第64話 俺の日常
やっとまともな大学生活を送れるようになった。
一般人からすればまともかどうかは疑問が残るが、少なくとも月曜日から木曜日まではごく普通の大学生とあまり変わらない生活をしている。
朝起きてから歩いて大学に通い、そのまま授業に出て、帰る生活だ。
週に一度、毎週月曜日にはサークルに参加するためにあの元教授の部屋に行くが、あの新歓コンパ以来、飲みに行くことはなかった。
また、あの時に会った名誉教授ともあまり会うことはない。
ただサークル室に行って先輩や同学年の仲間とおしゃべりをして時間を過ごす。
あの俺が感動すら覚えたような研究や分析は、今のところ全く行っていない。
いつもこの教室で会うことのできる副代表の澄川先輩に、それとなく聞いてみたら、興味の出るテーマが無いときにはいつもこんな感じと教えてくれた。
少なくとも興味の出るテーマって、俺がらみでなければ良いのだが、最近俺の周りで起こることが大事件につながることが多く、いやな感じを覚えた。
今、アリアさんたちが夢中になってやっている例の開発に興味を覚えられそうで、少々怖い。
あれって、榊原さんにも影響が及ぶし、どんなものかな。
彼女のお姉さんなんかもろに当事者だしな。
そんな心配はあるが、おおむね順調に大学生活を楽しんでいる。
まあ絶対に普通じゃない夜の生活の方も順調だ。
少なくとも今日本にいる彼女たち全員とは無事に儀式を終え、毎夜には順番で複数プレイをしながら朝を迎えている。
それ以外で、他の大学生と隔絶するくらい違うのは、週末の過ごし方だろうか。
これだけは、他の人には知られたくはない。
毎週木曜日に授業が終わると、その足で成田に向かう。
成田で、今は主に葵が待っているのだが、葵と一緒にグアムに向かう。
グアムで一泊して、金曜日一日かけて飛行機ライセンスの取得のための学校で過ごす。
座学にシミュレーターを使っての訓練、実機での訓練などだ。
最初に、アリアさんがしっかり手配してくれたおかげで、専属の教師が毎回変わらずに訓練を付けてくれる。
どこでどうすれば、こうなるのかは疑問の残るところなのだが、なんと専属教師は日本人だ。
それだけなら、かおりさんやアリアさんの心配りと笑って流すが、彼女は、そう、専属の教師は女性、それもかなりの美人だ。
名前が大村聡子さん。
年齢は不詳。
どう見ても20代にしか見えないのだが、時々ここ飛行場にやってくる娘さんが、なんと高校生だというのだ。
それも旦那さんの連れ子ではない。
彼女も美人で目元が俺の専属教官にそっくりだ。
誰がどう見ても姉妹にしか見えないが、娘と紹介された。
姉妹でなく本当の娘だとしたら20代はありえない。
最低でも30代後半、そうなると本当に若く綺麗だ。
感じの良い明るい人柄で、できれば我々のところに引き抜きたいが、その彼女の外見から、俺はどうしても躊躇している。
誰がどう見ても、俺が自身のハーレム要員の追加を希望しているようにしか見えない。
それくらい魅力的な女性だ。
少なくとも、俺は年頃の男性くらいの性欲を持っている。
それをきちんと自覚しているので、あまりいやらしい目で見ないように毎週教官についてライセンス取得に当たっているのをひそかな楽しみにしている。
あれだけ女性を侍らせておいて、とご批判が出ることは重々承知しているのだが、世の男性、少なくとも日本人であれば、誰だって俺と同じ感想を抱くことを俺が保証できるくらい、聡子さんは魅力的だ。
あえて比べるのなら、かおりさんと双璧を成す位と言えるだろう。
かおりさんとはいつでも、その、できるので、そういう意味では余計に魅力的に見えるのかもしれない。
グアムの飛行学校で金曜日一日を過ごし、金曜日の夕方には自家用機でボルネオに行く。
土日かけてボルネオでエニス王子や皇太子などと会談をしたり、たまった仕事を片付けたりしながら、ボルネオに残している人たちとのコミュニケーションを取っていくのが俺の日常となっている。
コミュニケーション?
やはりそこに気が付きましたか、当然肉体的なコミュニケーションも含みますよ。
いや、それだけと言ってもいいかもしれない。
現状、交代で、世界中にチームを交代で派遣しているので、日本との交代が以前と違い、ひと月ごとにまで広がっているのだ。
俺が毎週こっちに来なければ、最悪2月以上会わないチームが出てしまう。
どうしてかはわからないが、俺はみんなから好かれているようで、肌を合わしての会話が無いと寂しがるのだ。
俺のとっては異論などあろうはずも無く、喜んで会話をしているのだ。
どうしても日本に活動拠点が移った関係上、日本にいるメンバーとするのが多くなる。
本拠地のあるボルネオにも、いやボルネオの方が多数のメンバーがいるので、毎週のようにボルネオに通う今の生活は必然とも言えるのだろう。
5月の連休の後から一月ばかりこのような生活をしている。
最近少し変わった事が起こる。
俺がグアムからボルネオに入ると、現地でかおりさんに会うことが多くなった。
かおりさんが日本から来ていることが多い。
最近のかおりさんは何故だかかなり忙しく、俺の秘書代わりについてくれるのは、かおりさんからチーム内の日本人に担当が代わっている。
日本人、もしくは日本人に近いアジア人でないと、俺が悪目立ちするので、その配慮かと思われるが、ボルネオとメンバー交代していない現状では葵さんが勤めてくれている。
かおりさんだけでなくイレーヌさんまでいることも多々ある。
さらに驚いたのが、今日、飛行場で俺を出迎えてくれたメンバーに榊さんまでもがいた。
さすがにこれには驚いて、俺は飛行場から宮殿に向かう車の中で経緯を聞いた。
今回の榊さんの訪問は、ほとんど仕事のようなものだそうだ。
正式に出張で来ると、俺たちが使う自家用機での利用が会社で認められないので、週末金曜日に有給を使って、かおりさんと一緒にここに来たとのことだ。
早速拠点である皇太子府で、関係者を集めてミーティングが持たれた。
参加者には、殿下に彼の腹心と思しき人が数人、多分殿下付き侍従長だろう、こちら側からはエニス王子と、彼の奴隷たち数人、最もここには沢山のエニス王子の奴隷たちがいるが、それら女性たちをまとめる立場にいる人たち数人、俺たちからは、主力の三人、アリア、イレーヌ、それにかおりさんの三人に、榊さんまでもがいた。
全員を集めているということは、いよいよ日本での投資案件の始動だろう。
計画の骨子が榊さんから説明された。
すでに計画についてはボルネオ側にもエニス王子側にも根回しは済んでいるようだ。
だが、俺には難しいことはわからないが、そんな俺が分らないなりに疑問で仕方のないことがある。
何でここにボルネオの殿下が混じるのかということだ。
エニス王子についても同様で、あの時、そう宴会かと思われる飲み会での時に聞いた限りでは、うちらだけでも問題ない投資案件に聞こえた。
一か所に投資先を集中する危険を避ける意味で、広く投資家を求めているようにも思えなくはない。
配られた英語表記のレジュメを見てもよくわからない。
俺は会議の邪魔にならないように注意しながら隣にいるかおりさんに説明を求めた。
彼女は笑って、「どこでも同じ悩みを抱えております。
うちだけがおいしい思いをする訳にはいきませんので」 と教えてくれた。
なんだ、要は、ここに集まったメンバーは例のボルネオショックで大儲けをした人たちなのだ。
うちと同様に、大金を稼いだはいいが、次の投資先が見つからない。
そのままほって置く訳にもいかない。
特に殿下については、国庫金扱いのものも多く、損を出せないが、そのままという訳にもいかない。
公にされてしまうわけだから、そうそう怪しいところにも投資はできない。
そんな訳で、日本国がらみで、割と優良な投資先と思われる今回の案件にかかわりたいのだそうだ。
当然エニス王子についても同様だ。
ここで問題なのが、殿下もエニス王子も日本国から見たら外資だということだ。
例の案件は計画がとん挫するまで純国産案件で、かなり閉鎖的に行われていたらしい。
隠れてコロンビアからの資金も入ってくる仕組みにはなっていたようだが、それでも見た目は純国産案件で、旧財閥が取り仕切っていたものだ。
例の経済ショックで、計画から旧財閥が抜けて計画そのものが白紙になりかけている。
経産省だけが、今必死になって計画の変更を模索している段階だが、純国産だけでは難しそうだ。
何よりコロンビアにひも付けされた官僚が全員が退場した段階で、計画に携わる人員にも齟齬をきたしている。
そこに乗り込むのだから、見た目だけは純国産に見えるような工夫が必要だというのだ。
俺たちだけでは、俺が日本人であることから、何とかごまかせないこともないのだが、それだとエニス王子や殿下が計画に噛めない。
そこで、榊さんの出番だ。
海賊興産も使って、先の計画同様に見た目の体裁を整える必要があり、その相談がこの集まりのようだ。
この話はアリアさんを通してすでに首相官邸には話がついているが、向こうからの要望も純国産にはこだわらないが、国産かなと言えるくらいの工夫を希望された。
なんだか相当に難しそうだが、少なくともこれだけはわかる。
これからまた忙しくなりそうだということだけは。
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