第3話軽めのキス

 私と紅代は手を繋ぎながら登校し、高校に到着して昇降口を抜け、下駄箱で別れ、教室へと逃走するであろう彼女を阻む為にスリッパに履き替えた私は先輩の学年の下駄箱へと急ぐ。

 想像していた通りに背中を丸め、忍び足で廊下へと片脚を踏み出そうとする彼女の姿があった。

「美央先輩、一人で教室に行くんですか?」

「はひゃあっ!そ、そう……だけど」

「ご一緒したいです、美央先輩。良いですよね?」

「はぁー。良いよ……」

「ありがとうございますっ美央ちゃん!」

 私は溜め息を吐いた彼女の隣に行き、彼女の手を取り歩き出した。

「南雲さんって……」

「なんです、美央ちゃん?オンナの子同士が手を繋ぐなんて普通ですよ。このくらい」

「普通……?皇とはやんないよ……南雲さん、私には好きな——」

「美央ちゃんには、私が居ますっ!男子と交際するなんて断固反対ですっ!美央ちゃんは私と結ばれる運命なんですからぁっ!?」

「痛い痛いっ!それにそんな恥ずかしいことを一々叫ばないで、南雲さんってばぁっ!」

「ごめんなさい、つい手に力が……美央ちゃんが悪いんです、私を動揺させることを言うから。仕方ないですよぅ」

 廊下で談笑する生徒の視線を気にした紅代にしおらしく謝り、申し訳なさそうな表情を彼女に向ける私。

「南雲さんに付き纏われ、変な噂が流れるんだから。自重してほしい……」

「酷い言われようでショックですぅ……好きな美央ちゃんと噂されるの、大歓迎です私。いざとなったら皇先輩が美央ちゃんを救うんですから、良いじゃないですか」

「そんなときだけ、皇頼り?」

「そうで良いんですよぅ〜!親友と恋人では役割が違いますからね〜!空き教室に行きましょ!ねっ?」

「なに、されるの……?もう、やだぁ〜!」

「はいはい、急ご〜!」


 私は紅代を空き教室に連れ込み、キスをねだった。

 私は近くの席の机に腰を下ろし、紅代の片手の手首を掴んで逃走を阻む。

「ねぇ、美央ちゃんキスして!今日一日頑張れないから、キスしてほしいなぁ!」

「えぇー、キスぅー!私に支障はないからしなくても——」

「美央先輩、私って貴方の後輩ですよね……?」

「うっ……わぁ、わかったよ」

 彼女が私の太腿近くの位置の机に両手を突き、顔を近付ける。

「美央ちゃん、太腿に手を置いてキスをして」

「えっ?もう注文が多いって……」

 彼女は愚痴りながらも、両手を私の太腿の上に載せ、頬に唇を触れてキスをした。

「マウスが良かったんですけど……」

「キスはキスなんだから良いでしょ。もう行くっ!」

「あー、美央ちゃん待ってよ!」

 空き教室から駆け出した彼女の背中を追いかける私だった。

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カワイイあなただからナかしたい 木場篤彦 @suu_204kiba

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