第79話 新たな女……いや事件です

 

 昨日、買収した病院の新たな門出再開業を迎えることができた。

 ここのビル内に場所を確保して、医療器材などの搬入や間取りの工事など色々と忙しかったが、それも無事終わり、昨日から診療を開始している。

 別段、今までと変わった事をしていないので、問題ないとの報告ももらっている。

 新たな出発に当たり、おとといの夕方、ここの最上階にある多目的ホールにて簡単なセレモニーを開いた。

 海賊興産から大木戸社長や、花村さんや榊さん、それに本社から木下常務も招待しておいたら全員の参加となったちょっとしたパーティーとなった。

 黒岩さんがらみで吉井会長やスケジュールの空いた談合坂のメンバー、それに俺の愛人でもあるお天気キャスターの北海京子さんも参加してくれた。

 彼女たちもお世話になっていた病院だったようで、病院関係者は喜んでいたが、以前に診療などで会っているので、それほど大騒ぎにはならなかった。

 無事病院が開所したのは良いが、今回の買収の目的となった10名は、ここでの開所までに治療は終わっていた。

 なので、彼女たちは病気にでもならなければここを利用しない。

 今では、彼女たちはエステにもほとんど通わなくても良いくらいまで、すっかり良くなっている。

 尤もこれは外面だけで、心の問題に関してはもう少し時間がかかりそうだ。

 そのために、スレイマン王国からアリアさんやかおりさんが直接赴いてお願いして連れて来たエリカさんに任せている。

 エリカさんは、かおりさん達が新人として初めて王弟殿下の屋敷に入った当時には既に彼女たち女性をまとめる立場にあった女性で、当然奴隷の期間を満了していたが、王弟殿下がお隠れになる最後まで殿下の傍にお仕えしていた女性だ。

 そのため御年のほうは……この件は触れてはいけない事項でした……当然殿下の傍でお付きのために独身であった。

 殿下がお隠れになったことで、そのままエニス王子のところに行くことなく仕事を辞めた非常にできる女性だ。

 自身は奴隷でないために少しばかりの財産がスレイマン王国にあったために、その処分のためにスレイマン王国に残っていたところに、事情を話して助けてもらうべく、かおりさんたちが必死に頼んで、こちらに来てもらった。

 そのために、こちらでは直ぐに羽根木の住居棟に住居を用意してお迎えして、彼女たちの相談に当たってもらっている。

 日本に来て直ぐに俺もエリカさんに挨拶に伺ったが、非常に気品を感じる、年を感じさせな……失言でした……いわゆる美魔女というジャンルに類する人であった。

 彼女たちもエリカさんとのカウンセリングを通して非常に良い方向に変化していくのを俺でも感じている。

 エリカさんが良ければこのままずっと協力してもらいたいのだが、この話は追々考えていくことにした。

 そんなこんなでイレギュラー的な行事はほとんど終わり、俺の日常が返ってきた感じだ。

 俺の日常で、週末のグアムでの訓練も再開しており、大学が始まるまで、少しまとまって訓練をしている。


 その訓練のために向かう飛行場で、夏休みに入ってから少しばかり変化があった。 

 日本人とヨーロッパ人とのハーフと思われる高校生くらいの女性と知り合った。

 彼女は御年……こちらはお年を言っても大丈夫だ…15歳になる高校生で大村幸子さんという。

 なんと彼女は俺の指導教官を務めてくれる大村聡子さんの一人娘だそうだ。

 あまりプライベートに関して立ち入りたくはなかったのだが、待ち時間に同じ日本人のそれも年も離れていないと云うこともあって、彼女は良く俺に愚痴をこぼしていた。

 愚痴を聞いていると、家族関係なんかが見えてくる。

 俺に比べれば肉親、それも母親がいるだけで恵まれているように感じたが、案外ダメな肉親がいると、全く居ないよりも悩みが多いらしい。

 彼女の父親がイタリア系の人なのだが、彼がいわゆるダメ人間の典型だとか。

 ギャンブルや酒や女にはまり、結局教官は彼女が生まれてすぐに別れたそうだが、それでも何かにつけて教官にすり寄ってくるそうだ。

 そのほとんどが金の無心だとか。

 一切断ればよかったのだろうが、教官は同情心からなのか何度か援助していたそうだが、それもだんだんひどくなり、結局彼から逃げるようにしてグアムに来たという経歴があると聞いた。

 別れた後に援助した段階で、自業自得とも言えないが、彼女の未練や優しさの表れなのか、俺には分からない世界だ。

 そんな幸子さんの愚痴には、どうもまたその彼が何か仕出かしたかのようだ。

 彼女の母親が、最近になって元気が無いのもその原因だとかと愚痴っていた。

 俺には変わらないように感じていたが、そういう感情は肉親だからわかる物なのかな。

 彼女の愚痴を聞きながら俺のことを聞いてくるので、俺は嘘は言わずに当たり障りのない範囲で俺のことを教えた。

 どうも彼女は俺のことを大富豪のドラ息子と最初は勘違いをしていたようだが、最近になってやっとその誤解は解けた。

 ドラ息子とは孤児である俺には縁のない話だが、俺のドラ息子は相当の放蕩息子なのであながち間違えとは言いにくい。

 ごめん、下ネタになった。

 そんな感じで夏休みも終わろうかという時に事件は起きた。


 いつものように、俺は飛行場で訓練飛行の時間を待っていたら、飛行学校から教官の都合で本日の訓練の中止を伝えられた。

 明日は帰国するので、なんだか残念な気持ちがいっぱいで、飛行学校のロビーに出ると、幸子さんが泣きながら俺のところに来る。


「直人、助けて。

 お母さんを助けてください。

 私をあげます。

 私を自由にしていいから、お母さんを助けて」 と叫んできた。


 とりあえず俺はロビーのソファーに彼女を座らせ、尚子に飲み物を頼んで彼女を落ち着かせた。

 飲み物を飲ませて落ち着かせに成功した後に、俺にもわかるように事情を聞き出すことに成功した。

 彼女が言うには、地元のやくざに彼女のお母さんを連れて行かれたというのだ。

 彼女のお母さんは俺の指導教官の聡子さんのことだ。

 なんでも彼女の父親の借金のかたに身柄を拘束されたとか。

 別れた亭主の、それも別れた後での借金のかたとは、誰もが納得がいかない。

 しかし、そんなことを言ってもいられない。

 なにせ教官の身に危険が及ぶ話だ。

 俺は、尚子さんと相談したのち電話で、ボルネオのアリアさんと相談した。

 尚子さんはすぐに電話で地元警察に連絡しているが、どうも芳しくない。

 すぐにでも地元の警察で処置してもらいたかったのだが、……ちょっと待て、 本来ならすぐにでも警察が動かなければおかしい。

 どうも、そのやくざというのがかなりの曲者で、グアムに相当な地盤を持ったイタリアのシチリア系のマフィアに連なる組織だという話だ。

 アリアさんからの情報だが、いったいこんな短時間でどうして??

 アリアさんから2億円ばかりの使用を求められたので、俺は了承しておいた。

 ここまでかかわって見捨てることはできない。

 どうせアリアさんのことだから、ここで使う2億円を時間をかけてしっかり回収することだろう。

 俺は幸子さんを連れて定宿のホテルに帰った。

 その日の夜遅くに、アリアさんが男性を連れてやって来た。

 自家用機で電話の後に駆けつけてくれたそうだ。

 アリアさんは俺の指導教官の身元調査も既に済ませており、正直今回のような彼女の元夫がらみのトラブルも予想の範囲だったとか。

 尤もここまで大事になるとまでは予想していなかったと俺に詫びてきた。

 で、アリアさんと一緒に来た男性の身元だが、一人はコロンビア政府の財務官僚、もう一人は俺ら担当の諜報官の一人だそうだ。

 オイオイ、諜報の人間が身元を明かしていいのかといいたいのだが、その辺りのことについて向こうから明かしてくれた。

 俺との交渉担当官だそうだ。

 例の経済ショックもコロンビア政府内での処置に一定の目途がついたそうで、俺らと真剣に交渉に入る準備に入っていたと聞いた。

 ここに来た人間は、とりあえず自分が俺らとの窓口役となると自己紹介があった。

 しかし俺には分からない。

 何故財務官僚と諜報関係者がここに来たかということが。


「わざわざ訪ねてくださったことには、お礼を申しますが、正直今はそれどころじゃありません。

 できればこの件が片付くまでお引き取り願えますか」


「直人様。

 少々お待ちください」

 アリアさんが説明し来ようとした時に、諜報官から説明が入った。


「ミスター本郷。

 その件について説明させてほしい。

 今君らが抱えているトラブルの対処のために私が来たということを」


「トラブルの対処?

 どういうことだ」


 正直今の俺には余裕がない。

 目上の人になるかはわからないが、良く知らない人に対しての言葉使いじゃない。

 しかし、そのまま俺の感情が口から出ていた。


「まず、君を安心させるために身元を明かした。

 現在、わが政府の防諜関係部門が連邦警察の上層部を動かしている。

 すぐに地元警察が動いて彼女の身柄だけは解放されるだろう」


「身柄だけ、どういうことだ」


「正直ここまで説明したくはなかったのだが、地元警察はかなり上層部まで例の犯罪者たちに汚染されている。

 普通なら、解決しない案件で処理されておしまいなのだが、上層部が動いて直接指示を出しているので、今そいつらは犯罪者たちと今後の後始末について相談しているだろう」


「それならかえって危険では」


「だから、サイパンにいる海兵隊の特殊部隊もこちらに向かっている。

 もっとも彼らは動いたという事実が大事だ。

 連中も、少なくとも海兵隊が動いたという事実も掴んでいるだろう。

 彼女を殺そうものなら全面戦争を覚悟しないといけないところまで来ている。

 今日中に彼女を解放すれば少なくとも時間だけは稼げるという情報も流している。

 時期に連絡が入るだろう」


 ちょうどその時に彼の携帯電話が呼び出し音を鳴らしてきた。


「おっと、失礼するよ」


 彼がそう言って電話を受けると、彼女が発見されたという第一報だ。


「ちょうど良かった。

 今この電話で、彼女が町から離れた場所にあるモーテルで発見されたという情報が入った。

 連れ出された時に、少々乱暴に扱われた様子はあるが、大した怪我もなく発見され、警察に保護されたという情報が入った」 


「俺はコロンビア政府にお礼を言わないといけないかな。

 それとも、治安が維持できていないと抗議すればいいのかな」


「地元の治安に関しては我々政府の責任だろうが、彼女が無事に保護された件については、我々は君に貸を一つ作ったと考えている。

 なにせ、動かしただけとはいえ、海兵隊を動かした事実があるのだからな。

 これには少なくとも連邦政府の税金が使われているのだよ」


「税金ね~」


「彼らが動いたから、彼女が無事に、しかもこれ程早く解放されたという事実がある」


「それで、その貸しとは?」


 俺がそこまで聞くと、今まで彼の横で黙っていた財務官僚と紹介された男性が言葉を発した。

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