プロローグ
月もない、漆黒の山中を、荒い息遣いが途切れ途切れに響いていた。
時折振り返りながら、若い男が何かに追われるように走っている。
年齢は二十歳そこそこだろうか。闇の中でも足を取られずに走り続けられる体力と、山林の地形を熟知しているかのような身のこなしから、その男性が地形をあらかじめ知っているのが分かる。
なるべく、呼吸をしないようにするが、乱れた呼吸を押さえることができず、吐く息が白く、男の後ろに勢いよく消えていく。
季節は冬なのに、男は、Tシャツ一枚と薄手のズボンを履いており、素足で、時折、足を木の根や地形に取られて、それでも転ばずに足腰の強さをうかがわせた。
突然、風を切る音が彼の耳に届き、立ち止まり、身を伏せた。
緊張が走る。
耳を澄ますと、音が消え、静寂が戻る。再び、弾かれるように走り出す。
その時、猛獣のような足音が背後に迫る。
振り返った瞬間、足音が途絶え、再び静寂が訪れた。
息を整えながら、周囲を見回した男の視界に、山麓の民家の明かりが飛び込んできた。
安堵の表情が浮かんだその瞬間、まばゆい光が男を照らし、目が眩んだ。その頭上に何かが落ちてきて、彼の体をくの字に押しつぶした。
山師団の男たち kitajin @kitajin
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