第1章十話:知恵

「ん......ふわ」


ベッドから起き上がり伸びをする、はて塵鉄惑星で何をするのだったか。


「学習......」


チラリと部屋の隅を見遣れば棚が作られ、丁寧に本が収められている。なぜ電子機器ではなく本なのか......


「......コレガワカラナイ」


『起きたのね!』


聞き覚えのある声が近くからする、キョロキョロと探せばバタバタと忙しなく翅を動かして飛ぶ四角い箱......随分とまあ妙な物体になってる。


「エディンか?」


『当たり!今日から貴方を[さぽーと]するわ!』


悪く言ってしまうのも何だけど、手の平サイズで俊敏に飛び回る存在......蜂とか蝿が頭に思い浮かぶ動きだ。


「そうか」


『これからは着いて回るから必要になったら言ってね?』


スッといつの間にか出来た、ちっちゃい充電ステーションの様な場所へエディンは着陸した。見る度に部屋の物が増えていってる様な気がしなくもない。


『ご飯は食べる?』


「ん、ああ。いやそうだな。食べようか」


そんな事を言いながら本を読み進めて行く。頭に情報を詰め込んでいると時間は早いもので、直ぐに配膳ロボットが来て食事の用意をしてくれた。


「いただきます」


前回とは違い豆のペーストに合成肉......か?緑のペーストは野菜だろうか、スープも付いて来ている。ペーストなのに味は美味いのが技術の粋と言うか何と言うか......


『あ!ねえねえ知ってるかしら?今さっき貴方以外の渡り人が来たらしいわよ』


「ゴフッ、マジか他にアレを抜けてこられる猛者が居るのか......」


『ふんふん、どうやら鉄嵐の通過後でシェルターの周囲も掃討が行われてるしその影響で攻撃を受けずに来れたみたいね』


「ふ〜ん......やって来た所で何をするんだか」


『とりあえず未登録の人類として保護する事になったわ!』


だべりながら食事を終え、本を読む。本だけではなく参考書や電子機器を利用した情報収集、更なる勉学に励んでいると何やら進展がちょくちょくある様で。


『また渡り人が増えた様ね!食糧の自給率は大丈夫かしら?ミアハにも負担を掛けてしまうわね』


「ミアハ?」


『食糧の管理をしてるAIよ!』


時報の様に『増えた、増えた!』と愉快に話していたが問題も発生する様で。


『あ......ポッシー聞いて〜権限渡せって怒る人達が居るみたいで、シェルター内にストレスが掛かってるみたい』


「......?、自分みたいに出来ないのか?」


『ポッシーは再起動した張本人で権利者不在の緊急事態だったから許可されただけで、普通は保護観察以外に無いわよ?』


「ん〜、?、うん。相応しい知識とか身体能力、精神性を身に付けたら仮の許可を出せば良いんじゃない?」


『やはりそれが無難でしょうね』


『ディアン!』


会話の横から入って来る様に声が響く。


『我々は人類を保護するのが役割と言えど、縛り過ぎるのも宜しくないですから』


怒るエディンを気にせずさっさと何処かへ行ってしまったらしく『ねえ聞いてるの!?ディアン?ディアーン!!』とエディンが叫んでる。


バタバタ翅を動かすけど充電ステーションから飛び出さないエディン、自分は自分でやる事が決まってるので本や端末に目を通して行く。


「ふむぅ......」


AI、人工知能に関してはヒトが居ないとだいぶ制限があるらしい。しかしヒトが一人でも居ればそこにぶら下がってやれる事が増えてくとか何とか。


どれだけ発展してもAIとはヒトの補助装置、決して単独で成り立つ存在では無い。


だからこそ必要になる職業?みたいな物がある。戦時下に置いて兵士は機械がその役割を担う、ただ機械単独と本部にヒトが居る状態や戦場で機械と共に居る場合では使用出来る火器や能力が違う。


一種の火力制限である。機械だけで判断し戦闘する場合は環境に配慮された武装が使用出来る、核兵器なんてもってのほかである。


本部から指示を出すヒトがやって来る、ヒトが居るとは正当性が保証される意味合いがあり一定以上の火力が許可され環境の破壊がある程度許される。


戦場に機械を伴いヒトが居る場合。これは緊急事態を意味する、例えば本部まで入り込まれたり市街地が戦場になったり、故にこそあらゆる兵装が事実上許されるがヒトを反動で殺害しない程度らしい。


「.........」


ざっくり纏めると、人手はあった方が良い。


戦場以外でも人手は必要だ、食糧生産施設はもちろん医療行為やその他製造に遊園地等様々な施設も似た様な制限がある。食糧生産も培養肉だけじゃなく羊や豚、牛を飼育して生産する事だって可能になるとか何とか。


ヒトが居ればAIは動きやすいのだ。


「その分、知識も必要不可欠か......」


この本だって指示の出し方や機械とかAIが暴走した時どうやって止めるのか、階級によるやれる事とやれない事に法律関係とか何とか。


こうやって読んでると、昔は色んな問題が起こって何とかしようとルールを作った形跡が残ってる。ルールで雁字搦め、とも言うか。


『すみませんポッシさん、立ち会いに行ってくれませんか?』


「立ち会い?何かあったのか?」


『暴れた人を鎮圧しました。気絶しているので個室へ運んで落ち着くまで軟禁する為、対応を確認してください』


「あ〜......分かった直ぐ行く」


ロボットに案内され、現場へ着く。シェルターの通路に倒れ伏す男性を警戒する様に見るよく見かけるロボット、離れた位置には頭がひび割れたモニターのロボット......遠巻きに野次馬が現場を覗いてる。


「......何があったんだこれ」


『ちょっと待ってね、壁に映し出すから』


ブンブンとエディンが壁へ向くと俯瞰した映像が映し出される......それ映写機にもなるのか、突っ込みは置いて映像の流れを確認すると。


頭がモニターのロボットと何かを話す男性、急に怒り出してモニターを叩き割り近くのロボットが慌ててテーザーガン?の様な物で男をビリビリさせ今の様な状況に......


う〜ん、これは......何とも言えない。汎用ロボット自体ヒトと比べて身長の半分くらいで胴体がポテッとしてて舐められそうではある、頭は取り替えられるっぽいのでモニターが割られたロボットも直ぐ復帰出来るではあろうが。


「......周りの対応は間違ってなさそうだね」


『これから運びますので着いて来てください』


ロボットには沢山腕がある。そう端的に言えば背筋がゾワゾワする様な数だ、2機のロボットが男を上へ持ち上げて運んでいるのだが伸びて支える腕は30本以上ありそうだ。


正直キ......言うまい、1番効率が良い運び方なのだろう。


『この部屋で軟禁しますので確認をお願いします』


「そうか」


ざっと部屋の中を見渡せば普通に生活出来そうな部屋、渡されたチェックリストの項目を確認して行き完了させる。


「良し、それじゃあ任せた」


『はい』


やる事をやってサッサと部屋へ戻る、どの様な知識であれそれは経験......例えそれが作り物だったとしても、学びは使いようによって活用出来る。そう信じてる。


・・・・・


代わり映えの無いライブ配信、本を読み端末で調べ物をしてAIと話をする。


(あれ?今日はまじで動かないつもり?)


何と言うか根っこが生えてる様に見えるのだ、よく言えば修行僧を想起させるが。


そこで飛び出す情報。


[ポッシ以外の到達者が現れた]と言う話し、ここから騒ぎは広がっていく。


(今だけやん!?)


飛び入り、慌てて情報の拡散、第3第4の到達者出現。


ライブ配信は役目を果たしたとも言うべきか、もしくは通常の状態へ緩やかに戻り始めたのか。


真に価値を理解してるモノが残る。


しかし世間は分かってる様で、元攻略者も「いやもうコッチでやってるし......」と相手をしない人々。


アメリカのゴールドラッシュで夢を目指した労働者、満州へ行く日本人、物価が安いと甘言で移民して行った人々が重なって見えるのだ。

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