第1章二話:痕跡

避ける、避ける、避ける。もう何時間が経っただろうか?6時間?はたまた8時間?集中力は切れてないが......既に視界は白黒、ボヤけ具合も酷くなって視覚情報は殆ど役立た無い。足も棒きれの様で上手く動かせず避けきれない攻撃を逸らした際に左腕が吹き飛んだ。


(見えてる)


だけど認識出来ない。青い逆三角が場所を示している、距離も書かれているのだろうが頭が働かず識別出来ない。


タイミングを見て肺へ空気を入れる、それでも酸素の供給は足りない。


「───!」


虫に機械がゴテゴテ付いた化物の接近、今度はカマキリの様だが対応はし易い。何せ可動範囲が決まってる挙句、全方向から飛んで来ていた弾丸の1部を塞いでくれる。


その代わり同士討ちで倒されてしまうのが難点か、振り下ろされる鎌はノコギリみたいなチェーンが付いて触れると危なそうだ。もう片方の鎌は鉄片が付けられ巨大化して居る。


「ッ!」


振り下ろされるチェーン付き鎌を避けたら地面で刃の部分が割れて飛び散った、何とか避けようとしたものの左眼に突き刺さったらしく左側の視界が消失した。


普通に痛い、ノルアドレナリンだとか出せれば良かったのだろうけど長時間の放出は色々な意味で危ない。その内、身体が動き辛くなってバタって倒れるとか散々経験した。


(1.2.3、1.2.3.4、1.2.3)


ステップ、ステップ、脚を止めるな。この程度の弾幕で倒れる事は恥だぞ、既にカマキリは倒れて障害物として機能してない。


ステップ、ステップ、上手く立ち回って身体全体を動かして避ける。無駄な動きはしない、体力がいつまで持つかの我慢比べだ。


スルリ


足が空を切る、そのままカクンと身体全体が落ちる。コロコロ転がって慌てて周りを認識すれば前方に扉、シェルターの様だ。


窪んだ土地に有り、シェルターを見つけた事に本来は安心する事だろう。シェルターが半壊した扉と半壊した部屋以外に全て壊されていなければ。


【何か使える物が無いか探そう!】


視界端へサブクエストとして新たにポップアップが表示される、既に壊されている事から見て絶対に安全では無いのだろう。


ほんの少し休めたのでさっさと調べて行く、引き出しは下から引き出す......空、空、キッチンナイフ、鉄片、ナイフは持って行く事にする。机の上に置いてある小さな機械は、付いた。SF的な仕組みか電池残量があったのか。


空中ディスプレイ、何やら文字が浮かびザッと見れば日記の様な物らしい。単純に文字を書き殴ってるだけなので日記と言え無さそうだが。


《■■■年■月■日》

《もうばれたお終いだなんでなんでなんで音出してないのに》

《家に逃げ込むんじゃなかった出れない軍事シェルターのカードあったのにどうしてこっちに逃げた?》

《削ってる音がもう近くだ》


これだけ、最初に拾った鍵は扉に合ったのでここの鍵だろう。軍事シェルターがあるらしいし、そのカードも何処かにあるらしい。


(これか?)


煤で汚れているカードが近くに落ちていた、瓦礫と同化してたのでスルーする所だった。


【軍事シェルターへ入ろう!】


距離は......1kmも無いな、イコールここで倒れたら初期地点でリスポーンするのでまた同じ時間掛けて行く必要がある。滅茶苦茶面倒くさいな、これは......


取り敢えず応急処置を施す事にした、長い髪を切って左腕に巻き付けて止血する。それと同時に腕やら脚に刺さっていた鉄片を抜き、髪を巻き付けて止血する。


(ああ、なるほど)


どうやら頬にも刺さっていたらしく、鉄っぽい味がしていた原因はそっちだった。血が出ていればその内......いや比較的直ぐに止まる身体なので抜くだけ抜いて放っておく。


呼吸を調える、相も変わらず酸素は足りない様だ。


(......今!)


駆け出し窪地を飛び出る。既に化物が近付いてた、下手したらシェルターの中で襲われていたかもしれない。化物は蜘蛛?がモデルっぽい?


もう物言わぬ残骸なので確認のしようが無い、多少は休めたので動きにキレが戻った......気がする。


(1.2、1.2、)


歩くと言うより駆ける、正直疲れてしまっているのでここで決めに行く。強く蹴って避ける、少しブレーキを掛けて避ける、身体を捻って、腕を振り上げて、頭を捻って。


そんな事をしていたら、丘に張り付く様にある大きな扉が見えて来た。脇にある小さな扉から入るのだろうカードリーダーの様な物へすれ違いざまカードを押し当て、ロックが解除した様な音を聞いてグルリと円を描きながら戻り突入する。


バタンッ!


既に侵入されて居るのか、はたまたこれから侵入されるのか?状況確認の為に直ぐ様巨大な通路を見渡す。


掠れた非常用のランプが点灯して、幾つか寿命を迎えたのか穴抜けになってるが周りは見渡せる。通路は斜めに深く深く掘り下げられ、奥にまた巨大な扉がある。


幾つかの重機と通路?の資材が放置され、少々物悲しさを感じるが攻撃して来る様なナニカは居ない。


(ふむ......歩き辛い)


足早に先へ進む。とにかく奥へ、いつ追って来るか分かったもんじゃない......何処か休める場所があれば良いのだが。


通路の扉もまたカードで開く、が先程より舗装された巨大な通路が同じ様に続いて扉がある......を繰り返している。


(何回目だ?)


直ぐにこの景色は終わるだろう、と思っていたがそうでも無い様だ。どこまで下へ行くのか、酸素は大丈夫なのか?同じ様な景色だと細かい事が気になり始め、何だか傷口とかが痒くなって来る。


何とか緊張感を取り戻して気を入れ替えた所で、変化が現れた。


要塞の様な門、砲門の数は尋常で無い位ある。


(でもやっぱり人気ひとけは無いな)


廃墟特有のホコリを被っている、正直不安しかないが行くしかないだろう......たぶん。


ピッ


本当に小さな電子音、今までの道中にあったカードリーダーは全く音を出さなかったがここでは出るらしい。


普通に開いて格納庫の様な場所へ出る。戦車に輸送車、たぶん一般車両まで放置されている。


(先へ進むのは......1番奥の扉か?)


少々乱雑に置かれた、と言うか横の駐車場から溢れて置かれた車を避けつつ扉へ行く。


車の中の鍵は差さったままみたいだ、でもって車種とかはちょっと分からない。SF的な車だ〜とでも言えれば良かったが何処と無く現代の車の面影が残っている......内装とかもざっくり大雑把に似てるし。


扉を潜ると広大な受け付けだった、市役所か何かかと聞きたい位に似ている。


(地図か何かあれば良いんだけど......)


視界の端にポップアップしているメインクエストは既に変わっている。


【軍事シェルターの電源を復旧しよう!】


(......寝るか)


クタクタに疲れてるのでログアウトしようと思う、その場で現出するスタイルの惑星だから次はここから始められる筈だ。


・・・・・


避ける避ける避ける。場面1つ1つが芸術的なほど洗練された動作で数多の弾丸を避ける姿は、多くの人々を釘付けにした。


(.........)


視線が離せない、次は何が起こるのか?そんな純然たる思考により、一部の精神が狂ってる人間の 認めないコメント連投さえ目に入らない状態と化す。


ただただ無言で2時間、カマキリの様な化物によって均衡は崩された。


傷を負い、手を失う事はあれど[流れ]は失わなかった。あまりにも手傷を負い[ガクン]と一瞬だけ、ほんの一瞬だけ流れが切れた。


(なに...を)


正気に戻るのはソレで十分だった。


阿鼻叫喚のコメント、あまりにも非現実的な光景の遭遇。初めてメインクエストを達成した瞬間には[事の重大さ]を理解し過去、攻略へ乗り出していた人々に連絡が入る。


それさえも[前座]で、文明の痕跡どころか大規模な施設へ辿り着きこれからと言った所で配信は終わった。

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