第1章七話:役目/陽月惑星

「水〜水は〜要らんかね〜」


陽月惑星では水を売っている、水によって得られた資金は洗い替えの服や携帯の購入で使えた。しかし携帯は買ったもののSIM、電話番号を手に入れてないので専ら文鎮だ。


SIM購入の為にも先ずは住所、家を買える位は欲しい。


「少し......よろしいですか?」


「はい、どうしましたか?」


白いスーツの男に話し掛けられる、ハットにサングラスとか893みたいな人だな......


「警察署の周りで水を売っていると......聞いたのですけど......」


「ここ最近は警察署の周りでよく売ってますね」


「ああ、それはそれは......専属契約を結びませんか?水1本に付き10万、持ち込んでくれるならいつでも全て買い取りましょう」


「専属、って事はそちら以外に売る事が出来なくなる認識でよろしいでしょうか?」


ふわりと思い浮かぶのは警察との会話、曰く違法薬物の生産に水を使うらしく買い占められているのではと疑ってるそうな。もし違ったとしても、ただでさえ高騰している水市場の独占が行われる可能性はある。


「そうですね。もし...なんでしたら今持っている水を全て買い取る事も......」


「あー、ごめんなさい。私これでも神官なので、大神様の教えで手に入れた物は仲間へ行き渡る様に分配するべしってのがありまして、専属契約はしない事にしてるんです」


「そ〜うでしたか......いえ、素敵な考えだと思いますよ。神官、と言う事は寄付なんかも......?」


「ええ、受け取っていますね」


「でしたらこちらを......」


寄付金が1000万加算された、多くね......?


「あー......こちらの寄付金は教会の再建に利用させて頂きますね、再建出来たあかつきには寄進者の名前を石碑に掘る予定なのでお名前を教えて頂ければ......」


「ああ!これは失礼......わたくしシモン・モギレヴィッチと申します、以後お見知りおきを」


「これはご丁寧に、私は神官のポッシと言います。もしかして名だけではなく姓も必要になる事があったりするんでしょうか......?」


「それは人によるでしょうが、お名前の由来は......何でしょうか?」


「インポッシブル惑星の塵鉄惑星出身なもので、インポッシブルのポッシから来てますね」


「ああ、それならばポッシ・ブル、必要になった時はブルを名乗ると良いでしょう」


ポッシ ブル、語感も良いな。


「ではそうする事としましょう、貴方に大神のご加護がありますように」


「1つ...よろしいですか?教会の再建にはどの位掛かるのでしょうか?」


「あちらに見える教会を再建するのには30億掛かるそうです」


「......それは、何とも。道のりは長そうですね」


本当にね、自分で稼いだ物の一部を寄付金へ突っ込んだりしてもまだまだですし。


「そうだ、水を...3本購入出来ますか?」


「大丈夫ですよ、どうぞ15万になります」


取引していると遠くからサイレンを鳴らした警察車両が近付いて来ている。


「私は、そろそろお暇させていただきますので」


白スーツの男、シモンは隠すように置いてあったバイクへ乗って去って行った。それと入れ替わる様に警察車両が慌てた様子でこちらへ来て止まった。


「大丈夫か?何かされてないか?」


「ええと?」


「今居た男はシモンファミリーのボスだろう、あいつは経済を操って莫大な利益を得て薬で島を広げる危険な男だ。お前は安い値段で水を売ってるし、特殊な水を汲めるから目を付けられたんだと思ったんだが......」


「専属契約を持ち掛けられましたけど、お断りさせていただきましたよ」


「そうだったのか、何かある前に警察を頼るんだぞ?それと水は売ってるか?」


「はい、まだ在庫がありますから」


「それじゃあ10本頂こうか」


「どうぞ50万になります」


「もう少し高くても良いくらいな性質をしてるんだがなぁ」


「そうですかね?」


「そうなんだよ。水は多く持てても食料はそんなに持てない、手持ちがいっぱいになりやすいのに[この水は腹も満たせる]結果的に手持ちに余裕が出来るしこれがあれば今までよりも長く活動し易いんだよ」


ただ汲んでるだけだからよく分からない、それこそ常用して食料は時々いただく程度になってはいるが。


「水市場はただでさえ高騰していますからね、私が先駆けとして安くしようと売ってる面もありますから」


「そういうものか?」


「そういうものです」


うんうん頷きあってると、パタパタと誰かが駆けて来た。


「ねえ!あなたでしょ?噂の神父さまって、私をシスターに出来る?!」


「シスター、修道女の方ですか?まさか私の妹になりたい訳ではないですよね......?」


「宗教的な方!出来る?!」


「少しお待ちを」


考えて思い出す。


「出来......ますね、ただ教会の再建が完了していないので[見習い]の文字を取る事は出来ませんけど」


「それでも良いの!お願い出来るかしら?」


「理由を聞いても、よろしいですか?」


「私がシスターじゃない方が異常なの!道から外れてしまっている気がして変になってしまうの!」


「ええと、ではお名前を」


「メアリー!」


「メアリーさんですね、簡易的な物になりますが......」


分厚い聖書を取り出す、開いて目的のページに手を置く。


「『メアリー、貴女は教育や医療に従事して慈善事業を行い真摯に祈りを捧げますか?』」


「します!」


「『よろしい。では神官ポッシの名において、メアリーへ[見習いシスター]の職業を付与します』」


聖書を閉じて終わり、気が抜けたのか地面にへたりこんで居るメアリーへ聖書を渡す。


「どうぞ、これはオオカミ教の書。もし他の宗派へ行きたいのならば[見習い]の時だけ自由に行き来が行えますのでよく考え、よく見て[見習いを取り外すか]決めてくださいね?」


[見習い]の内は凄く自由なのだ。[見習い]が外れても活動する教会が限定されるだけであまり変わらないけど、そもそも私が広めるオオカミ教以外の宗派があるか怪しい所ではある。


「メアリー......メアリーか......」


警察の人が凄く微妙な顔をしている。


「どうしましたか?」


「いや、なに。メアリーと言えば血濡れのメアリーだからな......」


「物騒な名前ですね......?」


「なんでシスター職がないんですの〜ってよく大暴れしてたからな......」


コソコソ話し掛けて来るのを横に、メアリーを見遣ると書物を胸に抱えたままポロポロ俯いて泣いている。


「ああ、大丈夫ですか?シスター」


「お、俺そんなつもりじゃ......すまん許してくれ〜!」(ブォォォン)


警察の人は警察車両で逃げる様に去って行った......それで良いのか?しかしメアリーが語るには、どうにも違う様子で。


「わたしぃ...やっとシスターになれたって......安心しちゃって......」


私には分からない、どうしてここまでメアリーがシスターに固執するのか。分からないものは!怖いのだ!なんなのこの子!?どうしてそこまでシスターが良いの?!


・・・・・


塵鉄惑星はともかく陽月惑星にもファンが居る。一部界隈で注目されているポッシだけでは無く、陽月惑星に息吹くプレイヤー達のアバターを見る人々。


勢力の争いを見るのか?面白おかしい人物を見るのか?そんな中でアバター達が繰り広げる対人関係、とある噂話が広まりつつあった。


中央警察本署付近で水売りをする人物、宗教系の職業を得た人物が居る話し、新たな乗り物か疾走する人影、初心者マーク付きの神父様。


この街に新たな風が吹く予感。


凝り固まり拮抗した勢力は蠢きだした。

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