第65話 高貴なる責任

 

 週末行われた会議は、実は同じメンバーでかなり頻繁に行われていたようだ。

 尤も会議を週末に行うのは初めてで、だいたいがTV会議を使っての話し合いだったそうだ。

 今回の会議は、顔合わせの意味合いが大きい。

 こちらの希望通り、海賊興産が我々の計画に加わってくれるらしい。

 そのため、海賊興産の参加に対して、窓口となることがほぼ決まっている榊さんの紹介のような会議だった。

 俺も、アリアさんたち全員はすでに顔合わせどころか体合わせの事までしているので、今更感があるが、エニス王子やボルネオの皇太子殿下たちとは初顔合わせだ。

 そんな彼女の信頼に足る人物かどうかについての判断だが、彼女の俺に対する態度でわかるというのだ。

 なにせ俺の奴隷たちと同様に俺の相手をしている人だ。

 どうしても態度に出るらしい。

 俺に対する態度を見て、その場にいた全員が彼女を信用することにしたと、後になって聞いた。

 それでいいのか……と俺は思ったが、こういった国際資本取引において、ずぶの素人が口をはさめないが、何かが違うことだけはどうしても俺の心から離れない。

 流石に、ついこの間まで高校生だった俺に、国際金融市場のことなんか分かりっこないのだが、本当にここにいる人たちは凄いの一言だ。

 俺と大して年は変わらないのにもかかわらず、世界を相手に喧嘩を仕掛けるのだから。

 そのために幼いころからしっかり教育されているのだろうが、こういうのを何て言ったか、そうだ、確かオブ何とかとか言ったかな、高貴なる責任というやつか。

 要は、良い思いさせてやるからしっかり俺らを守れというやつだ。

 王族に類する人達は例外なく、この責任を有する。

 しかし、持っていても、その責任を果たすかどうかは別だ。

 本人の能力にもよるだろうが、何より、運もあるだろう。

 望むと望まざるとにかかわらず、全員がこの波に呑み込まれていく。

 世界を相手に自分の命をチップとしてかけてだ。

 先の経済ショックで、スレイマンの第三王子は脱落するだろう。

 王族としての地位は保てるが、それだけだ。

 命があるだけましと思えばいいだろうが、エニス王子なんかいつ命を取られても不思議のない環境で生きてきたのだから、生きていける、しかも俺が考える一般人よりはるかに良い暮らしをしながら生きていけるのだから贅沢とすら思えてくるが、まあ本人はそうは思えず、苦しみながら生きていくだろう。

 そのオブ何とかというやつ、いい思いをさせてもらえるというやつは、俺もさせてもらっている。

 現に今、帰りの飛行機の中で、およそ一般的日本人の男性なら考えられないくらい気持ちの良い思いをさせてもらっている。

 先の理屈からも、俺にも高貴なる責任が出てきてしまう。

 良くは分からないなりに、この先も世界を相手にエニス王子のために頑張らないといけない。

 先の会議の後、流石に俺も心配になり、詳しくそれも優しく説明を求めた。

 アリアさんやイレーヌさん、それにかおりさんはそれどころじゃないくらいに忙しくしているので、年下になるがボルネオに残っているリスさんチームの由美さんに聞いた。

 彼女は18歳の新人の扱いになるが、俺ではかなわないくらいにしっかり教育がされている。

 それでもかおりさん達から見たら物足りなく思われるので、今交代で世界に修行に出されているのだ。

 彼女を含むリスさんチームが、次に日本に来る最後の組となる予定であるが、それでも、アリアさんたちがこれからやろうとしていることはしっかり理解している。

 俺にもわかるように、それこそ10歳でもわかるシリーズのような簡単な表現を使って説明してくれた。

 俺が理解するのにこの後の二日を要したが、その甲斐あってどうにか理解した。

 要は、海賊興産に名前を借りて一緒に投資をしていくことになる。

 海賊興産と、我々の日本で立ち上げた投資会社(NCファンドコーポレーション)とで新たな会社を興し、その会社でこのプロジェクトを受けていく。

 開発に要する資金は、我々側のNCファンドコーポレーション(代表イレーヌさん)が、何て言ったか、私募債、リート何だったか色々と説明されたが、そういったやつを発行して、ボルネオにある直人マネジメントコーポレーション(代表アリアさん)に販売委託することで、世界中から資金を集める形態を取る。

 実際にはボルネオ、エニス王子、スレイマン国王からそれぞれ500億円ずつ資金を受け、運用益を出していく格好だ。

 我々も俺の資金となる直人マネジメントコーポレーションが500億円引き受け、かつ、新会社設立の要する資金、およそ100億円を出資するようだ。

 とにかくいろいろと説明されたがよくわかっていないので恥ずかしいが、この100億円もほとんどが貸し出しで、日本で設立する新会社の資本金になるという話だ。

 新会社の資本についても説明を受けたが、要は海賊興産に運用全てを任す話のようだ。

 我々は資本家であって、企業家でないと説明を受けた。

 なんでも海賊興産本社が50億円、その子会社である不動産会社が20億円、我々のNCファンドコーポレーションが30億円の出資だとか。

 この先色々と忙しくなるとも説明を受けた。

 気が重くなるが、これも今受けている気持ちのいい思いの代償かと、あきらめる。

 俺のものを下の口でしっかり咥えて体を上下している榊さんをサポートしているかおりさんからも慰められながら色々と説明を受けている。

 ことに及びながら仕事の説明を受けても頭に入らないと思うのだが、この人たちにはわからないらしい。

 なにせことに及びながらも色々と考えているのだから。

 つくづく本当にすごい人たちだと思う。

 あ、そういえば今回エニス王子から気になることを聞いたのを思い出した。

「今回の件(ボルネオショックに関する件)で、直人に恩賞が出るらしい。

 国王自ら、何かお考えのようだが、一つだけ頼まれたことがある。

 第三王子の没落で、彼の財産である女性たちの件で、一部を引き受けてほしいとの依頼がある。

 こちらからの買い取りになるので、資金を用意しておいてほしい」 と言われた。

 資金については問題ないとは思うが、これ以上増やされてもね。

 なんでも一人10億円くらいになるとか。

 彼女たちの能力や容姿によって若干価格が異なるそうだが、基本は優れた人たちばかりなのだが、その後の成長によって変わるらしい。

 しかし第三王子の女性たちの評価は低い。

 どう見積もっても最低金額にしかならないそうだ。

 なにせ第三王子は、彼女たちを本当に性奴隷くらいにしか使っていなかったとか。

 とにかく経験が全くないので、彼女たちの持つポテンシャルしか評価されない。

 器量や能力だが、問題の能力に経験がないので、この評価もやむを得ないとか。

 もったいない話で、第三王子の資金管理については、ほとんどが大明共和国からのスタッフ任せだったとか。

 彼らも全員が引き上げているので、王子には資金管理ができない状態だそうだ。

 さすがに国王も困り、彼の女性たち全員を取り上げ、ベテラン2~3人を回すという話も聞いた。

 完全に王位継承は無理の状態になるのだが、先の話じゃないが俺からすればそれでも贅沢のような話だ。

 せっかくうまく回っているところをいじりたくはないからね。

 この話にはアリアさんも何かお考えの様で、困ったような、それでいて今の人で不足を補えるのならばいいかなという感じだった。

 イレーヌさんが水を差すまでは。

 元の出来が良くても、経験が足りない。

 第三王子の下では、それこそ『あれ』しかしていないとまで言われていたくらいだ。

 何も重要なことはやらせてもらっていなかったというのだから、心配するのもうなずける。

 かおりさんもイレーヌさんも、できるのならとにかく若い人を、第三王子に染まっていない人をとエニス王子に要求だけ出していた。

 どうなることか、どちらにしても夏以降の話だそうだ。

 そろそろ羽田に着くころだ。

 俺は部屋で体を拭いてもらい、着替えてから操縦席に向かった。


 いつものように着陸の見学をさせてもらうためだ。

 この時間は、パイロットたちに仕事の状況を聞ける重要な時間でもある。

 着陸寸前の忙しい時間を除くと、無駄話もできるから、色々と聞いておく。

 やはり、今のスケジュールでは色々ときつくなってきているとか。

 今後のことを考えると、やはりこのあたりの強化は必須だ。

 俺は、こういった人事面で頑張ってみようかな。

 今の俺では、正直、先のショックでの対応はもちろんだが、これから考えている開発計画についてもついていくのがやっと、いや、ついていくふりをするのがと言い直した方がいいか、どちらにしても戦力外なのは分かり切っている。

 しかし、気持ちのいい思いをした代償である高貴なる責任は果たさないといけない。

 やはり事故が起こる前に、パイロット強化について俺なりに動いていくことにする。

 一度グアムの学校に相談するかな。

 でもあそこはコロンビア合衆国内だし、エージェントの入る危険があるしな。

 殺されはしないだろうが、エージェントの侵入だけは避けたいかな。

 どうするか、悩みは尽きないな。

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