第27話 日本での拠点、事務所が決まる

 みんなが下がっていき、部屋にはアリアさんたち3人が残った。


「直人様、今日はびっくりなさったのでは」


「ああ、そうだな。

 人の気持ちって難しいな。

 それよりも、アリアさんとかおりさんの方が疲れたのでは。

 パーティーの参加までお疲れ様です。

 記者会見の件はテレビを見ていたので大体分かっていますが、パーティーの方の様子を伺ってもいいですか」


「アラ、ウフフフ、直人様って真面目ですね。

 あんなことがあったのに」


「からかわないでください」


「ごめんなさいね。

 では、パーティーの様子を報告しますね」と言われ、かおりさんの方から日本語で要点をまとめた報告を受けた。


 海賊興産側の社員がかなり頑張ってガードをしていたようだが、業界関係者の一部からはかなり攻撃的に絡まれたり、こちらにちょっかいをかけてきた会社の方からは謝られたりしていたそうだ。

 また、なんで業者主催のパーティーなのに産業省の役人も多数参加しており、こちらからはかなり文句を言われたそうだ。

 これを受け、アリアさんが更に産業省を攻撃しようと企んでいたので、直人は里中さんからの伝言を伝え、里中さんの方から産業省を抑えてもらうようにその場で電話をかけお願いをした。

 里中さんの方からはパーティーでの産業省の振る舞いについて謝られるが、これ以上こちらからの攻撃は勘弁して欲しそうなことを言っていた。

 報告の最後に政治家の参加者についてもあったが、こちらの方はいわゆる産業省族と言われる族議員の連中で失礼な役人以上に失礼な人しかいなかったそうだ。

 語るのも汚らわしいとばかりにあまり多くは語らなかった。

 よほど嫌な目にあったのだろう。

 俺はもう一度2人にお礼を言って、この件を終えた。


 ここで一息を入れようと、俺自ら3人に紅茶を入れ振る舞った。

 もっとも部屋に備え付けのティーパックのやつだが、それでも3人はまず驚いて、そのあとに非常に恐縮しながらお茶にした。


 お茶を飲みながら、俺はしみじみに今日の新人たちの件で反省の言葉を漏らしていた。

 それを横で聞いていたかおりさんが飲んでいた紅茶のカップを静かにテーブルの上に起き、優しく俺の頭をかおりさん自身の胸に抱えるように優しく手を差し伸べた。

 それを見ていたアリアさんとイレーヌさんも直人のそばに来て優しく抱きしめていた。


 誰かが気をきかせたのだろう。

 部屋の明かりを落とし薄暗くなった部屋で4人は抱き合って慰めるような優しい感じでまぐわい。

 そのまま朝を迎えた。


 ぴちゃぴちゃ。

 モグモグ。

 ぺろぺろり。


「あら、直人様。

 おはようございます」

「おはようングングございます」


「あ、おはよう。

 今日もありがとう」


 直人の天国生活の日常が始まった。


「名残惜しいですが、風呂の方へ。

 あちらでも待ちきれない子たちが待っておりますから」


「私たちだけで独占できればいいのですがね~。

 直人様があの人数をご希望されたので、独占するとね~」


「あちこちに色々と問題が出てきそうなので、私たちも我慢しますので、こちらにどうぞ」 と、かおりさんとアリアさんに手を引かれて風呂場まで連れて行かれた。

 風呂場でも先輩格の女性たちがあられもない姿で控えていた。

 例の新人さんたちはダイニングスペースで、食事などの準備を手伝っているようだ。

 これは俺の希望なのだが、彼女たちの扱いは、俺が抱くまでは彼女たちの性的なサービスはもちろん、あられもない姿も見るつもりはなかった。

 昨日の件があっても、この生活は続いている。


 風呂場でも俺は………


 これは心地よい疲れと言っていいものだろうか。

 ま~~ご想像の通りの朝風呂であった。


 ボルネオに居るときには朝は殿下たちと一緒の食事なので、お付きの女性たちとは同席しての食事は摂れないが、俺は可能な限り彼女たちと一緒に食事を摂るようにしているので、殿下やエニス王子のいない時には一緒に食事を摂る。

 なので、今朝も日本に来ている女性たち全員と席について朝食を楽しんだ。


 食事中に仕事の会話などはするつもりはなかったのだが、さすがに今朝だけは昨夜のパーティーの様子などが話題になった。

 しかし、どこそこの代議士がどうとか役人が邪魔しているだとかなどの野暮な話題は出ず。アリアさんのドレス姿やかおりさんの優雅な振る舞いだとか、特に話題の中心になったのが、花村さんのドレス姿だった。

 真っ赤なかなりセクシーなドレスだったようで、周りの男どもを魅了してやまなかったとか。

 でもそんな男どもを全く寄せ付けなかった花村さんは素敵だと評価している。


 かおりさんの見立てでは『直人様を魅了したかったようだ』と言っていた。

 『直人様がパーティーに参加しない』と聞いてかなりがっかりしていたようだとも言ってた。


 そんな明るい話題で朝食を終えた。


 俺はそのあとラウンジでゆっくりとお茶をしながらイレーヌさんに声をかけた。

 彼女の様子が少し暗めなのが気になっていた。


「イレーヌさん。

 ちょっとここで一緒にお茶をしませんか」


「直人様。

 はいわかりました」

 お茶を入れてもらって、ラウンジで並んで座って、少しの間、無言でお茶を飲んでいた。


「イレーヌさん。

 僕には何もできないかもしれませんが、話してはもらえませんか。

 問題を抱えていますよね」


「直人様。

 分かりますか。

 …………

 わかりました」と言って現在イレーヌさんの抱えている問題を教えてくれた。

 要は春からの俺の住まいが決まっていないのだ。

 居住性の問題ない物件では、場所が気に入らないし、場所が気に入っても条件の合う物件が見つからない。

 今回の日本滞在時間も残り少なくなっているのにイレーヌさんは徐々に焦りが出てきたようだ。

 俺は、前に決めていた貧乏下宿でもいいのだが、彼女たちは絶対にそれを許さない。


「どうだろう、まだ、入学まで1ヶ月以上あるのだし、どうせ、君たちも一部は日本で生活をするのだろう。

 なら先に君たちの活動拠点だけでも決めてしまわないか。

 住居は最悪ホテル住まいで、ゆっくりと探すというのはどうだろうか」

 俺の提案にイレーヌさんの目が光った。

 目からウロコが落ちる瞬間とでも言うのだろうか。

「直人様、それはいいお考えです。

 事務所ならどうにかなるかもしれません」


「そういえばネットで見たのだけれど、ここ羽根木インペリアルヒルズもまだ空きスペースがあるそうだよ。

 そうだよねアリアさん」

「なぜアリアさんにお聞きするのですか」


「だって昨日契約した海賊興産の木下常務がこぼしていましたよね」


「は?」


「ここの開発には海賊興産の投資部門も関わっているそうで、木下常務の後輩だったか先輩だったかは忘れたけど木下常務の知り合いが責任者をやっていると言っていましたよね」


「そういえばそのようなことを仰っておられましたよね」


「だったらここを紹介してもらおうよ」


「ここなら申し分ないです。

 ここなら多少条件が合わなくともすぐに契約を結びましょう」


 俺らの会話を聞いていたかおりさんがホテルの内線電話を取り上げてどこかに電話をかけていた。


「すぐに、ここにいらっしゃります」


「誰が?」


「下の階に控えています花村様が、すぐに来てくださるようです」

 そんな会話をしていたら部屋の扉をノックする音が聞こえた。

 葵さんが花村さんを連れてラウンジに入ってきた。


「おはようございます。

 かおりさんから呼ばれましたので、参上しました。

 何やらお困りとお聞きしましたが」


 早速本題に入ってきた。

 俺は花村さんにまずはソファーに座ってもらい、由美さんにお茶を出してもらった。


「実は4月から私がこの近くの大学に通うために拠点がこのあたりに必要なんですよ。

 なかなかいい物件が見つからなくて、とりあえず事務所だけでも確保したくてと思っていたのですが」


「それでというわけですか」


「はい、昨日の挨拶した時に木下常務にここ羽根木インペリアルヒルズに事務所の空きがあると聞いたものですから、その責任者の方を木下常務にご紹介していただけないかとご相談したいのです」


 そこまで話すと、そこからは話がどんどん進んで行く。

 花村さんはすぐに自分の携帯を取り出して電話をかけ、話をつけて行った。


 何件かの電話をかけ終わった花村さんは俺たちに向き直って、

「今日お時間を取れますか」と聞いてきた。


「私はいいですけど、イレーヌさんは」


「私は大丈夫です」

「わたしは直人様に付いていきますよ」


 アリアさんは、さすがにまだ例の件で大明共和国だけでなくコロンビア合衆国絡みで産業省職員対応の仕事がまだ沢山あるらしい。


 なので、お茶の後、イレーヌさんを責任者として俺とかおりさんが花村さんについて出ていくことになった。


 驚いたことに1階ロビーに俺たちが降りて言いた時には、ホテルの車寄せに前に乗ったことのある大型のワンボックスカーが扉を開けて待っていた。


 花村さんは何も躊躇せずに直人たちをその車に乗せ、海賊興産本社ビルに向かった。


 前来た時と同じように車はそのまま本社ビル地下駐車場に入っていったが、流石に今回はエレベーターホールでの出迎えはなかった。


 それでも秘書の方がエレベーターの扉を開けて待っていた。

 俺たちはほとんど待たずに本社ビルの48階にある役員専用フロアまで連れて行かれた。

 その48階にエレベーターが止まり扉が開くとエレベーターホールには秘書を連れた木下常務が待っていた。


「木下常務、お忙しい中このような急なお願いを聞いていただきありがとうございます」と俺が挨拶を始めた。


「いやいや、本郷さん。

 私の方が先日の愚痴を正面から受け止めてもらい、あまつさえビジネスの紹介までしてくださると花村から聞いております。

 油田開発じゃないので、私の専門外ですが、あそこの担当役員である私の後輩の大木戸がおりますので、このまま紹介させてください。

 その後は直接大木戸に相談くださればと思っております。

 どうぞこちらです」


 そう言うと彼の秘書が我々を案内するように大木戸常務の部屋まで連れて行った。


「大木戸、お連れしてきたぞ」と声をかけながら木下常務が大木戸常務の部屋をノックもせずに入っていった。

 横で、木下常務の秘書が苦笑いを浮かべていたが、俺たちを常務の後に部屋に案内してくれた。

 彼らの仲はかなり良いのだろう。

 いつもこんな感じだと思わせる態度だった。


「先輩、あ、すみません。

 大木戸です。

 どうぞこちらに」と大木戸常務はまだ紹介されていない俺たちを彼の部屋の応接に彼自身が案内した。


「本郷様、それにかおり様。

 彼があのインペリアル開発担当の大木戸です。

 あそこのことなら大概のことは彼に頼めばどうにかなりますので、この後は直接ご相談ください。

 大木戸、こちらの方はもう知っているな。

 私の大事なビジネスパートナーの方たちだから出来る範囲の限りでよろしく頼む」


 俺たちは、実に簡単な紹介されているような感じで始まったので、とりあえず自己紹介から始めた。


 紹介してくれた木下常務は本当に忙しかったらしく、我々を引き合わせたあとは花村さんに後をよろしくと言い残し彼の仕事に戻っていった。


 俺たちも急な訪問ではあったが、既に要件が花村さんと通して大木戸常務に伝わっているので、ソファーに腰をかけ、秘書の方がコーヒーを入れてくれる間に担当の社員が大木戸常務の部屋に入ってきた。


 その担当者というのも榊主任といい、花村さんと同期の彼女とは違った雰囲気のある美人である。

 どうもこの会社は、俺が美人にでも弱いとでも思っているのだろうか。

 俺絡みの窓口に当たる人に、仕事のできる美人を持ってくる傾向に有るようだ。


 もうこうなると、俺にはほとんど仕事がない。

 イレーヌさんと榊さんとの商談だ。


 丁々発止のあった後、インペリアルヒルズのオフィス関連でかなりロケーションの良い38階のフロアの角3ブロックを賃貸契約することができた。

 この時期のこんな条件の良い場所が確保できたかというと、この羽根木インペリアルヒルズの開発をきっかけに海賊興産の社内でも脱石油をキャッチフレーズにエネルギー開発だけでなく多角的な収益構造を構築していく動きがあり、海賊興産の子会社で投資専門に扱う会社と不動産会社を作りこの条件のよい場所にオフィスを置くために確保していたのだが、投資会社はセレブや要人との付き合いもあるので構わないが、不動産会社が高層階にオフィスを持つ意味があるのかと批判が入りスペースに空きが出ていたようだった。

 その空きスペースに俺たちの事務所を入れようと契約を交わしたのだ。

 不動産会社のオフィスは結局のところ規模を縮小して下の層階に構えるそうだ。


 ついでに俺の住居も確保しようと相談をしたのだが、俺ら側が希望する広さでは既に埋まってしまって無理だということだった。

 とりあえず、俺付きの女性たちの住居用だけは羽根木インペリアルヒルズ内のマンションエリアに確保できた。

 住居用ビルの42階続き部屋で3LDKを3世帯分これも賃貸契約を結んだ


 これで、イレーヌさんの最低限の仕事は終了した。

 イレーヌさんの顔にもどうにか笑顔も見えてきたので直人は安心したのだ。


 このあと大木戸常務に本社ビルの役員食堂で昼食をご馳走になり、車でホテルまで送ってもらった。

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