第72話 スレイマン王国の奴隷
俺は、かおりさんを誘って俺に宛がわれている部屋に向かった。
「かおりさん、相談があるんだ。
このあと少しいいかな」
「直人様、はい。
今日はこの後の予定はありませんので大丈夫です」
「ここじゃあれなんで、僕の部屋で良いかな」
「分かりました」
無言で部屋に向かう俺を見て、かおりさんは何かを悟ったかのように優しい顔を俺に向けながら部屋まで付いて来てくれた。
宛がわれている部屋が高級ホテルと見まがうばかりの超豪華な部屋で、ここがいわゆるこの船のスウィートというやつか。
もっとも、この船は王室専用の船で、部屋は全てがかなり豪華に作られており、一般の商用客船と違うところだ。
部屋に入り、かおりさんにコーヒを勧めながらスウィートのリビングに据え付けられているテーブルを挟んで座った。
俺が切り出す前にかおりさんから俺に聞いてきた。
「相談って、彼女たちのことですね。
彼女たちにショックを受けましたか」
「ああ、酷いもんだ。
日本でもDV被害を受けている女性が少なからず居ることは分かっているし、俺の感情が安っぽいヒューマニズムから来ていることも理解している。
全ての不幸な女性を救うことなんかできないことくらい、俺だって良く判っている。
俺自身が孤児であって普通とはかけ離れた環境で育ったしな。
尤も園では良くしてもらったし、梓のような友人にも恵まれたし、俺は巻き込まれ体質以外は不幸だったとはとも思わない」
「巻き込まれ……ですか。
確かに直人様は良くも悪くも事件に逢いますわよね。
そのおかげで私たちにも出会えたわけだし。
それで、直人様は何をしようと」
「まずは、彼女たちのケアをすぐにでも始めたい。
至急、バニーガールずの吉井会長に連絡取れないかな」
「吉井会長ですか。
この船からもお電話できますが。
何より直人様の携帯からお電話できますよ」
「え?
そうなの。
それじゃあ、ちょっと待って。
今電話しちゃうから」
「直人様。
少し落ち着いてください。
まずは、直人様が何をしたいのか私にお話しくださいませんか」
「そうだな。
自分の中でも考えが良く判っていないかもしれないし、かおりさんと相談しながらこれからの計画をまとめてしまおう。
それから会長に電話したって遅くはないしな」
「それで、直人様はなぜ会長にお電話をしたかったのですか」
「だって、吉井会長は日本の大手プロダクションの会長だよ。
それも女性専門の最大手だ。
女性に関する美容やお肌のケアについての専門家に伝手があるんじゃないかと思っている。
できれば紹介してもらえないか相談したかったんだ」
「そうですか。
日本に帰りましたら一度私もお会いしたかったと思っておりましたし、ある意味ちょうど良かったかもしれませんね。
直人様のご用が済みましたら、私にも会長とお話しさせてくださいね」
俺は直ぐに携帯を取り出して登録してある会長の携帯番号に電話した。
電話は直ぐに繋がった。
「初めて電話します。
以前お会いしました本郷直人です。
少しお話がしたいのですが、今大丈夫ですか」
そう、携帯に電話しているので相手が話せる状況かどうかの確認はエチケットとかおりさんから教わったのだ。
まだなかなか慣れないが、今日はうまく切り出せた。
「あ~、直人さん。
久しぶりです。
事務所開き以来ですかね。
今なら大丈夫ですが、何やらありましたか。
少々のことなら私にもいろいろと顔が利きますので便宜を図れますが、問題でもありましたか」
「はい、少々相談したいことがありましたので電話しました」
「お困りごとですか。
うちの事務所の奴らが何か仕出かしましたか。
それとも北海の事ですかね」
「いえ、彼女たちとは別件です。
皆さんお会いするときは本当の良くしてくださるし、会長には感謝しかありません。
今回電話したのはこっちの都合で発生したことで、会長にお力をお借りしたいのですが」
俺と会長とのやり取りを聞いていたかおりさんが、俺が会長になかなか本題を切り出せていないことを心配して、電話を替わってくれた。
その後、色々とかおりさんが会長と話し込んでいる。
かれこれ20分くらい話し込んだか。
かおりさんが電話を終えて俺に携帯を返してくれた。
「直人様。
会長がこちらにいらしてくれるそうです」
「え、こちらって、この船ですか」
「はい、本当にすごい人ですわね。
私がついでに相談した城南島開発の件で、アイドル劇場などについて帰国後お時間を取ってお話がしたいとお願いしたら、こちらに来て、殿下たちを交えて相談したいと申されましたので、自家用機を手配したいのですが」
「ぜひそうしてください。
あ、この船に会長ように部屋を要しないといけませんね」
「そちらもこれから私が手配します。
自家用機はすぐに連絡して飛ばせますので、今日中には着くかと思います。
会長がこちらにつき次第、彼女たちを交えて相談しましょう」
俺の思い付きからだけど、かおりさんが入ることでどんどん話が進んでいく。
本当に優秀な人っているんだなと、つくづく感心してしまう。
でも、これくらいの力量がないと世界を相手に喧嘩なんかできないか。
俺はかおりさんと別れ、アリアさんを探した。
今アリアさんは彼女たちと一緒のはずだ。
もう一度彼女たちときちんと話がしたい。
吉井会長に会わせることもあるので、そのこともきちんと話すつもりだ。
決して見世物にしようとしているのじゃないと、俺の口から説明したかった。
彼女たちは、要人付き人のための船室に集まってアリアさんと話をしていた。
部屋に入るとすぐにアリアさんから声を掛けられた。
「直人様。
私に御用ですか」
「あ、いや、彼女たちに話したいと思っていたが、アリアさんも一緒に聞いてほしい」 と言って、吉井会長の件を話した。
俺の話を聞いて、アリアさんはびっくりしていたし、何より不安そうにしていた彼女たち全員が驚いていた。
少なくとも体にできた痣は、時間が経てば今よりは良くなるし、いきなりやって来た自分たちに対して時間も手間も何よりお金もかけて治療されるとは思っていなかったようだ。
その辺りのことをアリアさんと話していたようでもあった。
アリアさんとしても、少なくとも船の医者には見てもらい、何らかの措置はしたかったようで、俺の提案を素直に喜んでくれた。
「直人様。
それは良いお考えですね。
しかし良いのでしょうか」
「何が」
「その、彼女たちに対して……」
費用が掛かることか。
それと前からいるメンバーとのバランスもありし、色々と悩ましい問題をはらんでもいるか。
その辺りはアリアさんを含め皆と相談するしかない。
「その辺りは、この後かおりさんやイレーヌさんを交えて話し合おう。
で、彼女たちはこの後どうなっているのですか」
「殿下のご配慮で、エニス王子の処の人たちと一緒に船医に見てもらうことになっております。
この船にはMRIまで完備されておりますから健康診断なら人間ドック並みの検査まではできます。
唯一不満と言いますか、せっかくここまでの設備がありながらと言いますか、ここでは人間ドックまで位しかできないのが残念です。
専門医がおりませんので。
その後については王子とも話し合うことになっております」
「そういうことなら、そのまま進めてほしい。
誰かに案内させればアリアさんは手が空きますよね。
すぐにでも打ち合わせがしたいのですが。
夕食までには会長がこちらに来そうなので、会長が着くまでに方針だけでも決めておきたい」
「分かりました。
小橋にエルサ、後を頼めますか」 と二人に後を任せ、また俺の部屋に向かった。
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