第60話 GWも終わる

 

 ボルネオに帰ってからは、また以前のような生活が始まった。

 3月末に日本に行ってからまだひと月くらいしかたたないのだが、すでにかなりの時間を感じていたためか懐かしくすらあった。

 俺は、ここでの生活において、いや、日本でもそうだが、これと言って決まった仕事はない。

 今年に入って、大明共和国関係で日本にいる里中さんをはじめ外務省関係者や、石油鉱区契約の関係での海賊興産関係者たちと忙しく交渉事をしていたように思うが、それら案件が落ち着いてしまえば、俺は本当に暇になる。

 もっともその空いた時間を使って飛行機ライセンスの取得に努めている。

 なにせ我らが便利に使っているというより、すでになくてはならない存在にまでなっている自家用のパイロット問題が依然解決されていない。

 俺が自身で操縦する必要は全くないのだが、いやむしろ俺が操縦することがかえって問題を起こす結果になりそうなのだが、それでも何もしないのは俺の気が済まない。

 唯そんな理由だけで、現在進行形で頑張っている。

 それ以外することが無いので、ここでも飛行時間を稼ぐために空軍基地まで出向き自家用機の操縦をしている。

 今回は例のボルネオショックの対応を終えたアリアさんが俺に同行して自家用機に乗っている。


「アリアさん。

 今までご苦労様でした」


「いえいえ、ボルネオショックのような無茶苦茶な忙しさは終わりましたが、本来の目的であるエニス王子の安全確保のための力の確保については、まだ始まってすらいません。

 第三王子は大明共和国の影響を受けた格好で自滅していきましたが、より狡猾なコロンビア合衆国やペトロ共和国の支援を受けている二人の王子が依然健在です。

 彼らが何もできないくらいの力をつけませんと、エニス王子の安全が確保できませんし、何より直人様のお命が危ないです」


「そうだね、それは最初から変わっていそうにないよね。

 だから今朝言っていた投資案件を探さないといけないんだよね」


「はい、そうなんです。

 でも、それらのこまごました仕事は私たちが行います。

 直人様には、意思決定だけをしていただければいいように頑張ります」


「そのためにも早急に対策を練らないといけないのがマンパワーの不足だよね」


「その件も、エニス王子とも相談しておりまして、秋口ころまでには増員できないかとスレイマン本国の陛下に依頼を出しているところです。

 エニス王子のところも我々と同様に急激に増えた資本の扱いで余裕のあったはずのマンパワーの不足問題を露呈してきておりますので」


「増員だって、俺の方での奴隷の増員はちょっとね。

 これ以上の女性の対応は俺には荷が重い。

 あ、そうだ。

 俺には奴隷の増員はできないよね。

 確か、奴隷の購入は王族に限った話だったよね」


「はい、そうです。

 ですので、王子の増やした女性たちに協力を求めるように、合同で何かやれないかも模索しております」


「それを聞いて安心したよ。

 俺はまだ全員と、その、関係を持っていないしね。

 それよりも、先ほどから問題にしているマンパワーの不足案件だけども、気づいているかな。

 パイロットの件」


「パイロット?

 自家用機のですか」


「そうだよ。

 今はボルネオ空軍の善意で二人をお借りしているけど、いつまでもとはいかないよね。

 それに、今の使用頻度では二人だけでは足りないと思うんだよね。

 これからも、ひっきりなしに使われていくことだし。

 自前でパイロットも探さないといけないと思うんだよ。

 アリアさんには心当たりあるかな」


「私たちの命を預けるパイロットですから、信用がとにかく大事ですね。

 そうなると……かなり難しいかと。

 分りました、この件もイレーヌやかおりと相談してみます」


「ありがとう。

 せっかく空のデートだって言うのに仕事になってしまったね。

 今からは空の散歩を純粋に楽しもうね」


「うれしいです。

 でも直人様、そろそろお時間も迫っているかも」


「あ、本当にごめん。

 もう基地に戻らないといけないね。

 この続きは、また明日にでも」


 訓練中の自家用機の中で、アリアさんと我々の問題点などの話をしながらボルネオの空の散歩を楽しんだ。


 日本への帰国まであと2日しかない。

 そんなにゆっくりとアリアさんと二人で話せる機会も少なくなってきている。

 確かにあの時にはそう感じていたが、時間はあっという間に過ぎていき、今は日本に向かう自家用機の個室の中でかおりさんとアリアさんの二人を相手に頑張っている。

 今回はチームの交代はしないので、機内には俺も含め3人しかいない。(パイロットは除いてだが)

 日本までの5時間二人を相手にまったりとした時間を過ごしながら楽しんでいる。

 俺も成長したのだ。

 がつがつしたようなことをせずに体力を計算しながら愛撫中心に二人には気持ちよくなってもらえるように俺の方から奉仕しているのだ。

 二人も満足したのか、そろそろ日本に着くころになって、着衣を整えながらおしゃべりを始めた。


「今回の交代はないけど、どうしてなの」


 俺が、珍しく交代要員のいない機内を見ながらアリアさんに聞いてみた。


「先日お話しました新人たちのスキルアップを兼ねて、世界の金融都市に視察にウサギチームを出しましたから。

 ひと月は帰れませんので、当分はひと月交代になりますね」


 そう言えば俺に許可を求めてきた案件があった。

 新人たちのスキル向上と、投資案件の調査のために交代で世界中の金融都市の視察に向かってもらっているのだ。

 チーム単位で視察に行ってもらうので、新人たちにとっては良い経験になると聞いた。

 それに、各金融都市にはすでに王弟殿下当時からの人脈もあり、知り合いが多くいるので、心配もないとまで聞いている。

 最初にボルネオにいるウサギチームがボルネオからシンガポールに向かい、そこからドバイ、フランクフルト、ロンドン、ニューヨーク、東京は通過して上海を回って帰ってくる予定で、明日出発すると聞いた。


「そういうことだったね。

 忘れていたよ。

 これって全員が順番で」


「そのつもりですが、問題でもありますか」


「いや、平等に扱われるのなら心配ないね。

 扱いで不平等が出るとチームのまとまりが心配で」


「そのあたりは常に気を付けておりますから、直人様のご懸念には及ばないかと」


 そんな話をしながら夕方の羽田に着いた。

 今回は3人なのでタクシーでも拾えばいいかと思いながら、いつもの待合室に入っていった。

 正直忘れていたよ。

 GWにはとにかくいろいろあり過ぎて、GW前のことなぞ。

 梓が出迎えに来ると言っていたことを

 待合室にはイレーヌさんに連れられて梓が待っていた。


「直人、お帰り」


「梓、迎えに来てくれたのか。

 うれしいよ、ただいま。

 藤村さんも、毎回すみません。

 まだ休み中ですよね。

 今日は休日出勤ですか」


「はい、私のような部署にいますと、世間で言われるお役所仕事のようなことにはいきませんで、休みは本当に上手に取る努力をしませんと休めません。

 なにせ上司である里中はそういった面は、あえてかもしれませんが下手なもので」


「そういえばそうでしたね。

 今年の正月も仕事をしていたようで。

 もっとも私たちはそれに助けられましたが」


 俺が外務省の明日香さんと話し込んでしまったので、梓は少々機嫌が悪くなりかけたが、俺もそのあたりは成長したのだ。

 土産話を梓に話しながらグアムの土産を手渡した。


「なんでグアム土産なの」

 さすがにそのあたりに食いついてきた。


「まずは、ボルネオには土産を見つけられなかった。

 それと、今回はジェット機ライセンス取得のためにグアムにも行った為だ」


 その後は、グアムの飛行学校のことを説明しながら羽根木に戻っていった。

 夕食時間前には帰れたので、一緒に夕食でもと誘ったのだが、寮での食事があるからと言って、梓はすぐに寮に帰ることになった。

 なので、帰るルートを少し変更して車を梓の寮に向かわせ、寮前で梓と別れた。

 そのあとインペリアルヒルズに戻った俺らは、とりあえず事務所に帰ることにした。


「明日香さんは夕食どうしますか。

 ご予定がなければご一緒しませんか。

 ご馳走しますよ」


 そう言いながら事務所に入っていったら、事務所にはまだネコさんチームが残っていた。

 今からこの人数で移動もというので、便利なケイタリングを頼んでここでみんなと食事をすることにした。


 お酒があるといいだろうと、俺の部屋に移動しての食事会となったのだが、この部屋っていわゆるヤリ部屋なので部外者の明日香さんと一緒ではちょっと恥ずかしい。

 でもイレーヌさんはお構いなしにみんなを連れて部屋に入っていった。

 なんと部屋では、花村さんと榊さんが小橋さんと楽しそうにお酒を飲みながら話していた。


「あ、直人様。

 おかえりなさい」


「え?

 なんで」


「私たち、イレーヌさんに誘われて、成田から直接箱根の温泉で楽しんできました。

 先ほど帰ったばかりで、直人様がお帰りまで、ここで待たせてもらいました」


「そ、そうなの。

 それは良かった。

 楽しめたのなら何よりだ。

 藤村さんもご一緒だったの」


「私も誘われましたが、あいにく実家に帰っておりまして、ご一緒できませんでした。

 もし次回があればご一緒させてください」


「そ、そうなの。

 そうだね。

 次回があればご一緒してください。

 その時は私も行きたいですね。

 温泉なんて行ったことが無いので」


 俺の最後の一言は、その場にいた日本人には驚かれた。

 しょうがないじゃないか。

 今でこそ、移動の際にはホテルはスウィートだけれど、少し前までは奨学金が無ければ大学進学すらできない貧乏孤児なのだから。

 まあその後は酒もあることだし、この場にて宴会が始まった。

 温泉に行けなかった明日香さんも、これで少しは癒せたかな。

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