第17話 外務省の調査部門が動く

「そ、それは……非常にありがたいが、ひとつ確認させてくれ。

 なぜスレイマン王国が関係するのだ」


「はい、先ほど直人様からお話のあった襲撃事件の直接のターゲットがスレイマン王国第4王子であるエニス王子だからです。

 パリの襲撃もエニス王子を亡き者にしようとした犯行だと結論が出ております」


「ちょっと待ってくれ。

 パリの襲撃は日本人、そこにいる直人くんが狙われていなかったか」


「はい、直人様はギリシャ以来、偶然が重なったのでしょうが、度々私たちを襲撃者からお救いくださりました。

 その功績が認められ、スレイマン王国において貴族に陞爵されました。

 あら、今のお聞きしたいことはこれじゃありませんでしたね。

 済みません。

 これは報告書でも憶測の域は出ておりませんでしたが、度重なる襲撃を直人様お一人で防いでくださったので、襲撃者側が勘違いをされていたようです。

 直人様をエニス王子の凄腕のボディーガードとして」


「それなら、納得がいくな。

 それを私が見ても大丈夫なのか」


「はい、これは本国でも秘密扱いにはされておりません。

 私どもが危惧しておりますのは、直人様の貴族への陞爵がマスコミに漏れて騒がれることなのです。

 直人様の身辺が騒がしくなりますと春からの大学生生活に支障が生じる恐れがあります。

 私どもはそれだけは防ぎたいと考えております」


「大体、背景がわかった。

 とにかくここで得られた情報は格秘扱いとすることを約束しよう。

 見せてもらえるか」


「これです。

 ここでメモを取ることは認めますが、これを持ち帰ることやコピーなどはできませんので、ご容赦ください」


「いや、メモまで認めてもらえるのなら問題ない。

 いや各別の配慮だとも思っている」


 ………

 ………


「む~~~~~。

 そういうことか。

 あ、かおりさん。

 さっきあなたはこの報告書を表向きとおっしゃっていたようだが、これの裏の情報は掴んでいるのですか」


「あくまでも憶測でよっかたなら掴んでおります

 ご入り用でしたらお教えできますよ。

 ただし、これは聞く人によってはちょっとという内容ですが、お聞きになりますか」


「1次情報の判別はこちらでしますから、教えてくださるのならお教え願いたい」


「では、まず何故エニス王子がボルネオ王国にいるか、なぜヨーロッパで襲撃に合わなければならなかったから話さなければなりませんね」と言って、かおりさんはエニス王子の現状を簡単に説明して、今回の騒動に大明共和国の中東への進出の野望からエニス王子の持つ経済力の排除を目的とした一連の工作によるものだという話を聞かせた。

 最後にこのような悲劇が中東で起こる原因にコロンビア合衆国やペトロ共和国の覇権争いがあることまで説明して、日本がコロンビア合衆国と関係の深いことにも言及し、中東に必要以上に介入することの危険性まで説明したのだ。


 早い話が日本に合衆国と一緒に中東にちょっかいをかけるなと釘まで刺していた。

 かおりさん、すごい。


 その説明を聞いて里中さんは頭を掻きながら日本国政府の対応のまずさを詫びていた。


 最後まで話を聞いていた里中さんはメモ帳を閉じて、しばらく考えてからこう言った。

「中東の政治状況の複雑さはある程度掴んでいたつもりになっていたのだが、う~~む、そういうことだったのですか。

 かおりさんの説明を聞いてよくわかりました。

 私には権限などありませんが、少なくとも我が国は今のところ中東に何かしらのちょっかいをかけるつもりはありません。

 なにせ我国の石油のほとんどを中東からの輸入に頼っておりますから、八方美人と言われようが嫌われないようにするだけで精一杯なのです。

 私が知っている限り、少なくとも中東に関しては合衆国もあまり無理は言ってきませんし、仮に無理を言われても我が国はそれに従えません。

 そのことは合衆国でも理解していることだと思っています。

 お約束します。

 私が今の部署にいる限り、外務省は絶対に諜報戦を仕掛けたりはしません」


「里中様、ありがとうございます。

 先の憶測まで含め、大明共和国や高麗民国についてはエニス王子や直人様に影響が出ない範囲であればそちらで有効に活用していただいても構いません。

 スレイマン王国にもボルネオ王国にも国としては情報が拡散しても全くの被害はありませんから。

 問題は、お二人にどのように影響がでるかなのです。 

 私どもの関心はこの一点だけですのでご留意ください」


「わかりました。

 しかし、最初に話のあった件はボルネオ王国にも、それ以上に我国にとっては非常に重大な意味を持ちます。

 頂いた情報ですが早速使わせていただきます。

 ここで電話をかけますので近くで聞いていてください。

 もしまずい情報が出るようならその場で電話を切ってください」


「どちらに電話をお掛けするのですか」


「外務省の副大臣にすぐに一報を入れます。

 幸いここ皇国ホテルは室内の電話も交換台を通さずに外線に繋がる仕組みになっているのを知っておりますから、すみません、そこのお電話をお借りします」 と言って里中さんは電話をかけていた。

 日本語で周りにいる我々にも報告の内容が分かるように電話をかけていた。

 副大臣からは色々と質問も出たようだが、とにかく丁寧に説明をしているようだ。

 電話を切ると、里中さんは外務省に戻るが直人たちの予定を聞いてきた。


 かおりさんが明後日の4日に羽田から自家用機でボルネオに戻ると伝えた。


 翌日の3日はとりあえずやることがなくなった。

 そもそもお役所がやっていないのが敗因だ。

 俺はわかっていたが今までの生活では正月でもアルバイトをしていたために、完全に正月休みというのを失念していたのだ。

 昨日に大村さんや里中さんに会えたのが奇跡であり、その後の展開は奇跡を通り越してなんと言って良いかわからないくらいの幸運だといえよう。

 なにせ、今回日本に来た目的以上が昨日の話し合いで済んでしまった計算だ。


 よって昼間からただれた生活をしてもいいかなと考えていたようではあったのだが、俺以外の女性たちには別の仕事があるようだった。


 いくつかに分かれて行動することになったので、俺は本日俺付きのタリアさんと一緒に都内を散策することにした。

 せっかく来たけれども今は三が日の最終日、初売りの店はやっているようで、俺が子供時代に比べれば正月での開いている店は多くあるが、それでもやはり正月休みの雰囲気を漂わす街中を散策するのもと考えていたら、タリアさんから提案があった。


「直人様、直人様の行かれる大学を見てみたいのですが、いかがでしょうか」


「別にかまわないけど、中には多分入れないよ。

 正月だしね。

 とにかく行ってみるか。

 まずは近場からね」


「は?

 どういうことですか」


「俺にもどこで学ぶかわからないけれど、東都大学は都内にキャンパスが2つあるんだよ。

 どちらもまあまあの広さがあるから入れればそれなりに楽しめるだろうけれどもね。

 まず、ホテルに近い場所にある所から行ってみようか」 と言って上野駅から10分ばかり歩いた場所にある大学の正門前に来ていた。

 ここは受験発表シーズンではよくテレビに出る有名な場所で、俺と同じ年格好の多分受験生が願掛けのためか結構正門前に屯していた。

 やはり中には入れそうにないので、大学の周りをゆっくりと散策してから次のキャンパスに向かった。


 上野駅まで戻り電車に乗って30分ばかり途中何度か乗り換えをしたが、迷わずについたので少しホッとしている。


「直人様、こちらのキャンパスの方が緑も多く、落ち着いた環境にありますね。

 どちらのキャンパスで学ばれるのでしょうか」


「わからないよ。

 でも今のままだとゆっくりと大学生をできるのかな」


「そればかりは……でも私たち全員が出来る限りのことをしますし、昨日の話じゃないですが、大明共和国の方は陛下の方でとりあえず抑えているようですから、今のボルネオの案件が少しでも落ち着けば大丈夫かと思いますよ」


「ありがとう。

 そうだね。

 ここまで来たら、大学の下宿所も見ていくか」


「あの~、それは必要ないかと。

 私たちが3月までに責任を持って場所を確保しますから、お待ちください」


 俺にはわかっていた。

 庶民感覚では絶対に考えられない生活をしているので、春からの生活で前から考えていたような下宿所の生活は無いと。


「そうだね、近くでお茶して帰ろうか」

「それでしたら、近くの高層商業施設にでも行きましょうか。

 一昨日ネットで検索していたら、暮れにオープンしたばかりの場所がこの近くにあるそうなので」


「そんな場所があるのか。

 あれだな、あの高いビルが2棟並んで立っている奴だな。

 歩いていくか」


 今いる場所から徒歩で30分ばかりの場所にかなり賑やかな繁華街がありその中心的な場所にひときわ大きな真新しい施設があった。

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