第31話 深夜のお茶会

 

 午後8時過ぎに部屋に食事を用意してもらい、かおりさんと二人で夕食を取っていた。


「おそくなったね。

 ごめんなさい」


「いえ、直人様。

 今日は本当に直人様から求められて、自分が女だったということを思い出した気がします。

 こちらこそ、本当にありがとうございます。

 でも、今日のことはみんなには内緒ですよ。

 でない直人様が大変なことになってしまいますからね」


「大変なこと?」


「20人全員に今日のようなことはできないでしょ。

 そんなことをしたら直人様は死んでしまいますよ。

 冗談抜きに」


「そ、そうだね。

 ある意味男としては幸せかもしれないけど、まだ死にたくないしね。

 節度を持って生活していくようにするよ」


 夕食の時にそんな会話をしていたのだが、そのあと露天風呂で奉仕を受けたお返しに1回、その流れで、そのまま布団に入ってから2回と息子が大暴れして、息子は、温かく気持ちの良い蜜壷の中で果ててからそのまま寝てしまった。


 翌朝は、俺より少し早く彼の息子が目を覚ます。

 そこはなんととても気持ちの良い蜜壷の中だった。

 息子はわれを忘れ大暴れをして中から多くを吐き出し落ち着いた。


 その頃になってやっと俺が起きだした。


「直人様、おはようございます」


「かおりさん、おはよう。

 今日もよろしくね」


「はい、夕方には羽田に飛行機が着くことになっております。

 ですので、申し訳ありませんが、式の後には、時間があまりありません。

 もし、謝恩会などが計画されておりましても…」


「大丈夫だよ。

 多分謝恩会はあるはずだけど、僕は出ない。

 たとえ今回のようなことが無かったとしてもね。

 だから気にすることはないよ。

 着替えたら学校に行こう。

 ここからだと少し距離があるけど、タクシーで学校まで乗り付けたくはないからね」


 かおりさんと食事を取ったあと、ホテルをチェックアウトして、学校に向かった。


 かおりさんは俺の親戚の扱いで卒業式に出ることにした。

 かおりさん曰く、不測の事態に備えるとのことだったが、不測ってなんだ。

 また大明共和国の連中が仕掛けてくることはないだろう。


 でも、とにかく式にでられる格好で一緒に学校に向かった。


 学校では受付を済ませると一旦かおりさんと別れ、俺は自分の教室に向かった。


 教室に入ると、一斉に俺に注目が集まった。

 そりゃそうだ。

 なにせ一流大学に早々と推薦で入学を決めたら、そのあと一切の音沙汰がなければやっかみもあるだろうが気にはなるだろう。


 それでも直接俺に話す人はいなかった。


 いや一人だけ例外がいた。

 梓である。


「おはよう、直人くん」


「あ、おはよう」


「ところで、色々と聞きたいのだけれど、ここじゃダメだよね」


「そうだな。

 ここじゃまずいな」


「謝恩会の後に時間取れないかな」


「ごめん、俺、謝恩会には出ないで、東京に向かうよ」


「え?

 なんで」


「元々謝恩会には出るつもりなどなかったけど、あの時に話した通り、今仕事をしてるんだ。

 その関係でほとんど時間が取れない」


「どうしよう、それじゃ、直人くんに連絡が取れないよ」


「あ、俺、仕事先から携帯を持たされているからそこに連絡くれればいいよ。

 来月には大学で会えるしね、その時には絶対に時間をつくるから」と言って、俺と梓はお互いのスマートフォンを使って連絡先を交換していた。

 そのあとすぐに俺の教室に俺らの担任が入ってきて、梓とはそれ以降話す機会がなかった。


 式は粛々と進んでいき、ほぼ予定通りの時間に終わった。

 卒業式会場は問題無くとはいえなく、ちょっとした騒ぎがあった。

 なにせ、そこらの女優でも太刀打ちできないような美人が保護者の席にいるのだから、いくら目立たないようにしていたって、どうしても目立つ。


 かおりさんの噂でちょっとした騒ぎはあったが、無事に式が終わった。

 その後あちこちで記念写真などを撮ったり、友人との別れを惜しんでいた生徒がそこらじゅう、に居るなか、俺だけは早々と学校を出ていた。


 少し離れた位置でタクシーを拾い、そのまま駅に向かった。


 俺とかおりさんは、どこにも寄らずに直接羽田に向かったのだが、それでも羽田に着いたのは午後6時を回っていた。


 羽田では最初に訪日した時にも使った部屋に入った。

 そこでは既にイレーヌさんが女性たちを連れて待っており、更には、ボルネオで留守番をしていたウサギさんチームもいた。

 そう、日本に残るイレーヌさんのためにネコさんチームと入れ替わりに日本にやってきたのだ。

 ボルネオで今なお頑張っているアリアさんがリスさんチームを連れて先に帰ったので、今回交代要員としてウサギさんチームが日本に来れたわけだ。


 俺たちはパイロットの休憩と給油等の準備が整い次第、ボルネオに帰っていく。

 そのわずかの時間に、日本に残るチームの引き継ぎが行われていた。


 彼女たちは当分の間、来月から俺の新生活のための拠点整備に全力を挙げて取り組むことになっている。


 これからは日本とボルネオのニ重生活になることが決定しており、既にアリアさんたちが役割を決めているようだ。


 日本には必ず1チーム以上を残し同様にボルネオにも1チーム以上残すことになる。

 各チームはローテーションを組んで頻繁に入れ替わることになっており、基本的にはボルネオではアリアさんがみんなをまとめ、日本ではその役をイレーヌさんが行う、俺のそばには原則かおりさんが秘書として付き、必要に応じてチームの応援を仰ぐという、ほぼ完成されたような役割分担が出来ていた。


 本当にすごい人たちだと、つくづく感じていた。


 俺が羽田に着いてから1時間もしないで、準備が整ったとの連絡を受け取った。

 パイロットの人たちの休憩は十分だったのだろうかと俺は密かに心配したのだが、イレーヌさんがそんな俺に優しく教えてくれた。

「私たちはここ到着して3時間ばかり立ちました。

 当然パイロットもそれくらいの休憩時間は取れているはずですよ。

 あ、飛行後と飛行前の機体チェックで30分くらいずつ取られるそうだから、休憩時間は2時間というところかしらね。

 大丈夫よ」


 5時間飛行で2時間休憩、さらに5時間の飛行というのもどうかね。

 この話を聞いた俺は、つくづくパイロットの人員強化の必要性を感じていた。

 俺が時間の許す限りの飛行訓練も、その足しにでもなればという気持ちで始めているのだが、最低でも機長2人に副操縦士1人の体制だけは作って行きたい。

 現状のパイロットもボルネオ空軍からお借りしているので、3人以上のパイロットを近々に雇うように検討を始めた。


 ということで5時間かけてボルネオに戻っていった。

 当然機内の個室ではかおりさんも含め4人がそれぞれ1時間ずつ俺との逢瀬を楽しんでいた。

 俺が若いからいいようなものの、大丈夫かというくらいの性豪さを誇っている。


 羽田出発が午後8時すぎだったもので、ボルネオ到着がちょうど深夜1時に到着した。


 普通ならここから入国審査などで時間がとられるところなのだが、ほとんど王室扱いで、あっという間に入国でき、皇太子府に着いたのが深夜1時過ぎだという時間だ。


 これならまだ深夜という感覚がない。

 都内の繁華街ではそろそろ終電がという時間だろう。


 そのまま西館に入ろうとしていたら、本館ではまだ仕事中のようなので、本館に俺とかおりさんだけがまわり、殿下に帰国の挨拶をしに行った。


 本館ロビーで殿下付きの執事の方に殿下の執務室まで案内してもらった。

 深夜1時過ぎというのに、まだマホガニー製の大きな机を挟んで盛んに議論している殿下がいた。

 その議論の相手がなんと先に帰ったアリアさん。


 2人同時に俺たちに気がつき驚いた顔をしながら、一息入れようと執務机から離れ、近くの応接ソファーに座り直した。


 俺は、殿下に帰国の挨拶をしたら、殿下からは最初に卒業のお祝いのお言葉を頂いた。


「直人、無事卒業したんだってね。

 おめでとう。

 それから、これだけは言わせて欲しかったんだが、今回の一件では、本当にありがとう。

 ボルネオ王国国民と王室に代わりお礼を言わせて欲しい」


「いえ、私の方こそ。

 今までエニス王子や私に対してくれた数々の御恩もあり、それに報いようと勝手にしたことで、殿下にご迷惑をおかけしてしまったようで、申し訳ありませんでした」


「いや、初めは陛下よりお叱りを受けたが、実態が明るみになるにつれ、かなりのことだと政府一同全員が認識を改めたよ。

 陛下も、今回の一件では直人たちに感謝してもしきれないとまで言っておられた。

 いずれ、王宮から何かしらの沙汰があるかと思うが、とりあえず伝えておくよ」


「殿下、それにしても毎日こんな遅くまでお仕事を?」


「いや、今日だけは特別さ。

 もう昨日になるか、夕方に今回の件で、詐欺容疑で逮捕した連中の身柄をかなり強引に要求してきた大明共和国のことについて、国民に向かって記者会見で発表したのだよ。 

 それに先立ち、政府外交部から正式に大明共和国に対して抗議を行ったしね」


「それは随分思い切ったことをしましたね。

 素人の私でも大事になりそうだと思います」


 お茶を飲みながら今日の出来事を聞かせてくれた。

 今は、その対応と、今後の展開についての詰を行っているとかで、多分徹夜になりそうだとも言っていた。


 当然明日のそれも早い時間には何かしらのアクションが大明共和国から取られるだろう。

 それを受けて、ボルネオ王国としては、大明共和国に対して経済戦争を仕掛けるとまで決定していた。


 具体的には、既に動いているが、ボルネオ王国が大明共和国に対して行っている資本をすべて引き上げ、それを、今回の不誠実な対応の報復として行うと発表するつもりのようだ。


 その発表を受ける形で、スレイマン王国の王室からも友好国に対する不誠実な対応をする国は信頼が置けないとして、資本を引き上げる発表をすることになっている。


 こんなだいそれたことをすれば素人の俺でも分かるが、世界経済に対してかなりのダメージを与えてしまうだろう。

 そう『大明ショック』とでも言われるような大経済事件だ。


 今日の記者会見を受け、勘の良いファンドマネージャーは対策を講じ始めるだろうが、全く被害を受けないでいることなど難しい。

 当事者であるボルネオだって、無傷とはいかないだろう。

 資本を引き上げるといってもすぐに全部を引き上げられるものじゃない。

 その対策を練っている最中だそうだ。


 そのあたりはエニス王子の女性たちやアリアさんたちがかなりのノウハウを持っており、現在、市場関係者にバレない範囲で資本の引き上げを行っている最中だ。


 次の手段として、逆張りと呼ばれるオプション取引に、かなりのレバレッジを効かせて設定している最中だそうだ。


 表向きの損失を、このオプションでカバーしようという戦略なのだ。

 しかし、これも市場関係者に見つかれば出来ない相談だ。

 そう、これは完全にインサイダーなのだが、誰もそんなことを気にしてはいない。


 とにかく、大明共和国からのアクションがあるまでに仕掛けてしまわないといけないそうだ。

 ボルネオ王国と大明共和国との関係が決定的になる前までに仕掛けだけは済ませないといけないらしい。


 とにかく今は、その対応だけで手一杯だとアリアさんが零していた。


 午前2時には深夜のお茶会は散会した。

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