第1章九話:群衆/陽月惑星

「魂の抜けた者達を......抜け殻を、どこかに送って上げたり出来ませんか?」


「あー、たぶん出来ますよ?物質的な話しですよね?」


水を売りさばき切り、休んで居ると白いスーツの男、シモン・モギレヴィッチに話し掛けられた。


「そうです、この世界から去って行った彼等が残した肉体。今までは我々が海へと流していたんですが......」


「あぁ。自然に還る様なモノでは無いですし、積み上がる一方ですからね」


納得がいく。それは神職の領分だから他が何をしようと、どうしようも無いのだ。


「簡易的な儀式になりますけど、場所は何処ですか?直ぐ対処しますので」


「それならお連れしましょう、少々......遠いので」


シモンが手で合図を出すと胴長の車がやって来た、リムジンとか言う車だろうか?


「......お先にどうぞ」


「これはどうも」


そうやってリムジンに入れられ無言の時間。所在なさげに手をグーパーするシモンを見詰めていると、ようやくシモンが口を開く。


「最近......調子はどうですか?」


「お陰様で水の売り上げが好調です」


お前さんは私の親類か何かか......?裏の意図は特に感じ取れない、会話に困って切った手札にしか見えないのだけど??わざわざ仰々しく2人きりにさせられたのに?


そんな微妙な空気のまま、目的地に着いたらしい。


外へと出れば磯の臭い、切り立った崖の合間にある川と海の合流地点......岩場の様で車から離れればゴツゴツして転けたら怪我をしてしまいそうな波穿つ場所だ。


「ああ、詰まってるんですね」


「ええ、時々引き揚げて海へと投げ入れてるもののどうにも......」


ゴツゴツした岩々に真白でのっぺりしたマネキン、躯体があちこちに引っ掛かって波で揺られている。沈めたのか沈んだのか、川底にもユラユラ白い影が揺らめいて居る。


「始めてよろしいですか?」


「どうぞ、私は車の方で見てますので......」


岩場をスルスルと抜け、川へ手を浸す。


「『ーーー』」


1音、引き伸ばし曲げ歪め丁寧に奏上して行く。コーラスの様な祝詞の様な、ざっくり言えば[かしこみかしこみ申す]と同じ様な意味合い。


「『♪〜〜』」


繋がった、後は手順に沿ってゆっくりと歩きながら紡いでいく。古くて複雑な言葉だけど尊敬語を抜いた意味としては(抜け殻を大神のもとへ戻し循環してください)だ。


回る、廻りて、巡り逝く。泡沫の夢、まほろばの幻視、ヒト去りて来たる星の願いはここに、星の子の祈りは遥かな宙へ、繋がり、途絶え、元通り。


続けて続けて続ければ、マネキンの様な躯体から小さな粒子っぽい光がハラハラと溢れフヨフヨ空へ消えて行く。


「『〜〜〜。』」


終わり。マネキンの様な躯体は海や川底からも消え、流れ込む水が渦を成している。


「終わりましたよ」


「.........」


「あの?」


「皆さん......無事に上がれたのでしょうか......」


「......そう思うしかないですね」


大神の教えは現実的だ、それでいて仲間思いの教えだ。


「きっと、上がれたと」


「そう......ですか......」


ふと正気に戻ったシモンがリムジンへと案内してくれる、元の場所へ送ってくれるらしい。


「ああ、そうだ。幾らぐらいに......なるでしょうか?」


「いえいえ、慈善事業の一環ですので。本来なら連れて来ていただくか呼び出して貰えれば無償で上げさせてもらいます」


「そこをなんとか......」


「......どうしてもと仰るなら、[寄付]と言う形で心許りにお願いしますね」


「そうでしたか、では.....」


PON!!と1000万が寄付される、多いって!有り難いけど怖いよお!でも再建にはまだまだ足りないよお!


そんな事を思って居た。どうやら海全体にある躯体が光になったらしく、話しが広まり次々と人がやって来ては寄進して行った。


「やあやあラッキーボーイだよ!君が抜け殻達を上げてくれたんでしょう?そんな君にはコレをあげるよ!これでボスも浮かばれてほしいね......」


道化師の様な人物がやって来たり。


「お前がポッシ神父か?そうか、これをやる。じゃあ」


「お待ちを!お名前は?」


「ん?ヨハンだ」


大柄な人物が突然渡して来たり。


「凄い事になってるね〜あ、これは心付けね」


警察の人からも渡され。


「あの〜、神父様?良かった、どうぞこれを」


多くの市民からも渡された。


「神父様!やっと見付けた......」


「おやシスター、どうしましたか?」


「あっちで神父様を探してる人が沢山居ますよ!」


そんな状態になれば当然資金も溜まる。[30億]、教会の再建が行える金額となった。


再建は順調に進み、完成のお披露目。


この日の為に多くの人々が集まる。警察の方々に協力してもらい群衆を纏め、お立ち台の上から感謝を述べる。


「本日集まっていただいたのは皆様の寄付により教会が再建された事を知らせる為です」


言葉はハッキリと、伝わり易い音程で。30億の達成、軽く現在の教団状況、そしてちゃんと頭を下げる感謝。最後に簡単なルールを伝える。


「ああ、そうそう。教会は市民の皆様の為の物、犯罪を行う場ではないので違法行為を見掛けたら警察へ連絡を入れますので留意してください。指名手配で逃げ込んで来た場合やここで暴れた場合も同様です、しかしその点を守れば教会は中立なので悪しからず」


シスターから受け取ったハサミでパチリとテープを切り扉を開ける、中は意外に広く大教会と言っても過言ではない位に立派だ。ドウゾと手招きすれば1人2人とゾロゾロ入って来る。


教壇の後ろに置かれた椅子へ腰掛け[心の目]で開かれた教会の設定項目を確認して行く、[心無き者]を雇用したり役職を弄れるらしい。お金関係もここから触れるらしい。


「あー!やらかした〜!」


項目を弄ってると入口横の石碑辺りから声が聞こえる、どうしたのだろうと向かえば膝を着く髪型オールバックの見知らぬ男が居た。


「どうしましたか?」


「あ、神父さん......いやなに寄付するならもっと早くやれば良かったな〜って、石碑に彫ってくれるなんて知らなかったのよ」


「そうでしたか」


「ところで神父さん、今からでも石碑に彫って貰えるなんてのは......」


「ん〜、無理ですね」


「グホッ」


トドメになったらしく伏せてしまった、少し経つとプルプル震えながら腕を上げて何かしている。


「......これ、今更だけど寄付金」


「これはこれは、帳簿を付けないといけないのでお名前は?」


「アントニウス、金さえあれば大抵の事はやりますよ」


「アントニウスさん、ありがとうございます。貴方に大神のご加護がありますように」


「あ、それ。なんか幸運になるとか聞くけど本当なの?」


「ええ、引き際さえ見誤らなければ確かな幸運に見舞われるでしょう」


「引き際、引き際ねえ?そこまで万能じゃないの?」


「際限なく運に頼り始めると手痛いしっぺ返しが来ますから」


「......ちょっとカジノ行ってくる」


そんなアントニウスを見送りつつ、思考を巡らせる。


教会は再建された。されとてこの様に寄付をされる事がある、ならば教会に使うのが道理ではある......しかしいつまであるのか分からない、故に教会の資産運用を行う。


そして教会へ属する人々も増えるだろう、と思考を巡らせ給金も必要だろう。事実その項目はある、ならば教会の運用としては......


「いたいたポッシさん、そろそろ発行出来るはずですよ。市民パス」


「もうそんなに経ちましたか?」


「ええ、ここで発行する事も出来ますが......」


「ではお願いしましょう」


運用、は一旦置いて。自分で稼いだお金の使い道を考えるのも乙なものだろう、例えばそう......海とか。


「船、なんて物も良いかも知れませんね」


・・・・・


それは神秘、または幻想的。


スルスルと足場の悪い海辺でゆったりと歩みながら詠う人物、海や川からは蛍の様に光が浮かび消え不思議な空間を作り出す。


心を揺さぶる声、中には涙さえ流す人とて居る。


終わりは波が引く様に、本が閉じられた感覚だった。

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