習所の職員。他にもヘリやら飛行機が免許を必要とするらしいが......船は自由だとか。
「それじゃあ、いつもの場所?さっそく自動車でも買いに行く?」
「それでは......」
ジリリリン、ジリリリン♪
自分の携帯が鳴っている、取り出して見ると仕事を頼んでた
「はい、もしもしポッシです」
思ったより早かったが、予想通り船に関してのお知らせ。なんか完成したらしい......え?いや、あの、設計図引いて予算渡して人材集めてお願いしたの1週間も経ってない......
ミニチュア実験とかしてないの?頼まれた晩に終わらせた......?なにそれ怖い、まあ良いか。タクシーから顔を出す職員の人に乗り込みながら行き先を告げる。
「ドック......南西の街、16300辺にある海岸沿い倉庫街。いや先に教会へ戻ろうか」
「はいはい、教会寄ってから16300番地ね?」
「それでお願いします」
たとえ乗り物を入手しても街と街の移動距離が長いのでタクシーを呼ぶ人はちょくちょく居るらしい、免許が無用の長物にならなければ良いのだが。
そんな不安を抱えつつ教会にすぐ着いた、車から降りて成すべき事は......
「シスター、何か不都合はありませんか?」
「あ、神父さま。今のところ教会は問題無く運用されてる様です」
Sisメアリーに聞けば問題は生じてないとの事、教会で開けれるウィンドウメニュー?から項目を確認しても問題は無さそうだ。
心無き者を雇い、不在時の対応やお仕事を任せてる形だ。資産運用はまだ方法論を確立してないので動かしてないが将来的には必要、寄付や御布施だけに依存するのは以前と同じ廃墟になる可能性がある。
「見てください、新しい修道服ですよ?」
「......ああ、前とは違う刺繍が施されてますね?」
正直、教会から貰ったお金を即仕事の予備服に回すとかどうかと思うが自分も似た様な......私服すら無いので何とも言えない。教義的には清貧なんて物は無く、ただ純粋に獲物を狩ったら仲間に分け与えましょうみたいな物だ。
会話も程々に、港の倉庫街へ向かう。車に乗ってふと思い至るがそもそもSisメアリーは私よりこの街へ来るのが早かったはず、ならば既にオシャレ用の私服もあるのでは?
......私もその内、何か服を買った方が良いかも知れない。
「16300番地でしたよね?」
「はい、お願いします」
移動はタクシーに任せて考える。教会の集金能力が予想以上に高く、なおかつ役職によって格差が少々大きいのだ。端的に言えば自動的な形で最上位の役職へ就いていた。
結果として金銭の消費に困っている。シスターには神父と呼ばれているがその実、神官が職業であり実態は神司、教会としての権限は大司祭や教皇だろうか?
ただし名ばかりであって、教会の権威が強くなければ格はだいぶ落ちると思うが。
(どのように生きるのか?)
常々考えてる事だ。大金が在っても使い方を知らなければそれは無価値になる、また時間も同様であり惰性な人生ほど後悔は大きくなる。
その点、私は恵まれて居て使い方を知ってる部類だろう。
この惑星で何をするのか。気分転換?浪費?否、学びだ、特に此処でしか出来ない事はある。この惑星特有の対人関係、これに尽きる。
(目的の明確化は良いものですね、しかし)
しかし、まだその時では無い。今さら何を言ってるのだ?とツッコミを入れられそうではあるが、今までは浅い層の緩い関わりであって深い対人関係とは言えない。
本来ならそんな適当な人間関係で過ごすのも良いが、私の目的に合致しない。だからこそ少しずつ踏み込む、今はまだ距離感を測りかねているので時期では無いのだ。
それより疲れたので一時の間、この惑星から離れる事も考えてるが。
「16300番地......この辺りですが、どこで降ろします?」
「そうですね、このまま道なりに進んで突き当たりを右へ」
考えてる内に目的地へだいぶ近付いて居たらしい。
「そのまま進んで次の左です」
曲がれば大きな倉庫の前でガヤガヤと小さな人集りが出来ている、あそこだ。
「そこの人集りが出来ている所ですね」
ちゃんとお金を払ってタクシーから出れば人が集まる、その前に。
「ここまでで、ありがとうね」
「足が必要になったら連絡してくださいね〜」
去るタクシーを見送るのも程々に、思い思いの作業服に身を包んだ集団へ向けば話し掛けられる。
「神父さん出来ましたよ、こーんな大きいヤツが」
「それはそれは......」
「あっはっはっ!坊ちゃんは教え甲斐があるよ!こーゆーデカイ仕事で溜まり場を作ってくれた事、これでも感謝してるんだぜ?」
「技術のすり合わせ、ええ、良い経験になりましたとも」
「それは良かったです」
ワイワイと背を押されながら入れば結構な人数に歓迎される。木匠や木工関係の人々が数十人、帆を任せていた十数人や後からやって来たお手伝いの方々も居た。
最初に今回の計画を説明してザックリと仕事を振り分け、良さそうな人をチーフに任命して現場権限の一本化と問題や疑問点の連絡を厳命しただけなのに......
「出来てますね......」
大型倉庫の中心に鎮座する帆を畳んだ木造帆船、木枠で確りと支えられて堂々たる姿を見せてる。叩いて構造を確認しておく......大丈夫そうだ。
「良さそう......ですね」
「おう!たぶんお前さんが満足いく仕上がりだ」
木造快速帆船、名は三冬[ミフユ]。ざっくり全長90m全幅11m、三本のマストが建っておりそこに大きな帆が張られた船。ティークリッパーがモデルだが技術的に未熟であろうと後で取り返しが着く様に強固に、そして単純化された少々ぽっちゃりな印象を受ける木造船だ。
理論上の航海速度では15kt(27.78km)程度だが、技術的な問題を考えて13kt(24.076km)行けば良い方だろう。
でも何処からどう考えても造船速度が早過ぎる。お手伝いが居るとは言えど、この人数で1ヶ月以上掛からないのはいっそ恐怖を感じる。致命的な欠陥とか無いよね......?
「いつの間に、タクミさんがそう仰るならそうなのでしょうけど......」
「後はコイツを倉庫から引っ張り出して海に浮かべれば、船として扱えるぞ」
「......これ、どうやって動かすか構想はあります?」
「とりあえず枠ごと一緒に丸太を挟んで動かして倉庫の大扉から道を横切って海に落とす!」
古き良きと言えば聞こえは良いが脳筋的な解決方法である、乾ドックでもあれば安全に海へ出せただろうけど港はあってもドックが見つからなかったから倉庫で造船する羽目に......どうしてこうなった感は否めない。
「もう用意してあるぞ、お前さんが一言許可を出せば始められる」
「そうですか......」
「もしかして動かせるか心配か?人手もあるし車も持ってきたから大丈夫だ!俺たちに任せておけ!」
「ええと、ではお願いします」
そう言葉を発した瞬間、目をギラギラさせた人々が飛び出し色々な所に巻き付けられたロープを引っ張り始める。息のあった掛け声に同調して少しずつ動いてて怖い......
全長90mの物体が動くとか普通に怖いぞ、大扉も開放され車も参加を始めその速度はノソノソと言った具合。ブオン、オンオンオンとエンジンがフル回転で壊れそう......
大扉の先は道路が通って居て、直ぐそこに海が広がる。コンクリートで道路と海の境が切り立っている物の、既に緩やかな滑り台っぽくスロープ状に木材で補強されて大丈夫そうだ。
「「「せーの!せーの!」」」
そして船が海へと降り立つ。歓声が沸き上がり梯子が掛けられ、船の上に登り舵を握れば船を斜め後ろの上空から見た俯瞰景色へ変わる。
操舵方法は分かる。
「セイルオン!」
言葉で言う必要は無いが違和感あるので口に出してから帆を張る、動き一つ一つに歓声が沸き上がる中で申し訳ないけど携帯で木匠へ連絡を入れる。
「タクミさん!聞こえますか?」
『動きはどうだ!なんか不具合は無いか?』
「ええ、調子は良さそうです!それより港の方で船に乗せられると思うので向かわせて下さい」
『あい分かった!港だな?!』
「はい、お願いします!」
歓声が携帯から出るくらいに騒がしい、港へ着くまで権利関係含め問題が発生してないか確認しておく。港へ着いて謎空間へ船を出し入れ出来るか確認してから皆を乗せる。
やはり船は良い物だ、この惑星において船は1人で操作出来る物らしく気まぐれに乗る事だって許される。
ただ少し、気に入らない点があるとすれば移動だけで活用する機会が無い所だろうか。何処か別の惑星で船を乗り回して、船として最大限活用したいと、そう思った。
・・・・・
免許、言わば普通のプレイ映像。何の変哲もない、面白みに欠けるゲーム映像。
そこに突如現れた木造船。
(なんじゃあこりゃあ!?)
誰もが見た事の無い物体、そもそも木造船を造る事が出来たのかと言う驚き。
ソレは陽月惑星のプレイヤー歴が長いほど驚きに満ちた。
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