第58話 グアムからの帰国 海賊興産のOLたち
アラサーと言われる年になって数年が過ぎても私は焦ったことがなかった。
結婚……何それ、彼氏……うざいだけで邪魔な存在って感じで異性を気にすることなく仕事に邁進してきた。
今いる海賊興産は私にとって非常に居心地の良い会社だ。
社内では男性女性といった性差別は一切ない。
まさに実力だけがモノを言う世界だ。
なにせ女性である私が同期一番の出世頭となっている。
25歳という年齢で主任を任され、現在は下手な部長より大きな権限を持って仕事をさせてもらっている。
流石に30前で管理職には付けないが、今やっている仕事はそこらの課長たちに仕事を振る立場となって社運をかけた原油開発のプロジェクトに参加しているのだ。
非常にやりがいのある仕事だ。
そのためか私は自分が女性であることを忘れていることが度々ある。
当然取引先などの担当者のほとんどが男性であるために、私の容姿やスタイルをいやらしい目で見られることがあるが、その時にだけ自分が女性であることを思い出されるだけであったのだ。
不愉快な気持ちとともに。
それが、あの時から一変したのだ。
スレイマン王国の王弟殿下の急死に伴う契約者変更の確認のためにボルネオに向かったあの時から。
スレイマン王国の油田開発は本当に苦労した。
やっとの思いで仮契約をしたのに、契約先の王弟殿下の急死により、一時中断。
その跡を継いだエニス王子と交渉に入ろうかとした矢先に、再度の契約先の変更など、本当にこの契約がパーになるかと思った。
そんな藁をもすがる思いでボルネオに交渉先の確認するために行った時に出会ったのだ。
「私の王子様」と。
陳腐なそれこそ少女漫画のような表現だが、あの時には私は本当にそう感じたのだ。
藤森部長と一緒にボルネオ皇太子府にある応接で紹介されたスレイマン王国の若き英雄で貴族になったばかりの若い男性に。
どう見てもスレイマン王国のある中東の出身じゃない。
誰がどう見ても日本人、それも高校生か大学生にしか見えない。
新手の詐欺だとしてもこれはありえない組み合わせだ。
こんな詐欺のような顔合わせは、海千山千の修羅場をいくつも経験してきた藤森部長には通用しないと思ったのだが、部長は一緒にいたこれも日本人女性を確認すると安心したようだ。
彼女は本郷かおりさんといい、非常に美人だ。
私や榊も学生の頃から美人だ美人だともてはやされてきたが、彼女とは完全に別次元の美しさがある。
ひょっとしたら部長は彼女の美貌に惑わされたのかと心配したのだが、これは杞憂に終わった。
彼女はスレイマン王国の王弟殿下の秘書のようだったのだ。
この交渉に最初から彼女を主体として関わってきたとか。
おまけに彼女は未だにスレイマン王室に所属していることは外務省を通じて確認は取れている。
王室が我々に対して詐欺行為をするのでなければ交渉相手として問題はない。
部長と本郷様との話し合いはすぐに終わった。
今回の一連の経緯が確認取れたのだ。
今後の契約は、これも非常に美人なのだがアリアさんという女性が代表を務める管理会社になるということが確認取れた。
その管理会社のオーナーであり、油田工区の所有者であるのが先程紹介された日本人でありスレイマン王国の貴族でもある本郷直人様だ。
私は安心したと同時に一瞬で恋に落ちた。
そう表現するしか私は知らない。
なにせ学生時代から異性に関して興味などなかったのだ。
親友である榊も一緒だ。
なにせ小さい時から見てくれだけはさんざん褒められて育ってきた。
中学生になると遠慮のないガキ(同級生)からは毎日のようにいやらしい視線を向けられ、男性教師からもセクハラで訴えたいくらいのことをされてきたのだ。
おまけに女性教師からは嫉妬のような視線を浴びせられ、本当に勘弁してくれと思いながら育った。
そんな私が直人様に出会った瞬間から一瞬で、この人ならと、運命の人だと感じてしまった。
彼からは一切のいやらしい視線を感じない。
振る舞いはたどたどしく、とても洗練されているとは言えないが、なぜだか新鮮なのだ。
声からは誠実さが伝わって来るし、態度も精一杯礼儀を意識しているのがなぜだか可愛らしかった。
しかし、何故だか彼には、どこか芯のしっかりしたものを感じるし、死線を越えたことのあるような一種の影もその奥に感じる不思議な人だった。
それから何度も彼に会う機会があるたびに私はどんどん彼に惹かれていくのがわかった。
本契約を本社で行ったあとのレセプションで私は思い切って彼を悩殺するつもりでかなり大胆なドレスを着込んでパーティーに望んだのだが、残念なことに彼はこういった表舞台には一切出ないとのことで、あの日はかなり落ち込んだのを覚えている。
親友のマリコ、同じ会社の投資部門にいる榊マリコに遅くまで慰められた。
マリコも私の初恋の人に興味を持ったのかあの日はかなりしつこく彼について聞かれた。
そのあと紆余曲折を経て彼の日本法人代表のイレーヌさんとも友好関係ができ、ついには自分が抱えている思いを相談してみた。
薄々感じていたのだが、このイレーヌもまたどうすればこれほどの美人ばかりを集められるのかというくらいの美人で、しかも直人様の女ということをその時に聞かされた。
初恋もこの時に終わったと、泣きたいくらいな気持ちを抱えて酒をあおるように飲んでいたら、マリコも同じ気持ちのようだったのだが、その二人にイレーヌは驚くばかりの提案をしてきた。
「乃理子、マリコ二人共、私たちの仲間にならない。」
「私たちの?」
「仲間?」
私にはイレーヌが何を言っているのかわからなかった。
一緒に聴いていたマリコも同様のようだ。
詳しく聞いていくと、驚いたことにイレーヌを始めあのかおりさんもアリアさんも直人様の女だというのだ。
それだけでなく直人様にはイレーヌを含め22名の女がいるという話だ。
その仲間に加わらないかというお誘いだ。
直人様を独占できないのは仕方がないのだが、私も直人様の女に加えてもらえる。
この話を聞いた時にはどうかしていたのか、非常に魅力的な話に聞こえイレーヌの提案をマリコと二人で受けた。
その後の段取りはイレーヌにしてもらい、GWに何故だかグアム行きのチケットとメモを受け取った。
メモには私でも知っているグアムで一番だと思われる高級ホテルの名前が書かれてあり、そこに行けというのだ。
話は通してあるので、そこで直人様に抱かれろと言われた。
その後のことについては夢のようであったので、よく覚えていない。
とにかく素晴らしいひと時だったことだけを覚えている。
あの夜に私は初めて自分が女であることを知ったようなものだ。
女の幸せを体中で感じ、とにかく幸せだった。
今もその幸せの余韻を感じながら成田に向かう飛行機の中にいる。
隣で寝息を立てているマリコも幸せいっぱいといった表情を浮かべている。
私は今幸せの中にいると断言できる……できるが心配事が無い訳じゃない。
このあとも直人様に愛していただけるのかということだ。
確かにあのひと時の経験だけでも、今まで生きてきた価値はあると言えるが、欲張りな私は、この後もずっと直人様に愛していただきたい。
それが無理ならせめてそばにいることだけでも許してもらいたい。
そう思えて仕方がない。
あの時イレーヌは仲間になれと言っていたが、本当に仲間になれるのかが心配だ。
そんな複雑な気持ちの整理もつかずに乗っている飛行機は、深夜の成田に着いた。
帰国に審査を終えロビーを出たときに驚いた。
なんとイレーヌが私たちを待っていたのだ。
「おかえり、乃理子、マリコ。
うまくいったようね。
あなたたち本当に良い顔をしているわ。
とても魅力的にね。」
二人共イレーヌの言葉を聞いて顔を真っ赤にしながら自分の顔を触ってみたりお互いの顔を見合ったりしていた。
「帰国早々で悪いけど、この後重要な予定でもあるの。」
「重要な予定?」
「そう、簡単な件なら悪いけど後回しにして、私に付いてきてちょうだい。」
「私は別にないわよ。」
「私もよ。」
「それなら良かった。
今回の件であなた方も私たちの仲間になったのよね。
色々とノロケを聞きたいわ。
場所は用意してあります。
これから向かうわよ。」 と言ってイレーヌはロビー横の車寄せに待たせてあるワゴン車に私たちを連れて行った。
私たちを乗せたワゴン車はそのまま一路箱根の高級温泉宿に向かった。
その後2泊3日で精一杯グアムでの逢瀬の件や直人様を好きになったきっかけなど日本にいる直人様の女性たちを前で披露させられた。
恥ずかしかったけど、なんだかこれで本当に仲間となった実感を持てた。
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