第59話 金持ちの悩み


 翌日は、本当に久しぶりとなる殿下たちとの朝食を取った。

 その席で、同席していたアリアさんから一連のボルネオショックについてのこちら側での作業の終了の報告をした。

 皇太子殿下とエニス王子からねぎらいの言葉を頂いた他はこの件での話は出なかった。

 ボルネオ側も、この件での出口戦略はほぼ終了しており、殿下の手から離れボルネオ王国の財務官僚に移っていた為に、殿下の興味も薄くなっていたのだろう。

 エニス王子側としては、ほとんど一緒に行動していた為に正確に作業の進展状況を理解しており、エニス王子の財産管理としても既にすべての撤収を終えていたのだ。

 ブレックファーストミーティングになりがちなこの朝食会でも、今日は終了の報告だけで、仕事から離れての会話を楽しんだ。


「直人、大学生活は充実しているのか」

 殿下から俺の大学生活の話が出た。


「はい、どうにか落ち着きを見せております。

 正直、このGWまでは授業にはならずに、オリエンテーション的な事ばかりが多かったのですが、GW明けからは通常の授業になっていきます」


「それで、今後はどうするのだ。

 拠点を東京に移すのか」

 殿下もエニス王子も最大の関心事を聞いてきた。

 

「所謂本社機能としての拠点でしたらこのままですね。

 私がいる場所としての拠点と言われているのなら、ここと東京の2か所となります」


「どういうことだ」


「はい、月曜日から木曜日までの4日間を東京で授業を受け、週末の金曜日から日曜日までをここで過ごします。

 私とエニス王子が、まだ離れるわけにはいかないというのがアリアさんたちの共通した認識ですが、あいにく日本が安全とは言い切れないとのことで、エニス王子を日本に連れて行く訳には行かないと言うのです。

 それに、ここと東京では飛行機で5時間あれば通える距離ですし、少なくとも来年の春まではこの生活になります。

 ですので、これからはちょくちょく来ることになります」


「それは良かった。

 私も正直エニスの拠点変更は反対することになるし、かといって今直人の云うように分かれて活動するのもどうかと思っていたのだ。

 何より、今回のように私に何かあった時に直人が傍にいるだけで心強いというものだ」


「そう言ってもらえると嬉しいですが、これからはここに私の友人知人を呼ぶことも出てきますし、また、殿下たちを東京に呼ぶこともあるかもしれません。

 それだけが気がかりなのですが」


「なに、直人の友人だと。

 ぜひ招待してくれ。

 さすがに国賓待遇は出せないがそれに準ずるくらいはするぞ」


「殿下、流石にそれだけは止めてください。

 でないと私に友人がいなくなります。

 呼ぶとしても夏になるかと思います」


「わかった、その時には東京の大使にでも相談してくれ。

 私からも言っておくから。

 それだけでなく、東京で何か困ったことがあれば遠慮なく大使館を頼ってくれ。

 その件は既に大使に話してあるから」


「ありがとうございます」


 そんな感じで朝食を終えた。

 この朝食会はいつも1時間半くらいの時間をかけているので、それ以外にも他愛もない話をしているが、時間を延ばすことだけはない。

 それぞれ立場のある人たちなので、その後はスケジュールがびっしりだ。

 唯一暇なのは俺くらいなのだが、それでも俺がここに居る意味があるといつもアリアさんから聞かされている。

 その程度の負担なので、東京との二重生活もさして負担にならないと思う。

 朝食後、俺はアリアさんに連れられて、事務所へ向かった。

 事務所には既にかおりさんが仕事をしていたが、全員一旦自分の仕事を止めて貰い、先ほど朝食の席で報告のあったボルネオショックの対応(仲間内ではハゲタカファンドと呼ばれている奴)の終了報告と、その詳細が説明された。

 およそ1時間で報告され、ここで全員をいったん解散させ、俺とかおりさん、それにアリアさんの3人で別室に入り相談を始めた。


「先ほど報告しましたが、現在の資産規模が急激に拡大したために、このまま放置はできません。

 早急に何らかの対策が必要になります」


「何らかの必要って、何が問題になるの」


「はい、とにかく現金だけで3000億円以上になっているのは非常にまずいですね。

 これらをきちんと運用させないと、唯持っているだけでは力を持ちません」


「私たちが稼いでいる目的は、直人様が他の王子やその取り巻きの貴族たちに対して圧倒的な政治力を持つためです。

 そうでなければエニス王子の安全は確保できません」

「今回、エニス王子側も充分な資金を得ましたので、これでかなりのアドバンテージを稼げたかとは思いますが、如何せんエニス王子がスレイマン王国に入れないのが痛いですね」

 「まだまだ、第一王子や第二王子の政治力は盤石です。

 彼らを押さえきれるまでには、なっておりません」


「唯一の成果として第三王子の政治力を今回の件で完全に潰したと言えるでしょう」


「では、何をしなければならないかと言う事だが、俺にはさっぱりわかりません。

 いったい何の問題があり、何をしなければいけないかを教えて欲しい」


「簡単に申しますと、現在現金で持っているお金をきちんと運用しなければいけませんが、唯一最大の問題がマンパワーの不足です」


「へ?」


「もう少し説明しますと、現在直人様の財産ですが、スレイマン王国から引き継いだ時と比べ格段に多くなってきております。

 あの時にやや多めに直人様が女性を望まれたので、今回どうにかなりましたが、それも限界に来ており、このままの体制ではきちんと運用ができません」

 

「世界中の多くの金持ちが現金を運用する際に外部に委託する方法を取られますが、これは直人様の置かれている特殊な状況が問題となり許されません。

 何より直人様の目的が豊富な財産による政治力の強化にあり、外部に委託したのでは目的から外れます。

 しかし、現行の人員ではすぐに破綻するのが目に見えております。

 将来的な展望を策定するとともに応急的な対応も求められます」


「外部から人を採用するというのは駄目なのかな」


「少なくともスレイマン王国からの採用はできません。

 基本王族はこういった財産管理をするために優秀な奴隷を使ってきております。

 今は亡き王弟殿下も多数の女性を使われて自身の財産管理をして居りましたが、今はその1/3は直人様の元におります。

 ですので、エニス王子も同様の問題を抱えているかと思われます。

 これは憶測ですが、エニス王子は近々王宮から女性を購入されるのではないかと思われます。

 また、今回の褒詞として女性を希望されるとも思われますが、直人様には購入はできません」


「これ以上奴隷は欲しいとは思わないが、人が足りなければ増やすしかないな。

 ボルネオ王国に頼めないかな。

 信頼できる人材を紹介してほしいと」


「直人様は、外部より人を招くことは別に問題は出ないかと思われますが、できるだけスレイマン王室に関係のある方を選んでほしくはあります。

 でないと政治力強化に繋がりません。

 でも背に腹は代えられませんので、殿下と相談してみます。

 将来的には良いですが、王宮の対策としても考えないといけません」


「多くはヨーロッパやコロンビア、日本の国債に投資して一時的に現金を債権に変えようかと思いますが、それだけでは問題も多々あります。

 来週にでも日本に出向いてイレーヌに相談しますが、日本国内で1000億円程度の投資案件を探す必要があるかと思います。

 日本に人材を置く以上、日本での投資にも力を入れないと仕事が回りません。

 これらについて日本で相談するときまでに書面にて計画書を作りますが、だいたいこのような感じでの対策を承認して頂けますか」


「会社運営については任せていますけど、丸投げと言う訳には行かないよね。

 書面ができたら確認するけど、その方向で構わないよ。

 まだまだ大変だろうけどよろしくお願いしますね。

 俺もできるだけこちらには顔を出すので、頼みます」


 俺の知らない世界の話ばかりで、よくわからないが、とにかく世界中にいるようなフィクサーのようにならないといけないようだ。

 とにかくせっかく一生懸命に仕事してくれる成果を活かすようにして行かないといけない。


 大学で学ぶ文学って、俺の将来の役立つのかな。

 これなら政治学ら経済学を選択しておけばよかったのかな。

 とにかく入ったサークル活動を通して少しでも身に着けていこうと、この時強く心に思った。

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