第1章六話:転起

「多少良くなった、ありがとう」


『人命や人権の保全がお役目ですので』


吹き飛んだ左腕はともかく左目は一時的に見えなくなってるだけらしい、安静にして居れば治るとか何とか。多少外部の状況を話した結果、襲って来た機械がアウルムの子達と確定した。


てか、アウルムの暴走からだいぶ経つのに状況は好転してないとか何とか。


「ふう、安心したら眠くなってきたな」


『では寝室へ案内しましょう』


キュルキュル......


安静にしてろと座らされた車椅子が独りでに動き出す。気を抜いた影響かあまりにも大きい身体の負担を認識して貧血気味っぽく頭がグラグラして立ってられない、吐き気も酷くジッと耐え忍ぶ事しか出来ない。


『どうぞ、この部屋をご自由にお使いください』


親切にもベッドの前に車椅子を止めてくれたので立ち上がり、スルリと靴を脱いで倒れ込む様にして寝転ぶ。もうだめ寝る。


《 リスポーン地点を変更しました 》



「ふっかーつっ!」


ベッドの上で立ち上がり身体を伸ばす、大体経過した時間は......数十分程度?いつもならあの位の傷だと動ける様になるのは2〜3時間掛かるんじゃが。完全に動けるのは6時間程度、元々傷の治りが早いからね。


『もうよろしいのでしょうか?』


「この通り、お陰様で動ける様になったよ」


身体を捻って動作を確認する、完全復活と言って良いくらいには動ける様になった。


『しばらくお待ちください、お食事を用意しますので』


「そんな事までしてくれるのか、ありがたいねえ」


ベッドに座り直して部屋を見渡す。何も無い、ベッド以外本当に何にもない。


キュルキュル......


スワッ、飯か?と思ったのも束の間、小さなロボットが椅子を持って来てくれた様だ。続いてテーブルやら電子機器っぽい物も運んで来てくれた、電子機器は弄って良いらしく起動して見るとネットワークの様な情報を閲覧出来るのでざっと見る。この世界の技術や文化、日常風景まで記録されている形だ、見てると配膳ロボットがやって来た。


「ええっと?食べていいのか?」


『どうぞ』


「そうかそうかそれじゃあ、いただきます」


フォークとスプーン、先ずはピンク色の塊を口に入れてみる......恐らく肉だろう、味の濃さ的に長期保存用の物であろう。少々色が黄ばんでヘタってる野菜を口に入れる、悪くは無い。多分乾燥させて長期保存してた物か?


「結構美味いな」


黙々と食べる、そしてふと気付く。


(あれ、名前聞いてないや)


と......


「ちょっと良いか?」


『はい、どうしましたか?』


「君の名前ってなんて言うの?」


『人工知能の[ディアン]です』


「ディアン、ディアンね......」


『見知らぬ人類、貴方の事は何とお呼びすれば良いでしょうか?』


「あ〜、[ポッシ]って呼んで」


『人名、ポッシ。登録しました』


そんなこんなで食べ終わると食器を下げてくれる、さてここからどうした物か。何をすれば良いのか?


『ポッシさん、少し頼み事があります』


何かが始まりそうな気配だ。


「ディアンさんや、どうしたのかね?」


『命の保障はしますので陸軍本部の司令基地へ向かって貰えますか?』


「......理由を聞いても良いかな?」


『現時点ではシェルターの物資が不足して居ます、元々陸軍本部の司令基地では物資を生産・加工して各地へ送って居たのですがいつの日か供給が途絶え状況が不明です』


「ふむ?」


『機械だけではアウルムの子達と見分けが付かず、開門の許可が降りませんので[生身の生きている人間]が必要なのです。ポッシさん、貴方には鍵になってもらいたいのです』


何やら映像が壁に映し出される、これは......外の画像?荒地でなんも無い、って随分と高い位置から撮った画像だな?あ、地図が表示された。それに装甲車?


『バッテリーは少々不安ですが3km、行き帰り合計6kmならば余裕を持って走るでしょう。この装甲車はアウルムの子達による遠距離からの攻撃は防ぐ実績があります、しかし作戦1回限りの使い捨てで近距離からの攻撃には脆いです。ですがルートを選定して、尚且つ周囲の反応によって避けて進む事が出来るので本作戦の成功率は高いでしょう』


「ううん......」


【 司令基地へ向かおう! 】


メインクエストとして新たに表示されてる、選ぶ余地無しと言った所か。


「良いよ、行ってみよう」


『感謝します、司令基地に居る工廠の人工知能へ義手を作る様に手配しますので要求された場合はメモリーを渡してください。作戦の成功を祈っています』


メモリーと言った時に映し出されてる中へUSBメモリーの画像が増えたのでそれの事だろう、キュリキュリとロボットが何かを運んで来たので受け取ると軍服の様だ。


「着て良いのかい?」


『その為の被服と防具ですから』


「ありがたいな......」


なにせ今、着ている服は野暮ったい色でズタズタに引き裂かれて見るも無惨な状態だ、それで居てそれ以上は壊れないくせして布として扱えないときた。


縫い針で修理しようと思えば出来そうなのが余計に気に食わない。


「よいっしょと」


ペシペシと脱ぎ捨て着替える、アーマーも着て......なんか多くね?胴体はともかく脚絆やら篭手やら身体中に固定して行く。最後にヘルメットを、と。


「ん?これは?」


『緊急事態に付き使用可能な銃砲をお持ちしました、念の為持っていてください』


アサルトライフル、自動小銃か?それにしては大きい様な......片手でガチャリと1回コッキングして弾倉を取り外してもう1回コッキング、出て来た弾をパシリと掴んでしげしげと見やる。


「随分と大きい弾だな、バトルライフルって奴かな?」


弾を弾倉に戻して小銃へ取り付け、構えて見る。少々重いが問題は無いだろう、機能的には......単発、3点バースト、連射かな?セーフティーを掛けて肩紐を利用して背負う。


「こっちは短銃か」


ハンドガン、拳銃とも。ちゃっちゃか確認して腰のホルスターへ入れて置く、独創的な武器ではなく堅実的なので良いのやら悪いのやら。


『準備が出来次第呼んでください』


「あ〜もう良いよ?早い内にやって置こう」


そんな事を言うとUSBメモリーカードが渡される。なんかこのUSB、棒状の先端に円を埋める様にポツポツ穴が空いてるんですけど?スピーカーでも付いてそう何ですけど?


『ここからは私の出番って事ね!』


スッと机の上に置いて離れる、ナニアレ私の知っているUSBメモリじゃない......


『ちょっとちょっと!離れないでよ!独りじゃ動けないんだから!せっかく外だと話せなくなるディアンに代わってこのエディンがお話しようって言うのに!』


ディアンと話した時アウルムの子達対策にオフラインである事を聞いたな、電波を飛ばせないから直接の案内役って感じかな?


『そうよそう、怖くないわよ〜』


「案内役......みたいな物か?」


そんな会話をして装甲車へ向かう。エディン曰く、元々駐車場やら乗り物系を管理していたAIらしい。人とよくお話してたが何故か老AI(ディアン)に御役御免されたらしく今の今まで寝てたとか何とか。


『運転席の方じゃないわよ、後ろから入って!』


「荷台の方か......?」


鍵が開いていて簡単に入れる。車にモニターやらUSBの差し込み口まである、どうやらそこへ差し込むらしい。


『さあさあ!レッツラゴー!ちゃんと掴まっててね?』


モニターから車外の様子が見れるようだ。あれだけゴチャゴチャ溢れかえってた駐車場が、何故か装甲車が通れる様になっている。


門が開きそこを抜けて行く装甲車、最後の門を抜けると直ぐさま車体がボコボコと凹む......これ弾痕か!穴が出来ないだけマシと言うべきか。


『行くわよー!』


ベコボコ凹む回数が減った、どうやら少しだけ緩やかな坂になってる部分を進んでるとか何とか。


『あなたこんな空気薄い所をよく通って来たわね!?』


殆ど喋れない、なるほど。シェルター内は空気が満ちてたのか。


そうしてボコボコ車体が凹む物の、山の側面に大きな門が見える場所、目的地に着いたようで。


『開けなさーい!早く!何で開かないの!?ハリー!ハリー!こっちには人間が居るのよ!?こうなったら......アームを!あら?ロックが外れている......?』


どこから取り出したのか機械腕が出て来て門を引っ張り開ける、なんか赤ランプすら点灯してないとか嫌な予感。


『取り敢えず進むわね.....』


それ程多くない門をくぐって敵性機械に遭う、この装甲車は遠距離はともかく近距離は脆い。上部のハッチから飛び出て直ぐさま排除に動く。


飛び出して落ちながら1発、首辺りにある主要なコードを破壊。横に跳ねて2発目、内部で跳弾する様に隙間を通してズタズタにする。敵機械へ向かって跳ねて3発目は恐らく演算器に直撃させ完全破壊とする。


相手が動かないか見てからソッと装甲車内へ戻る。


『び、びっくりした〜、中にまで入られてる何て......』


装甲車で通路を行くとガッツリ外と繋がる形で破壊された場所がある。行ける所まで行くが、これ以上は難しい様でUSBメモリをもって進む様に言われた。


『ここから少し行った所に電源が独立した工廠があるのよ!そこで話しを聞くわ!』


そして部屋へ入れば薄ら電源が付いてる工作機械の数々。


『居るのは分かってるのよ!クレズネ!出て来なさい!』


『ああ騒がしい、ディアンの子が来た。人間を連れてやって来たのか』


聞く話によると。


『協力したいのは山々だが基地が水没している、本体とも接続が切れて処理能力もここにあるだけでまともに工作出来ない』


との事。


『そこにある排水ポンプを設置してくれないか、ある程度まで水位が下がればこちらで対処出来る』


こうしてポンプをポイっと置くだけ、時々見掛ける敵機械を破壊しながら戻れば装甲車が安全な場所に置けるらしくそこへ移動し、排水も時間が掛かるらしいので待つ事に。


装甲車は簡易的な生活が出来るらしくベッドもある、お言葉に甘えて横になってログアウトする。


・・・・・


(そりゃそうだ)


倒れる様に寝た様子を見て一致する意見、ついでと言わんばかりに席を外れたり休憩を挟んだりと人によって様々だ。


しかしそこに重要な情報、リスポーン地点の変更。寝て、少しして阿鼻叫喚。


条件はなんだ?安全な場所のベッドで寝る事か?ベッドの上で寝る事か?ただ寝る事か?どちらにせよ攻略に大きな進歩を齎す情報。


ギャーギャーと騒がれてる中、ふと思う。


(なんかこの人妙に可愛げがあるな......?)


動きがいちいちバタバタしてるのだ、起き上がった時の片腕挙げる動作とか表情も安心した後はやたら豊かで、出て行くロボットにバイバイと手を振るしまつ。


しかしライブ中なのを忘れてるっぽい着替えで見えてしまった肉体、柔らかな印象とは裏腹にバキバキに割れた腹筋や分厚い筋肉達。弾痕、刺傷、火傷、見慣れない傷痕からして作り物のアバターであろうと推測が立てられていく。


(合ってない......)


だと言うのに片手で[明らかに手慣れた様子で銃を取り扱う奇妙さ]、戦闘時の雰囲気、正しく歴戦の兵士を見ているかの様な安心感が人々を混乱に導いてく。

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