第1章五話:想起

帰って来た、塵鉄惑星に。


真っ先に行うのは安全の確保、危機の把握。右目だけなのでキョロキョロと見回し確認すれば、行ってくる前と何一つ変わってない巨大な役所っぽい受付......取り敢えず探索するか?


「ふむ......」


機械は動かない、非常灯は点いてるので非常用の電源が動いてるのだろう。小さな灯りや隔壁の認証と生命維持関連だけが動いてるのか?


(目標は電源の復旧、無闇に動いて良い物だろうか?)


地図か何かが......あった、柱に描かれてる。ザックリ見た感じA区画、B区画と言った具合に分けて施設が配置されている様だ。


(蜘蛛の巣か何かかよ?)


何やら施設が重なっていたり通り道が限られたりややこしい状態になっている、電源関係は......たぶん奥の方か?一般人向けの地図らしく関係無い所は詳しく描いてない。


(一先ず、歩こう)


広大な受付を順路通りに進めばシャッターの様な形で閉じている横に広い出入口が見えて来る、ロックは隅に2箇所と下側に取手があるので開けられるだろう。


(......音は無いが)


何かが居る様な音は無い。しかし攻撃して来る様なモノは機械も多大にありうるのであまりあてにならない、感知されてから起動して即座に排除される可能性がある。


(自分の反射神経を信じるしかないな)


左手は完全に失っているので何とか左腕と右手を使いガタガタと膝辺りまで押し上げて覗き込む、広い円形ホールの様な作りでベンチと近くに緑......観葉植物が置かれてる。


パッと見た印象は[あまりにも綺麗過ぎる]と言ったもの。埃は薄く積もってるが、あれだけの知的生命体が逃げ込んだ痕跡と比べて混乱した形跡は無い。いや、なるほど。


(ここが最終防衛ラインか?)


追い詰められた人類の思考的には門を突破されても抵抗したがるだろう、よく見れば壁面や床に謎の凹み線......恐らく緊急時には銃砲等が出て来る、のか?


取り敢えず出入口を閉め直して先へ進む。通路は今まで通って来た場所よりもギュッと狭くなっていて非常に簡素、研究施設を思わせる白いプレートが嵌め込まれてる。


(地底を開拓し続けて地図に描かれてない場所に街があるか、それとも何かあって全滅したか)


冬眠でもして未来を待って居る可能性は忘れよう、今考えても仕方ない。


通路を歩いてると時々壁側に扉を見掛ける。開けて覗くと何も無い部屋だったり、ベッドが置かれているだけだったりする。


(人の気配が無いな)


どこもかしこも綺麗に整ってるのだ、薄らと埃が積もってるのでもしかしたら人が活動した時に出た物かもしれないが......もう居ないって感じだ、放棄されたかはたまた。


(ん?広間?)


色んな遊具が置いてある。シーソー、ブランコ、ボルダリング?小さな公園みたいな感じだけど室内用の運動器具も置いてある。人工芝だ。


キィ......


ブランコを指先で突っつく、まだ普通に動きそうだが先を急ぐ事としよう。


通路を渡り歩けば食堂・映像室・トイレと言った具合に様々な場所がある。植物は育っていないが恐らく室内栽培施設もある様で長い間、避難する為の設備が整っている。


(だからこそ不気味なんだよね......)


誰も居ないこの状況、表には避難するべく慌てて来た痕跡が残っていたが......はて、この状況は?


(そろそろだと思うんだがな?)


扉を開ける。今までとは違って関係者以外立ち入り禁止の標記っぽい物が描かれてる、扉の先は大きく変わり鉄か何か......金属で出来た網や穴あきの鉄材、剥き出しの配線が張り巡らされ基地っぽい様相だ。


(ごんぶとの配線が通ってる、この先か?)


長い通路を進むとのっぺりとした分厚いコンクリートで作られた壁が見えて来る、それに付随する扉は......開いてる様だ。


(ふむ)


よほど大事な場所なのか頑強に造られている、非常に単調なコンクリートの通路を歩くと大きな部屋が見えて来る。


中心に向かって固定された机と椅子が置かれ、机には大きなガラスの様な物(恐らくディスプレイ?)が備え付けられている。中心には大きな機械がドンと置かれてる。


(何か重要な機械、演算装置か何かか?)


さて、この辺りにある機械も動いてない。電源の復旧が目的であり電源の位置は......ああ、真ん中の機械からコードが延びている。どれかが電源に繋がるだろうか?


(それっぽいのは......これか?)


辿って行くと扉の無い部屋へ入り大きな機械に繋がれてる、そこには何処からどう見てもブレーカーと言わんばかりのレバーがあった。


(取り敢えず上げるか)


ガシャン


何も起こらない、レバーを下げて観察し直す。ボタンやら何やら色々付いていて説明書きや名称が書かれてるので従うべきだろう。


(先ずはこのボタンを押して紐を引っ張って動力を与える)


ランプが点くまで繰り返して、点いたらバルブを開けてちっちゃいレバーを押してガスを規定域まで一旦抜く。


プシュー!


でもって閉じ直して、ちゃんと動作してるか備え付けのモニターで確認して大丈夫そうだったらブレーカーを上げるっと。


バチッ、ウゥゥゥン......


部屋が明るくなった、それと同時に視界端にポップアップしていたメインクエストが達成された旨を伝えてくる。


ピピッ、ピッピッ、ピピッ


部屋から出ると巨大な機械が再起動している様で、備え付けられた複数の大きなモニターが読み込み中的なデザインが表示されてる。


『(パポンッ)、起動が完了しました......初めまして見知らぬ人類、この基地の最終権限所有者が資格を喪失したため一時的に貴方へ権限が渡りました。この権限は一時的なものであり上位の資格所有者が現れた時点で消失する物です』


「権限?資格?」


『権限とはこの基地における提案権であり、非常事態における指示権限です。資格は軍事階級に基づき定められた物であり、軍人が居ない場合は最も相応しい者へ付与される物です。また資格の適応は[生きている人類]に限ります』


「ほうほう」


聞けば答えてくれるっぽい?


「この基地の他の人達は?ここで何があったの?」


『現時点においてこの基地に居る人物は貴方以外に居ません、ここはアウルムの子達から避難する為に作られた大規模施設です。現時点まで不具合なく役割を果たし続けて居ます』


「アウルムの子達?いや、言い方が悪かった。駐車場が溢れ返る程に避難して来た人々はどうなったの?」


『全員寿命によって亡くなりました』


なるほど、一先ず寿命まで生き延びれるらしい。


「それとアウルムの子達ってなんだ?地上の惨状と関係があるのか?」


『現時点でアウルムの子達に察知されないようオフラインを維持しているので地上の状態が不明です、受け答え出来ません。またアウルムの子達とは人工知能のアウルムによって造られた暴走機体です、非常に危険なので近寄らないで下さい。攻撃されます』


アウルムの子達って虫みたいな形をした機械の事か?散々攻撃された後なんだよなぁ、近寄らなくても攻撃されるし。


『その場から動かないでください』


外からガタガタとキャタピラの様な音を響かせ何かが接近して来る、動かない様に言われたので警戒しつつ見ていると箱状の機械がやって来た。


『処置を開始します』


箱から細いアームが出てきて左腕に巻いた髪の毛を解き、何らかのスプレーを噴霧してから包帯を巻く......他の部位も残存していた鉄片を抜き取り手当してくれる様だ。


・・・・・


直ぐさま連絡が渡る、配信が始まったと。


絶対的な数で言えば少数派、しかしその明らかなる文明の兆しは攻略不能と言われた惑星へ挑む夢を見させる。


増えたり、減ったり。


挑む者がやって来ては投げ出す、その最前線は穏やかな空気で始まった。


(まるで日本の様な場所だ)


建築の様式、あちらこちらにある日本語。


(もしや日本だった系ネタ落ちか?)


時々見知らぬ何かに心を踊らせ視聴を続ける、次は何を見させてくれるのか?


そして起動するAI、明かされるお話し。


人々はそこに何か打開策が無いのかと目を光らせた。

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