第39話 プレ事務所開き?


 すっかり準備が出来上がったようだ。

 この部屋でバイキングスタイルの昼食をとるとは思ってもみなかった。

 もうこれは事務所開きでいいんじゃね、とも思った。

 そうなると、シャンパンが欲しくなるよと周りの大人たちはささやく。


 イレーヌさんに聞いたら、この後これといった緊急の仕事はないのだとか。

 それなら、乾杯してからの食事でしょ。


 「かおりさん、食事の前に乾杯したくありませんか。

 イレーヌさんが言うにはこの後緊急の仕事はないのだとか。

 それなら昼からですけどアルコールもいいよね」


 「そうですね、注文しますか」


 「かおり、その必要はないわよ。

 ちゃんとあるから、それを使いましょう」 と言ってイレーヌさんが隣の部屋に入っていった。


 扉が空いた時にちらっと覗いたのだけれど、隣の部屋はここの輪をかけて豪華に作ってある。

 一体何の部屋か心配になってきた。


 「ピンポ~~~ン」


 突然チャイムが鳴り響いた。


 「これって、何の音ですか」


 「受付に来客があったようです。

 私が見てきます」 と言って、ネコさんチームで唯一の日本人である葵が受付に向かった。


 「誰か来たようね」と言いながらシャンパンを数本持ってきたイレーヌさんが言った。

 

 「直人様、お客様をお連れしました。

 榊様と花村様です。

 直人様がお着きになったと聞いてご挨拶と、事務所開きに向けて何かお手伝いをと申し出てくれています。

 お食事を聞いたらまだだというのでお誘いしました」


 「こんにちは、本郷様」

 「本郷様、これからは、いろいろとお付き合いよろしくお願いします。

 葵様よりお誘い頂き、図々しくもお誘いにのってご相伴にあづかります」


 「こんにちは、花村さんと榊さん。

 その節は色々とご尽力頂きありがとうございます。

 私がいない間にすっかり事務所が出来上がっていましたので、簡単に食事と思いましたが、勢い余って、プレ事務所開きパーティーのようになっています。

 遠慮なさらずにご一緒しましょう。

 今イレーヌさんがシャンパンを用意してますので、乾杯でもと思っていたのですが、おふたりは大丈夫ですか。

 もしダメなようならジュースを用意していますけど」


 「大丈夫よね、この後はこちらでと言ってきてあるから。

 花村は?」


 「私も大丈夫よ。

 直帰扱いで本社を出てきてるからね。

 でも、昼からシャンパンか。 

 豪勢ね、イレーヌ」


 「いらっしゃい、マリコに乃理子」

 え、いきなりファーストネーム、なんで。


 俺の疑問を横に居る葵が答えてくれた。

 「ここで事務所を準備している間で色々とおふたりが良くして下さり、今ではすっかりイレーヌさんと仲良くなられております。

 今日ここに来たのも事前に連絡していたかもしれませんね」 


 そんな会話をしているうちにすっかりシャンパンの準備が整っていた。

 「直人様。

 乾杯のご発声をお願いできますか」


 イレーヌさんから頼まれた俺は、グラスを手に取りみんなに向けて挨拶をした。

 「今日は、わざわざ海賊興産様から花村さんと榊さんという美人がお越しいただいたので、気分だけでもプレ事務所開きという感じで、これまで準備をしてくれた人たちや、今日お越しのお二人に感謝を込めて『乾杯』」

 「「「かんぱ~~い」」」


 あちこちからグラスの合わさる乾いた音が聞こえ食事会は始まった。


 

 みんな散らばってバイキング形式の食事を楽しんでいる。

 俺も一通り食事を終え、みんなの様子を楽しそうに眺めていた。


 「直人様、お食事はもうよろしいので?」


 「うん、たくさん食べたからお腹いっぱいだよ。

 それこそ、かおりさんはいいの。

 僕に構わないで今日くらい楽しんだら」


 「十分に楽しんでおりますわよ。

 直人様が食事をお済みなら、事務所を見て回りませんか。

 私は見たことがないので」


 「そうだよね、ずっと僕と一緒なら見れなかったよね。

 でも勝手に見て回ってもいいのかな」


 そんなかおりさんとの会話を聞いたのかイレーヌさんが案内を申し出てくれた。

 「直人様、食事がお済みなら私がご案内します」


 「え、花村さんたちとお話していたよね」

 「いえ、私たちのことはお気になさらずに」


 今さっきまでグラスを片手にかなりハイピッチでイレーヌさんと花村さん、それに榊さんが楽しそうに飲んでいた。


 なんだか、あの三人は気が合いそうに見える。

 気のせいか仕事のできるスーパーレディーなのは間違いないのだが、なんだかあの三人は同じ匂いを直人は感じていた、

 そこはかとない残念臭が匂ってきそうだ。

 何故なんだろう。


 「花村さんと、榊さんはこの事務所はもう見ていますか」


 「いえ、何度かお邪魔はさせていただきましたが、きちんと完成した形では見たことがありません」


 「それでは、もしよろしかったらお一緒に見て回りませんか。

 イレーヌさんが、精魂込めて準備した事務所ですから、みんなで拝見してイレーヌさんを慰労してあげたくて」


 「よろしいのでしょうか」

 「本郷様がそうおっしゃってくださるのなら、お願いできますか」


 見て回るといってもビル内の一角だ。

 そんなに部屋があるはずはない。

 受付スペースのすぐ後ろに、応接室が2つあり、その反対側にこの多目的室がある。

 応接室と廊下を挟んである多目的室の奥に事務スペースと、社長室がある。

 当然、社長室には社長応接間であるが、割とこじんまりしていた。


 「こんな感じで作りました」


 「うん、かなり使い勝手が良さそうだね、でも事務スペースが広すぎない。

 まあ使い勝手が良ければいいか、あとはお酒を取り出していた場所だけかな」


 「え、あそこも見ますか」

 

 「イレーヌ、見せてはダメな場所があるのですか」


 「直人様に隠し事はありません」


 「部外者に見せてはダメとか、遠慮しようか」


 「え、そうなの」


 なんだか煮え切らない会話が続く。

 とにかく俺自身が見る分には問題ないといったので、俺が一人で部屋に入っていった。


 「なんだこりゃ~~」

 俺の叫び声で、全員の会話が止まり注目を集めてしまった。


 その部屋は30人が入って宴会できるような多目的スペースと同じ広さがあり、南面と東面の2面に窓がある角部屋だ。


 見晴らしのよい窓際には立派なマホガニーの机と、いったい誰が座るんだよと言いたくなるくらいの立派な椅子があった。


 ちょうど窓と反対側の壁際にはバーカウンターがあり、それこそ銀座のバーが再現されているようであった。


 お酒はここに蓄えられていたやつを出したらしい。


 これだけでもかなり驚くのだが、

 流石に俺はこれくらいでは叫び声をあげ無いくらいには耐性が付いていた。


 俺を一番驚かせたのはその奥にあるダブルベットとトイレ付きのシャワールームがあることだった。


 すぐに直人はこの部屋の用途を理解した。


 俺の事務スペースにはなっているようだが、真の目的は『やり部屋』だ。

 そう、自家用機の個室を立派にしたあれのための部屋だ。


 一応、仕切りで区切れるようにはなっているが、どうだかな~~。


 俺の叫び声が、部屋に入ったことだと理解したネコさんチームの全員が、「やはりあれはやりすぎでしたね」 とあった。


 「でも、私はあそこでもしてもらいたいかも。」

 などとも話している。

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