第28話 大明共和国のなりふり構わない対応 

 

 とりあえず、今の俺には、これ以上の仕事はない

 ゆっくりとできるので、良い機会と捉え、ボルネオに残してきた女性たちに、昨日の話し合いのことを話しておいた。


 向こうでも泣き出す女性もいたようだが、それは俺の配慮が殊のほか嬉しかったのだと留守番を任せているアイさんが教えてくれた。


 出来た時間を利用してどうしていくかをじっくりと考えていた。

「かおりさん。

 ちょっと相談してもいいですか」


「相談?

 あ~、あの子達のことね。

 どうするおつもりですか」


「あの子達には一人ずつ抱いていくつもりだ。

 しかしそれだけではとも考えています」


「直人様、それではどうしましょうか」


「かおりさん。

 今思いついたのだけど、あの子達を抱く時に、綺麗なドレスを着せて俺のところまでひとりでこさせることできますか」


「それは可能ですよ。

 ドレスを着た女性を抱きたいのですか」


「そ、そうだけど。

 それで、もしそのドレスをウエディングドレスでも可能ですか。

 あの子達が嫌がらなかったら、初めてはウエディングドレスを着た状態から優しくしていきたいと思ったのだけれど」


 …………


「どうしたの」


「私もひとりの女性だということを感じておりました。

 あの子達にちょっと嫉妬したかも。

 直人様のお考えは多分可能ですがね~」


「なにか含むところがありそうだね」


「私が嫉妬したように、前に抱いた女性たちが嫉妬するかもしれませんよ」


「それじゃ~あの子達全員を抱き終えるまで、全員を一人ずつウエディングドレスを着た状態で抱くというのはどうかな」


「そうですね。

 とにかく私だけじゃなくまずはアリアやイレーヌにも聞いてみましょう。

 その返事を待ってからでもいいですか」


「そうだね、とにかくあの子達以外の女性たちにも意見を聞いてみるよ」


 直人の出したアイデアは結構いい線をいっているようだが、前に来た女性との扱いの差に問題が出そうだと指摘されたので、他の人にも聞いてみることにした。


 それからボルネオにいる女性たちとも頻繁に電話等で相談を重ね、新人さんたちは概ね俺の提案通りとし、アリアさんを含む残りの女性たちにも交代で半日の間、俺と自由に過ごす権利を与えることで話がついた。


 この自由にする件だが、正しくその通り自由に俺と過ごしてもらうことを意味している。

 ず~~と裸でベッドで過ごすことも自由だし、街を恋人のようにデートをして、ホテルでしっぽりするのも自由、新人さんたちのようにウエディングドレスを着て結婚式のように過ごすのも自由にするということだ。

 全員がいっぺんにその権利を取られると、仕事が回らなくなるので、それは予約制とし、日程の管理についてはアリアさんたちに一任した。


 そんな感じで26日も無事に終わっていった。


 翌日は、ちょっとしたトラブルがあった。

 ボルネオ王国で拘束した大明共和国の容疑者の身柄を大明共和国の大使が正式に引き渡しを政府に要求してきたと連絡が入った。


 彼らは、しっかりとした証拠のある犯罪者であり、身柄を引き渡す理由はボルネオ王国にはない。

 しかし、要求してくる大明共和国には切実な理由があって、何が何でも身柄を引き取り、本国で匿う必要がある。


 国際社会での大明共和国の立ち位置が最近非常に微妙になってきている。

 例の「海のシルクロード計画」で、先行して大明共和国が関わっている中小の国のほとんどが参加したことを後悔し始めている。

 後悔したからといって今更辞めることができない。

 しっかり債権を握られているので、例えが悪いがヤクザに借金して身ぐるみを剥がされるのを待ってる様なものだ。


 しかも、ここに来て2カ国ばかりの国でデフォルト騒ぎがあった。


 こういった場合でも大明共和国は資金を再投入して凌ぐかと思われていたのだが、どうもそれができなくなっているようだと、国際金融の世界では見られるようになってきた。


 これがどういうことを意味するかというと、要は大明共和国が外国から借金ができなくなりつつあるということだ。

 その様な状況にある中で、先の詐欺の対応での日本での消毒事件がある。

 これはマスコミには決して流れることのない情報なのだが、日本政府が行った消毒で、大明共和国だけでなく、コロンビア合衆国までもが手痛い被害に遭っているのだ。

 ペトロ共和国にしても同様で、この2カ国からの風当たりが急に厳しくなってきている。

 今朝のニュースではコロンビア合衆国の報復とも八つ当たりとも取れることなのだが、何かしらの口実をつけて貿易関税の引き上げを検討しているそうだ。


 ただでさえ借金が出来にくくなってきているのに、収入までダメージを食らいそうな状況に今の大明共和国は陥っている。


 どんな状況でも国ぐるみの犯罪行為が明るみにできないのだが、そういう状況下にあっては、資金供給できる国に対しての国ぐるみの詐欺行為の顕在化は大明共和国にとって致命的だ。

 裁判などもってのほかだ。

 是が非でも裁判だけは阻止しなければならない。

 状況が許せば戦争でもと考えている政府高官すら出てきかねない。


 尤もそれができるようなら詐欺行為などしなかっただろうが、大明共和国の政府がかなりの危機感を持って今回の件の火消しに走っているというのだ。


 今はまだ大使からの公式外交ルートでの要求なのだが、すぐにエスカレートしていくだろうといのがボルネオ王国政府の見解だと聞いた。


 その様な時に皇太子が非公式での外遊など許される訳もなく、今日中に帰国すると言ってきた。


 それを聞いた俺たちはすぐに皇国ホテルに向かった。


 皇国ホテルのロイヤルスイートに直人たちが入るとすぐにエニス王子が傍まで来て、

「直人、ハリーの国が大変なことになっているようだ。

 ハリーはすぐに帰国するために今飛行機を呼び戻しているところだ。

 私もハリーと一緒に帰国することにした。

 まだこの事件は終わっていない。

 わたしは最後までハリーに協力していきたい」


 俺はエニス王子の言葉を聞いても賛同するしかできない。

 俺が何か言おうとしていたところでアリアさんが話しかけてきた。


「このような時に私のような者が発言することをお許し下さい」


「アリアか、何だ、思う所があるのなら遠慮なく言うがいい」


「ありがとうございます、エニス殿下。

 では、私の話を聞いてください。

 私も、あれで終わったとは思っておりません。

 何かしらのアクションが近日中に大明共和国側からあるだろうとは思っておりましたが、あちらはかなり焦っているようですね。

 外交儀礼上許される範囲を超えてきております。

 もうなりふり構わないで火消しに走っているようです。

 そんな折に、中途半端な対応を取りますと後々遺恨を残すことになります」


「アリアさん、あなたはどういう対応が望ましいと考えるのか」


「私の意見を聞いてくださいますか」と言ってアリアさんがこの後の計画という名の謀略を話しだした。

 それを聞いた俺を含む男性陣は例外なく引いてしまった。

 あまりにえげつないが、これ以上考えられた計画はないだろうというものだ。


 その計画というのは、ハリー殿下が帰国後すぐに詐欺事件の件を一切隠さずにマスコミに公表する。

 その席で大明共和国側の人間を逮捕したことまで発表する。


 当然大明共和国側から何かしらの抗議に出るだろう。

 その抗議を待って、大明共和国の大使からの犯罪者の身柄の引き渡し請求があったことまで公表し、これに政府は応じないことまで発表する。

 その間、ボルネオ王国が大明共和国に投資している資本を秘密裏にできるだけ引き上げ、しばらく大明共和国との外交抗争を続ける。


 いいところで、ボルネオ王国が大明共和国に投資している資本を引き上げると発表する。


「そんなことをすれば、世界経済に影響が出かねない」

 エニス王子もハリー殿下も同じことを言ったのだが、アリアさんは気にしていない。

 どうせ遅かれ早かれ同じようなショックは近々起こることになっていると言うのだ。

 大明共和国が描いた経済モデルが既に破綻しているとまで言っていた。


「我々の側の問題としてあげるのなら、世界経済の停滞現象の名前が『ボルネオショック』として歴史に名が残るくらいでしょうか。

 長くて3年、大方1年半もすればある程度の回復はなります。

 問題はその間耐えられるかというだけです。

 そのために時間を稼いでできるだけ資本を引き上げ、その上でできることなら、逆にデリバティブでも掛けて逆張りして儲けも考えていきたい」


 アリアさんの頭って本当にすごい。

 世界的なアナリストも凌駕するレベルじゃないだろうか。

 ま~ある意味インサイダーをやろうとしているわけだが。


 そこまで話すと、ハリー殿下が

「どこまで出来るかわからないが、大方の計画としては申し分ないな。

 どちらにしても国に戻ってこちらも態勢を作らないといけないな」 


「それには、私は全面的に協力することを約束しよう。

 スレイマンの本国とも掛け合って、ボルネオが孤立しないように協力するよ」


「ありがとう、エニス。

 では、本当に一緒に帰るということでいいのだな」


 ハリー殿下とエニス王子との間には強力な絆があるので、早々のことは乗り切れそうだ。

 俺がそんなことを考えていると、アリアさんが俺に向かって言ってきた。


「直人様。

 やりかけたこの件はまだ終わってはおりません。

 私も殿下たちと一緒に帰国することをお許し頂けないでしょうか。

 計画の草案を出した責任もありますし」


「かまわないよ。

 できれば俺も帰ろうかとも思ったのだが、俺がいても足でまといだろうから、アリアさんに任せるしかないな。

 ほかの人も必要な分だけ連れて行ってくれ。

 俺としては卒業式に出るだけなので、最悪俺ひとりでも問題ないからね。

 それよりも、エニス王子を殺そうとしたり、ハリー殿下をペテンにはめようとした大明共和国が許せない。

 絶対にあいつらをギャフンと言わせてやってくれ」


「ありがとうございます。

 では半数を連れて帰ることをお許し下さい。

 ディアナのグループを連れて帰ります。

 ハリー殿下、私たちも帰国にはご一緒させてください。

 ぜひもうしばらくお手伝いをさせてください」


「ありがとうアリアさん。

 それに直人君。

 今回の件は本当に君たちには感謝している。

 もう少し私に力を貸してくれ。

 アリアさんの申し出通り一緒に帰ろう。

 予定では3時には羽田に着くことになっている。

 遅くとも5時には羽田を発つつもりだ。

 そのつもりで準備をしてくれ」


「では、すぐに戻り準備にかかります。

 直人様、イレーヌとかおりと相談しましたが、二人は残しておきます。

 で、つきましては、直人様も3月2日にはこちらをって頂けたらと思っております。

 大明共和国が何をしてくるかわかりませんので、直人様の安全を考えますと、一度ボルネオにお戻りください」


 アリアさんから聞いたことはかなり物騒なことを言っているのだが、俺は慣れてしまったのかなんとも思ってはおらず、ただリスクとして管理していこうと思っているだけだ。


 ここでの話は終わったので、全員が忙しくなってくる。

 皇国ホテルに泊まっていた人たちは引き上げの準備に既に入っているし、俺たちも帰国組の準備と、引継ぎがあればその引継ぎなど、時間は既に午前11時を回っているので、余裕がない。


「では、次にお会いするのは羽田ですね。

 お待ちしております」

 別れの挨拶としてはかなり不躾なものとなってしまったのだが、俺たちはすぐにスイートを出て宿泊先のインペリアルホテルに戻っていった。

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