第1章三話:懐柔/陽月惑星

シンプルに疲れてる、どっちかって言うと特大ステーキでも食って胃もたれしてる感じだ。


「......やる気、起きないな」


塵鉄惑星に今は行きたくない、あんなに疲れるなら元気な時じゃないと......でもゲームと言うか遊びたくはある。


「他の惑星か......?」


選択すれば遊びに行けるらしいし、こう言う時に使う機能なのでは?


「う〜む......」


幾つかピックアップ出来るけど疲れそうな物ばかり、頭を使わず身体を全力で動かすよりは選択肢(コマンド)を押して勝手に動く様な......


「ロールプレイ......」


確かそんな感じのがあったはず、ええとコレじゃなくて......《陽月惑星》難易度はハード、備考でギャングになるも警官になって街の秩序を守るのも自由な第2の人生を歩める惑星。


注意事項として自動RP(ロールプレイ)機能があってアバターの設定に準拠して動くとか何とか、要するに[勝手に口が悪くなったり]行動もいつの間にか[思考誘導が働く]とか何とか。


「設定は......あ、ふーん?」


個人個人に合ったものが自動的に割り振られるとか何とか、どうしてもやりたい設定があったら強く思いながらやればイケるかも......?との事。そもそも自身の考えもアバターに結構反映されるらしい。


「楽しめる事は保証されてそうだね」


よし、行こう。


・・・

・・


眩い日の照り付けで意識が戻る。辺りを見渡せば広いけれどコンクリートジャングル、ビルだらけの様相を示し都心を思わせる。


「ここは......?」


振り返ればどうやら病院から出て来た状態の様だ。視界が切り替わり三人称視点の様に自分を背後から見る事も出来る、意識すれば一人称へ切り替える事も可能な感じだ。


「なるほど......?」


「おい、あんた。どうし......ああ!なるほどね、この街に来たばかりかい」


白衣、と言うには少々汚いが女の医者を彷彿とさせる煙草臭いオバ...お姉さんが院内から出て来て話し掛けて来た。ガサツな感じで医者が務まるのか疑問だ。


「恐らく...?」


「はっはっは!初心者マークは久しく見てないからな!それにその感じだと隣人か!」


隣人......ああ、思い出して来た。とんでもない惑星に産まれてその攻略を進めて、それで、それで......


「隣人だとなんかしら特典があるだろ!職業とか付いてんじゃねえか?」


「職業は、神官?」


「へえ、聞いた事ないね。でもどうりで神父さんみたいな服を着てるもんだ、もし別枠で救急救命士になるんなら市民パスが必要だぞ。持ってるか?」


「いや、それは無いな」


「市民パスは無いのか、結構大変だぞ?大体の職業に就く時や免許を取る時に必要だし、割引きも効かない」


「どうやって手に入れるんだ?」


「警察の方に紐付いてるからな......やっぱ2ヶ月間一度も犯罪で捕まらず、その後警官に発行して貰う位じゃないか?」


「そうなのか」


どうしようも無いので取り敢えず放浪する事にした、別れ際に「ひっひっひ、同僚になったらよろしくな〜」とか言われてちょっと怖かった。


「さてどうした物か......」


行く宛ても無くテクテクと徒歩で移動してるのでなかなか病院が見えなくならない、道路ではビュンビュンと車が行き交うので余計に牛歩みたいだ。


ウゥゥゥン......


警察車両が猛スピードで通って行った、まさに今から出動!って感じだったので向こうに警察署があるのだろうか?無くても方針が定められるので行ってみる。


大通りに出たら大きな警察署......と更に行った場所へ教会が建っているではないか!ピンと来た、[アレが私の職場]だ!


「ハッ...ハッ...ハッ...」


思わず駆け出す、規則正しい呼吸法で足を止めずにやって来た。しかしどうやら絶望を叩き付けられてしまう様で、なんと教会の建て直しと言うか再開と言うべきかとにかく封鎖を解くには[30億]お金が無いと活動出来ないらしい。


「まじですか......」


ガックシ、そんな擬音が付きそうな膝折りと手付き。しかも必要なお金は[寄付金]であって[自分のお金じゃ買えない]らしい。


「......出来る事から、ですね...」


物価と給金が単純に高いだけかもしれない、それに神官として簡易のお仕事は出来ますし。警察署の駐車場でだべってる警察の方々にも顔を通しておきましょうか。


「ん?あれは誰だ?」

「見かけない顔だね〜」

「新入りかな?」


「こんにちは」


「こんにちは〜」

「こんちわー」

「こんにちは」

「ちわ〜」


一言挨拶をすれば口々に返してくれる、ザッと人数は8人位か?


「本日よりこの街にやって来た[職業:神官]......です、縁があれば何卒よろしくお願いします」


「よろしく!」

「新入りかー」

「神官は聞いた事がないな」

「職業に就いてるって事は隣人のヒトか」

「神官って何が出来るんだ?」


ガヤガヤと騒がしくなる、職業の後に名前を伝えようと思ったがそもそも[名前が無い]。


「お名前は〜?」


「私も今さっき気付きましたけど、名前。無いですね......」


やいのやいのと騒がしくなる、「名無しとはとんでもない所から来たんじゃないか?」(正解)とか「取り敢えず名前決めた方が良いんじゃないの?」だとか。


「神父みたいだから神父さんで良いんじゃないの?」

「いやそれはそれでどうなんだ、警察の人が警察さんって名前になる様なものだぞ?」


確かにそうなのだろう、なにか名乗りたい名前がある訳でも無いし。関係のある所から引っ張ってくるか?


「どこの惑星出身?」


「インポッシブルの塵鉄惑星ですね......」


ザワザワと沸き立つ、「インポッシブル......?」とか「聞いた事ないな」やら「インポ......インポ?」に......ちょっと待て、いんぽ言うなや。恥ずかしい名前にするな。


「インポか〜」

「神父インポ......」


「待て待て、そこで区切るな。その名前は......その、なんと言うか凄く嫌だ」


「ポッシとか良いんじゃない?可愛いし!」


ワイワイと名称が[ポッシ]で決まった様な話し声。ポッシと名乗るのもやぶさかでは無いし、これ以上に変な名前で呼ばれるのも困るから話を逸らす。


「それではこれからポッシと名乗りましょう。それで神官のお仕事、出来る事に関してですが」


惑星に来たばかりだけどなぜか知っている情報、少し思考を纏める、興味があるのか皆こちらを見て居るので聞こえるだろう。


「冠婚葬祭、[第三者としての契約立ち会い]や[お祓い]等ですね」


「え、結婚って神官さんがやってるの?」


「はい、教会の解放がされて居ないので簡易的な物になりますが、基本的には大神の名の下に誓いを見届けます」


「...お祓いって幽霊とか?」


「そうですね。大神の元へ還らない霊魂を送ったり、呪い等も解いて淀んだ土地を祓ったりしますね」


「そのオオカミってのは何だ?」


「この大陸で信仰されて居る筈の神様ですが......ご存知ありません?」


みんな首を傾げる、「知らない」とか「聞いた事ない」やら中々に酷い状況......ほぼ確実に目へ入ってる筈なのだが、教会があんな状態だったし信仰が薄れてる?


「ええと、あちらの......そうです警察のエンブレムに描かれてる狼、その元が太陽神であり月神でもある大神にあやかって描かれた物だと思いますが......」


「まじかよ!?」に「オオカミって狼か!」やら騒めく、この街には狼を描いた物が多いので元々信心深い街なのだろうとは思うが。今や形無し。


「仕方ありませんね......教壇は無いですが、大神について教えてあげましょう」


大神とはこの惑星を産み落とし、地を育んだ管理者である。人々に社会性を教え都市を築かせ、今も空で見守る。それが太陽であり、影になってしまう場所は月からも見ている。だからこの星はいつでも太陽や月が見えている。


そんな話しを面白く聞かせて興味を引くのだ。


・・・・・


直ぐさま反応した、LIVEの文字が出た瞬間に映像の確認が行われる。24時間の内、交代しながら監視を続ける攻略組のメンバー。即座にクリックし、情報を確認するが......


「は?中継?」


そんな声が漏れ出る、[別惑星へ遊びに行って配信してると出る文字]。要するに[目的の物じゃない]、彼等は遊ぶ映像ではなく[攻略が見たいのだ]。


「ハーーー!」


そんな叫びを出して[今日はもう中断!]と監視をやめる人々、当然と言っていいのか配信中の惑星へ[突撃]する人々も現れた......が。


陽月惑星は自動RP(ロールプレイ)機能付き、入った途端[目的を忘れて]プレイし始めた。


陽月惑星を管理しているAI(人工知能)は何を判断して[目的を忘れさせた]のか不明だが、そのオオカミと呼ばれるAI(人工知能)は確かに動いて居るのだ。

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