第71話 所有権引継ぎの儀式

 

 ボルネオ海軍の軍港を出航したクルーザーは速度を上げて王室のプライベートビーチのある静かな入り江を目指した。

 このコースは王室お決まりのレジャーコースでもあり、クルーザーは、問題なく昼前には入り江に到着して、入江中央付近に停泊した。


 梓たちは、このきれいな風景に見とれていたようで、この場所での停泊には非常に喜んでいた。

 王室専用クルーザーは停泊後すぐに、船尾の特別搬出口を開け、専用のプラットホームを海上に降ろした。

 このプラットホームは、そのまま海への入り口となり、海上レジャーの基地となる。

 これも王室がこの船を使う場合の定番の遊びであり、よくテレビやインターネットなどでおなじみのクルーザーを使ってのレジャーを楽しむことができるようになっている。

 シュノーケリングあり、ダイビングあり、はたまた船の周りを泳ぎ回るのもありだ。

 お金持ちがクルーザーを使っての遊びができるようになっている仕組みが、このプラットホームにはある。

 そう、違いと云えば、誰がどう見ても船がクルーザーに見えないことと、ジェットボートも降ろされているので、観光地にある海上レジャーがここに凝縮されていることだ。

 なにせバナナボートまであるのだから、遊びが大げさというかなんというかだ。

 これなら梓たちも当分飽きない。

 唯一心配と言えば、遊んでいるのが梓たち3人であり、少々寂しく見えなくもない。

 彼女たちがそれに気が付かなければ十分に時間を潰せる。

 尤も飽きても、船内には豪華客船と同様な施設が充実されているので、遊びには困らないだろう、寂しく見えなければの話だ。

 で、残りの大人たちはと云うと、お仕事だ。


 クルーザー中央付近の窓のない部屋にこもり会議中だ。

 議題は、我々の始める湾岸開発についての説明や、開発方針などについてだ。

 ここに集めた人たちが2千億にも上る資金の提供者なのだから、スポンサーの意見は大事だ。

 日本国政府も、そのことは十分に理解しており、里中さん達をここに派遣してきたのだ。

 里中さんは政府の総合窓口的な役割で、今回の会議の主役は経産省のお役人の二人だ。

 しかし、今まで中心になって音頭を取ってきた経産省のお役人のほとんどが例の政変?の関係で、この仕事から離れてしまい、城南島周辺の開発計画はほとんど一からの練り直しとなっている。

 今まで彼らが積み上げてきた成果は計画書となって資料として手元にあるが、今回はこれを自由にいじっても問題ないとまで日本国政府の了解を得ている。

 なので、今回のこの会議は重要性を持ってくる。

 大明共和国の詐欺まがいの計略に始まった今回の騒動は、我々にとって非常に都合がよく回っている。

 なにせ、余った資金の運用先の確保に始まり、計画そのものにも我々の要望が盛り込ませることができる。

 今回の会議で全てが終わる訳はないが、まあ一応の方針だけでも決まればいいレベルだ。

 なので、会議の冒頭からかなり白熱した会議となっている。

 船の停船すら気が付かないくらいだ。

 その後、やや遅めの昼食を頂くことになり、梓たちと合流して、船のダイニングルームで、豪華な昼飯を頂いた。


 梓たちは、すでに海に入って遊んでいたようで、水着の上からパーカーを羽織った、中高生男子には目の毒になりそうな美味しいいでたちだった。

 童貞殺しとでもいえば判るだろうか。

 いや、中高生だけでなく、俺も含めた世の男性全員に言えるのかもしれない。

 3人が3人とも若く魅力的だが、何より梓は下手なアイドル以上に男性を魅了できるものを持っている。

 今回は有象無象の男どもが付近には全くいないので安心できるが、これが日本の海水浴場だったらと考えるだけで、佐々木のおじさんの心配も分かるというものだ。


 ゆっくりと美味しい昼食を取った後は、ひとまず今日の処は会議はない。

 ボルネオ側の役人と皇太子殿下は、豪華な船にあるプレイルームで、お役人たちとの外交だ。

 しかし、俺とエニス王子には、これから別な用事がある。

 俺たちは先に行っているアリアたちスレイマン王国の女性奴隷が待つ部屋に向かった。

 これから行われることは、対外的に公開されると色々と不都合があるので、友好関係にあるボルネオや日本の政府にも公開はされない。

 唯一ボルネオの皇太子府にはスレイマン王室に伝わる女性奴隷の所有権に関する儀式だと伝えてはある。


 我々が昼食をとっている最中に、この儀式のために、この船にあるヘリポートに数回にわたり大型のヘリが到着している。

 そう、俺とエニス王子が引き受けることになった、第三王子の所有奴隷の所有権の引き継ぎのための儀式が執り行われる。

 もう少し正確に言うと、ヘリでこの船に運ばれてきた女性30名の所有権はすでに第三王子にはなく、国王に所有権は引き継がれている。

 第三王子から国王に一時的に移った所有権を正式に俺らに変更するための儀式だ。

 敵性勢力からの女性の引き継ぎには、スレイマン王国では古くからある儀式だが、現代人としての倫理観を持つ者にとってはあまり気持ちの良いものじゃない。

 要は、暗殺もできないし、忠誠はあなたたちにあると、身をもって示すためのものだそうだ。

 俺も良くは分からないが、今ではかなり形骸化されて、必ずしも儀式をしなければいけない訳じゃない。

 しかし、今回ばかりは、その女性たちたっての希望だったそうだ。

 今まで酷い扱いを受けていた第三王子には全く未練はないが、新たな主人たちに、そのことだけでも身をもって伝えたいという、彼女たちの悲痛な気持からの希望だったとか聞いている。


 俺は覚悟を決め、王子とともに船の船倉に近い奥まった部屋にあるホールに向かった。

 ここはいわゆる王族が、世間には外聞が悪い行為をするために使用されるホールなのだ。

 かつては、日本からバニーガールずの会長が用意した女性たちと王族との楽しみにもよく使われていたと聞いたことがある。

 なので、ここでの行為は絶対に外には漏れない。

 実績があるのだ。

 今回の儀式のためにここを使わせてもらった。

 ホールでは、俺の処の女性たちも、エニス王子の処の女性たち、それもそれぞれ中心的役割を期待されている女性たち数人が待機しており、準備は万端に整っていた。

 俺たちの到着を待つばかりの状態だった。


「遅れて済まない。

 すぐにでも始めようか」


 エニス王子がそう声をかけた。

 堂に入っている。

 こういったことにも慣れているのだろう。

 でも王子の表情は優れない。

 慣れているはずの王子でも、いや、あまりこの儀式は行われていないそうだから、何をやるか知っているだけかもしれないが、それでも嫌悪感はあるのだろうか。

 いったい何をやるのだというのだ。

 俺と王子はホール中央に並んで座らされた。

 するとすぐに、女性たちが俺らの前に現れた。

 人数は20名。

 彼女たちは王子の前で一人ずつ着ている服を脱ぎだした。

 下着までも脱ぎ捨てて、全裸になっていった。

 皆表情は硬いが、飛び切りの美人たちばかりだ。

 しかしよく見ると、手や足にあざが見られるし、顔にも傷やあざのある女性たちも数人いる。

 いったい今までどういう扱いを受けていたのか想像ができるだけ辛くなる。

 王子は一人ずつ彼女たちの秘所に手を入れ、彼女たちが自身の体にも何も隠していないという意思表示の行為だ。

 新たなご主人様に対して隠すことなどないということを示す儀式を行っていった。

 見ているこっちが悲しくなる儀式だ。

 もともと女性奴隷に対して人権などと言うのもおこがましいが、それでもこの儀式はついていけない。

 美女の秘所を触るのならこんな悲しい場面はごめんだ。

 女生とは、特にこんな美人とはもっとあるだろう。

 もっと楽しく、もっとムフフとしたい。

 エニス王子の受け入れの儀式は終わったようだ。

 20人いた全裸の女性に王子の処の大喬さんが一人ずつ羽織るものを渡していた。

 いつまでの全裸でいてよい場所じゃない。

 同じ女性なら特に感じることだろう。

 全員をひと目の付かない場所に移して、王子の儀式は終わった。


 しかし、これで解散というわけじゃない。

 あの20人の内半分が俺のところに回って来るものとばかり思っていたのだが、先ほどの場所に新たな女性が10人入って来た。

 これも全員が全員美人、いやまだ美少女と言い換えても良い人もいるが、スレイマン王国の法律では18歳未満はいないはずなので、全員がそれ以上だ。

 しかし見た目がかわいらしい女性も幾人かいたのを確認している。

 残念なことに、彼女たち全員も表情が暗く固い。

 その表情の中に何か一本筋の通ったようなものも感じる。

 俺はアリアさんに手を引かれながら無理やり彼女たちの前に連れ出された。

 すると、先ほどと同じように、彼女たちは一人ずつ服を脱いでいく。

 彼女たちも先ほどと同様の扱いを受けていた跡がしっかり残っている。

 見ている俺の方がつらくなってきているのだが、全裸になった彼女たちは順番に俺に決意を伝え、俺の手を彼女自身の秘所に持っていく。

 しかし、俺には王子の様に平然とできない。

 こんな女性にしゅう恥を強いる行為は、俺にはハードルが高すぎるのだが、彼女たちは許してはくれない。

 彼女たちにとって、新天地で新たな主人に最大限の忠誠を誓う儀式なのだ。

 無理やり俺の右手を自身の秘所の中に入れさせ、俺に自身の言葉で誓いを唱えてくる。

 それを聞いた俺は、英語なので半分も理解できたかわからないが、彼女たちの本音に触れたような気がして、気づかないうちに涙を流していた。


「こんなに傷つくまで、今までよく頑張った。

 でも。これからは、二度とこんな思いはさせない。

 ここで誓うよ」


 俺は泣きながら日本語でこんなことを言っていたようだ。

 それも一人ずつ全員に対して。

 俺から発した言葉をかおりさんがみんなに英語で伝えたら、今度は皆でその場で泣き出した。

 収拾が付かないうちに俺の彼女たちに対する受け入れの儀式は終わった。

 アリアさんが皆を奥に下げさせ、俺に時間をくれた。

 しばらくここで落ち着くまで一人にしてもらった。


 そこで俺は一つの決意をした。

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