第73話  新たな仲間たちをどうしよう


 部屋に入るとすぐにアリアさんから声がかかった。


「直人様にスレイマン王国の奴隷について、説明しなければならないことがあります」


 何やら表情が辛いアリアさんがこう切り出してきた。


「今まで俺が聞いていなかったことだよね。

 大切なことかな」


「はい、非常に大切なことですが説明しにくい事でもありました。

 王族では、それとなく分かっていくものですが、王族にお生まれでない直人様はご存じないのも致し方ないです」


 そこまで英語で言うと、かおりさんが引き継ぎ、今度は日本語で説明してくれた。

 細かなニュアンスなどを正確に使えたいと云う配慮からだろう。

 ちょっと長くなってしまったが要約すると、彼女たち奴隷の扱いは非常に丁寧なもので、今回のように酷い扱いを受けることは非常に少なく、もし発見されれば所有者は罰を受け、奴隷は王室に戻されるというのだ。

 しかし、戻された奴隷の扱いが非常にデリケートな問題を孕んでいるという。

 まずは、敵対勢力からの奴隷もいるということだ。

 この場合、自分たちの秘密を扱わせることが躊躇われるもので、前からいる奴隷たちと、新たな奴隷たちとの間で深刻な溝ができることが多い。

 今回のケースに丸々当てはまる。

 しかし、今回はそれ以上に問題を孕んでいるというのだ。

 スレイマン王国の奴隷たちは幼少より英才教育されており、例外なく優秀な者たちばかりのはずなのだが、これはあくまでも能力という面でだけだ。

 普通、奴隷を扱っているところでは、先輩奴隷の実地による訓練も課せられ、1年もすればかなりの仕事ができるまでになる。

 我々も、能力の底上げを目的に、順番に世界中の投資関係部署の見分に回しているのだ。

 しかし、今回我々と合流した女性たちの扱いはかなり酷いものだったようで、新人として第三王子のところに行ってから、仕事らしい仕事をさせてもらえていないとか。

 彼女たちの唯一の仕事として、性奴隷だけだったとか。

 もったいない話だが、潜在能力がいくら高くとも訓練されていなければそのまま使えるものじゃない。

 新人として扱おうにも、彼女たちにもプライドはある。

 後輩と一緒に扱われることに面白い筈はなく、こういった場合にどこでも非常に神経を使っているのが実情だ。

 ほとんどの場合、屋敷のメイドくらいにしか使っていない。

 いや使えないといった状況だそうだ。

 しかるに我々だが、屋敷にメイドは必要としていない。

 それも全体の1/3もの人数もいらない。

 しかし、王宮でも今回引き取った人数を持て余し困っているので、エニス王子のところに回ってきたそうだ。

 俺はそのとばっちりを受けたようなものだ。

 そこで彼女たちをどうするかというのを話し合いたいという話だ。

 確かに他には漏れてよい話じゃない。

 何より外聞が悪すぎる。

 何より奴隷制度はどこでも忌避されている。

 実情は日本のサラリーマンよりもある意味待遇が良い。

 性的なことを除いてだが、それすらほとんどの場合妾と言っても良い感情をもって仕えているので、果たして本当の意味で奴隷かどうか……

 最初の出会いだけ彼女に選択権がないだけで、どこでも大切に扱ってもらっているのだ。

 なにせ彼女たちの協力なくして、ほとんどの王族の財政が成り立たない。

 しかも30歳で奴隷から解放される時には、数億円の退職金を貰っての自由の身だ。

 逸れた話を戻すが、度々発生する奴隷たちの移籍問題については、どこも困っているのが実情だ。

 奴隷たちの移籍については、ある意味プロスポーツ選手の金銭トレードに近いものがある。

 自分たちの戦力の補強で新たに購入という形で奴隷を増やすことがほとんどだ。

 今回の我々のケースでも、補強という側面は確かにある。

 あるのだが、実績のある実力者を購入した訳じゃない。

 元々が奴隷の売買は王族のみに権利があり、しかも国王立ち合いでしか成立できないので、人身売買とはイメージが完全に異なるが、確かに奴隷の売買はある。

 今回の一人につき10億円という費用を要しての購入となった。

 この費用が高いかどうかについては色々とお考えを持つ人もいるだろうが、ことスレイマン王国においては最低の価格とだけ言っておこう。

 なにせ、彼女たちは新人の時から何ら仕事らしい仕事をさせてもらっていない。

 そんなんで第三王子の処の財政が賄えるかという心配もあるだろうが、第三王子の処は完全に大明共和国に取り込まれており、大明共和国から派遣される人たちによって運営がなされていたそうだ。

 王宮がこの件を把握した時に、国王をはじめ政府のお歴々が一斉に頭を抱えていたとか。

 今では、彼の処のスタッフを全員入れ替え、国王の配下が付いて、第三王子を王宮から離れたところでひっそりと生活させているそうだ。

 軟禁に近いようなものらしい。

 今後は静かに生きていけるそうだが、完全に終わったな。

 彼は政治的には、この措置で死んだも同然だ。

 とにかく第三王子をはじめ、スレイマン王国に繋がる人たちが誰一人として、第三王子の処の運営に関わっていなかったことが、問題を大きくしていた。

 問題が明らかになった今では、その件に関わった人たち全員が国外退去処分となり、大明共和国の大使館の職員すら総入れ替えとなってしまった。


 またまたそれた話を戻して、そういったケースで今回我々に合流してきた女性たち10名の扱いがここでも非常に問題になっている。

 今いる仲間たちと一緒に仕事のできるスキルが全くない。

 かといって新人と同じような扱い、いや、今いる新人よりも初歩的な事からの扱いは彼女たちにも先輩としてのプライドもあるので、できるだけ避けたい。

 アリアさんにも、これといった妙案がない。

 まずは傷ついた女性たちのケアからして、時間を稼ぐしかないといったところだ。

 で、その辺りについての相談をしたく、俺にスレイマン王国の奴隷についての闇の部分についての説明があった。


「アリアさんやかおりさんからの説明では、今までのメンバーと一緒に扱うわけには行かないというわけだよね。

 裏切りやスパイの心配とか」


「いえ、間諜の心配はありえません。

 彼女たちの扱いについては完全に把握されております。

 その上で第三王子に忠誠を誓うことなど考えられません。

 同様の理由からも裏切りも今のところ考えられません」


「今のところ?」


「うちでも同じ扱いをすればその限りではないということです。

 今の直人様の扱いでは、神の如く崇められることはあるにせよ、裏切られることはまず考えられませんね」


「神の如くは勘弁してほしいけど、どうしたものかね。

 とりあえず分けることについては了解したけど、そうなると扱いが微妙だね。

 今いる人たちとの兼ね合いが問題になるよね」


「そうなんですよ。

 どこでも、こういった場合発生しうる問題ですね。

 奴隷の売買のほとんどが、奴隷の持つ能力や人脈を期待してのものですので、そういった場合、生え抜き組との問題は少ないですが、それでも無くはありません。

 しかし、今回のケースは本当に稀ではありますが問題は有りありになってしまいます」


「少なからずあったんだ。

 そういった場合にどのように対処をしているか知っているの」


「はい、ほとんどが屋敷のメイドとして使うだけですね。

 専門的なことは任せきれませんので、ある意味やむを得ません」


「屋敷のメイド、うちには要らない職種だよね」


「はい、うちでは要りません。

 しかも、そういった使い方をすれば、まず間違えなく仕事に対するモチベーションは非常に低いと言わざるを得ません。

 王宮やかつての王弟殿下のようなお屋敷なら、それでも仕事が回りますが、うちのような少数ではかえって全体の士気を下げかねませんので、その手は使えません。

 ですので、非常に困った状況なのです。

 最悪、別に屋敷を用意して飼い殺しも考えなければ……」


「さすがにそれは無いよ。

 俺も良く考えるから、いざとなったら日本で仕事を探すかな。

 それこそモデルなんかの仕事ならすぐにでもできるくらい皆綺麗でしょ」 と、俺がここまで言いかけて急にある閃きがあった。

 これを神の啓示と言わずしてなんという。

 すみません、大げさでした。

 しかし、この閃きは使えそうだ。


「ちょっと待って。

 今、閃いたことがあったんだ。

 そうだよ、試してみてもいいよね」


「直人様、何かお考えが」


「まずは皆のケアが最優先なのは変わりがないけど、みんな一様に能力はあるよね。

 希望を聞いてから試してみたいけど、今回集まったみんなには免許を取ってもらう」


「免許ですか。

 今全員に課している奴じゃないですかね」


「それもあるけど、今うちで非常に足りない分野の一つがパイロットだよね。

 裏切りの心配がなければそれこそ持って来いじゃないですか。

 直ぐにどうこうなる訳じゃないですが、希望を聞いて、できれば全員にパイロットの資格を取ってもらう。

 それ以外に、ヘリの操縦資格に船の操船資格などを取ってもらいたい」


「確かにその分野には、人はいませんね。

 しかしパイロットですか…」


「うん。

 今の自家用機の運航状況はかなりきついよね。

 できればもう一機欲しいくらいだけども、機体はともかく人の手配が付かないのが現状だ。

 それも、そろそろボルネオ空軍にお借りしているパイロットもお返ししないといけないこともあるしね」


「パイロットというのは分かります。

 ヘリというのはヘリコプターですよね。

 これも自家用であれば、使い道は色々と考えられるのでわかりますが、船の操縦資格というのが良くわかりません」


「そろそろ、うちでもこの船よりもはるかに小さくても良いけどクルーザーが欲しいかなと思っているんだ。

 せっかく城南島に拠点ができることだし、そこを拠点にクルーザーがあってもいいかなと。

 船はいくらでも入手する手段があるのに、ここでも人がネックになるかな。

 その意味でも、できれば10人全員が交代しながら使えるようにみんな資格を取ってもらいたいかな」


「彼女たちの資質や希望については追々調べるとして、ここボルネオにお願いして資格を取らせますか」


「その手も無くはないけど、せっかく日本のお役人もいることだし、日本にお願いできないか聞いてみよう。

 最悪スレイマン王国でも良いんだよね。

 尤もスレイマン王国ではほかの王族からの横やりが怖いのでボルネオに頼むか、それこそ俺と同じように民間に委託する手もあるしね。

 費用は掛かるけど、費用をこっちで持つことで日本に聞いてみよう」


「分かりました。

 彼女たちの受け入れの方針として、今ある投資事業以外に新たな事業、いや仕事を作ってそこで受け入れるというのを掲げて動きます。

 まずは彼女たちのケアを全力をもって当たります」


「お願いしますね」


 それからアリアさんたちは部屋から出て行き、色々と動き回ったようだ。

 夕方6時過ぎに吉井会長が秘書を伴ってボルネオに入国したと連絡が入った。

 あと15分もすれば船にヘリで到着するとかで、俺も船のヘリポートに出迎えに向かった。

 なにせ、俺が招待したようなものだ。

 夕食には間に合って良かった。

 良かった???

 あれ、吉井会長たちの分の夕食って大丈夫だったかな。

 急に心配になって確認をしようかと思っていたら、直ぐ傍までヘリが見えてきている。

 最悪俺の分を回せばいいか。

 あ、秘書の分が足りない。

 どうしよう。


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