第1章八話:義手

塵鉄惑星はどこもかしこも気が抜けない。車内に敵は無し、車外にもその様な音は聞こえない。


『あ!戻って来たのね?クレズネが呼んでるわ!』


USBメモリ、エディンを装甲車から引っこ抜いて工廠へ連れて行く。なんか装甲車が綺麗な状態になってるのは居なかった時に直してくれたのか......?


『ああ、来ましたか。その節はありがとうございました、本体とも同期が出来る様になり基地の復旧も始まっています』


『頼んでいたのは出来そうかしら?』


『後は材料を決めて頂くだけで直ぐに作れるでしょう』


何やら二人の間で話しが進んでいるらしい。


『義手の事よ!』


『現時点で無事な材料は貴金属位な物でして、他は湿気や水によって腐食していたりと作り直すのに時間が掛かります』


「1番良さそうなのは?」


言って気付く、なんか息を吸うのが楽だ。空気が満ちているらしい。


『銀を主とした材料、金は基地の復旧にも使いたく柔らかすぎる』


「じゃあそれで」


ガタゴトと工廠が動き出して何かが作られていく、あのちょこまか動くロボットは寝る前には居なかったはずだが......水を抜いた事で動ける様になったのか?


『ねえねえポッシ、お話しましょう?』


「話と言われても......」


『ポッシって時々消えるし渡り人でしょ?他の惑星へ遊びに行ってるんじゃないの?』


「他の惑星......陽月惑星とか?」


『そういうのよ!』


「あまりあちこちに行った事ないし、面白い話が出来るとは思えないけど......」


『どんな惑星なの?』


「ん〜......大きな大きな1つの大陸、光と影が織り成す人々の情景。それ等、見守る二面性を持つ白と黒のオオカミ(Wolf)、そんな惑星の小さな関わりで良ければお話をしよう」



「...して見上げ、辺りを見渡せばコンクリートのジャングルだった。ビルの形状から類推するに...」


『よろしいですか?後は義手に名前を彫るので教えて貰えませんか?』


「名前?あー.....私の?」


『はい』


『所有者の名前を彫って作成者が道具の名前を決める、大事な作業よ。よい名前になるといいわね?』


「ポッシですけど」


『いえ、それでは何か足りないと思いまして』


「ポッシ・ブルの方?」


『ポッシ・ブル?ポッシブル!?可能性ですか!この惑星に?!まさしく滅んだ惑星で!?pipipipigagagauuu!これは凄い!なんと言う名前!私は貴方を歓迎しましょう!』


ひぇ、なんか壊れた?ブオンブオン電子機器の音が唸ってて怖い......


『決まりました!キンドリングにしましょう!火を点ける、火を灯す。この義手にはそれが相応しい!』


直ぐに出来上がったのか、キャタピラで動くちっこいロボットが義手を持って来てくれる。


『義手はディアンに着けて貰ってください、なにぶん物作りはともかく神経接続や複雑な医療の分野になるとディアンへ軍配が上がるので』


『用事も済んだわね?私の方も終わってるから後は帰るだけよ』


そして帰る事になった。(行きはよいよい帰りは怖い)と言うがそんな事は起こらず、順調な道中を進む。


『この装甲車もクレズネの所でだいぶ強化されたわね〜、結構ギリギリだったのよ?ディアンは何を考えてるのかしら......まあどうせ救助の用意はしてあるんだろうけど』


「そんなに危ない状態だったのか?」


車内は密閉され酸素もあるらしく息がしやすい、装甲車の強化は居住性にも影響がありそうだ。


『そうよ!作戦一回位なら大丈夫なんて言うけど、その作戦は行きだけで帰りは入ってないわ!でも何か問題があったら素早く事前の策を動かして解決してしまうのがディアンのオハコよ』


「おぅ......」


『リスクは大きいけどリターンも大きい、そのリスクを対処し切ってリターンだけもぎ取るの。だからこそあのシェルターは最も安全と言われるのよ!』


行きと違ってエディンは話す余裕があるらしい、時々話しを振られるので答えれば倍々にお喋りを始める。話し上手で聞き上手な面がある様だ。


『あ!もう着くわね、またお話しましょう?』


「ああ......」


スルスルと何事も無くシェルターの地下へと入ってく、駐車場に着き止まったらUSBメモリー(エディン)を引っこ抜いて義手も持ち車外へと出る。


『こっちよ、こっち』


『あれは私ね!同期しないといけないから連れて行って貰えるかしら?』


「向こうか?」


呼び声の方へ行けば、駐車場を見渡せるようにガラス窓が嵌め込まれた部屋へ連れ込まれる。どうやらここで駐車場の管理をしているらしい。


『やっと来たわね、そこに差し込んでちょうだい』


「ここか?」


USBメモリーを差し込めば、あちこちにあるモニターの表記が変わる。ガチャガチャ動きUSBメモリーが機械の内側に引っ込んでしまった......


『同期を開始......完了しました。ちゃんと記録したわ!寂しくなったらここでお話ししても大丈夫よ、それにディアンが呼んでるみたいよ?そこのロボットが案内するようね』


出入り口からソッと覗いてたキャタピラ駆動の小さいロボットが入って来る、工廠で見たロボットと同じ型っぽい。そもそも治療して来たロボットも胴部分が同じだ。


「よろしく?」


『(ピロピロキュ〜ウンッ)』


恐らく大量生産されるロボットの規格品なのだろう、頭はモニターだったりカメラだったり違うが一律して胴体には沢山の腕や道具が収納されている器用なロボットだ。


でも言葉は出せないらしい。


そんなロボットと共にディアンの所へ行けば、何やら他のロボットも待機してる様で......


『来ましたか、では義手を取り付けましょう』


思い切り手術するっぽいロボットが居る、え?消毒?茶色の消毒液とか見た事あるやつ!?アーッ!?......もう終わってる?3秒か5秒位じゃなかった?早くね?


「お、おぉ。もう動く」


指の1本まで自由自在に動く、なにこの技術コワイ。捻れるし触れた感触まで...?擬似感触とか?1周回って生身の腕より使い易い気も、いや流石に言い過ぎか?


『お気に召した様ですね、何か違和感があればお教え下さい』


「ありがとう、まさか左手がまた使える様になるとは思わなかったよ」


とは言え、聞きたい事がある。メインクエストが特に何も表示されて居ないのだ。


「それで、これからどうするんだい?」


『これからですね......名誉将官の権限を確認、情報の開示を行います』


「ん?名誉将官?」


『はい、既に権限が付与されている様ですが......基地の方で説明は受けていませんか?』


考えてみる。向こうに行って関わったのはクレズネ、そこから推測するに......(『私は貴方を歓迎しましょう!』)あれか?あれしか思い浮かばないのだけど?あんな一言で??


「......名前言ったら『私は貴方を歓迎しましょう』とか騒いでたけど、それ?」


『......名誉将官ポッシブル、名誉将官とは将官と同等の権限が与えられる物です。ですが将官が居る場合は将官の指示が優先されます』


「あ、ハイ」


なんか凄い頭を抱えてる様な雰囲気があった。


『現時点ではアウルムの戦力・侵攻範囲が不明です、司令基地を取り戻せた事から機械兵の製造に加え他地域にある基地を再稼働、戦力が揃い次第アウルムの子達を破壊します』


「なるほど、最終目標は?」


『アウルムの破壊です』


ほうほうと頷き、聞いてると疑問に思う。


「それって私がやる事とかある?」


『ありません』


そっかー、有能なロボット達だ〜......やる事が!無い!?


『出来れば万が一に備えて将官としての必要な知識を教育します、また肉体的な戦闘技術も磨けます。アウルムの子達が居なくなった後の復興も考える必要があります』


あれやこれや言い始めた、急にどしたん......?


『我々には人類が必要なのです』


「う、うん?」


『生きているだけでも十分なのです』


「それは慣れてるから良いんだけど......」


・・・・・


見に来る人々は少ない、配信が突発的に行われるのも理由だが求める物は無いと決め付けてさっさと別の場所へ行く人々が大多数だからだ。


無謀な突撃に自己的な要求。


それらを除けば、考察班と呼ばれる人々や見物人が居る。


派手な絵面では無い、会話ばかり。しかしソレを砂金として扱うか、ただの砂として打ち捨てるのか、大きく2つに別れて行く。

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